思い返してみよう……。
彼女は言った。はわわわわ……と。
彼女のこの前のTシャツには『あいらぶチチ』と書いてあった……。
つまり、この俺のどこかにアイツは『父』という存在を見つけたのかもしれない。
あまり思い付かないのだが……。
さらに思い返してみよう……。
香住ちゃんに初めて会った時、何故笑われたのか……。
それはきっとティノの事で……。
あいつ、知ってたのか!!?!! という事実を確認しながら歩いて帰って来てるわけだが……。
ここは王都。いろんな人が居る。中でも目を引くのは負傷している方々だ。
目と頭を包帯で巻かれた五歳くらいの女の子が大人の男性二人に両手を握られ通り過ぎて行ったり、胸や腕、足に包帯を巻いてカッコイイだろ? なんて勘違いしてる男や女がいたり、ゾンビ! と言って遊ぶ子供がいたり、金髪の十三歳くらいのお嬢様風な少女が物珍しそうに止まっている馬車の中から近くにある店の品物を見ていたり、道の端で獣耳のお姉さんが必死になってチラシを配っていたり……。
よし、あのお姉さんの為にそのチラシをもらって来よう! そう思って歩き出した時だ。
「見つけましたよ! 江東さん!!」
その背後から大声に俺は足を止めた。
何てこった!! 何でこんな時にお前が現れる!! ティノ!!
「やあ、父さんっ子、よく見つけられたな……」
「はっ、ん!? どうしてその事を知っているのですか!!!」
魔法使いの女の子の姿をしているツインテールのティノが立派な杖でその顔を隠すようにしているが隠れてない。無意味だ、その行動。
「お前の姉さんから聞いたんだ」
「お姉ちゃん!!」
はっん! と言って、俺を見るティノ。何かこっちが窮地に立たされているような気がして来た。
「お姉ちゃんは他に何を言っていました?」
「いや、父さんっ子ってことだけを強調してた」
「お姉ちゃん……」
何か怒っている。この姉妹喧嘩に発展しそうな流れ……。うん、俺には関係ない。話を流そう。
それよりも大事な事がある。俺は直接手短に訊くことにした。その方が早く、悩む必要が減るからだ。
「俺に何を求めてるわけ?!」
「父さん!」
絶句した。即答過ぎて絶句した。
確かに俺の年齢なら子供がいたって不思議じゃない! だけど……。
「俺、こんな大きい子の父さんになれる気しないわ……」
「いやイヤ! 本当の父さんではなく! そうですね、そう! 江東さんにはあたしが甘えて良い存在だとして認識してくだされば!」
確か、リリーさんに初めて会った時も、その後も何回か言われていた。
うちの妹が迷惑かけていないかと……こういうことか……。
「あの! 江東さん?」
生きてますぅ? という顔をするティノ。分かったよ、俺は受け入れる。
「お兄さんとして接しよう!」
「嫌です!」
「じゃあ、おじさん!」
「い、いやです! 江
そこか!!!! お前はそこに『父さん』部分を見つけてしまったのか!!!?!!!
少しの葛藤の末、俺は口を開いた。
「ティノ」
「はい、何でしょうか?」
「俺は兄さん」
「いえ、父さんです」
「いや、じゃ、パパっ子で!」
「イヤです。父さん! 父さんが良いんです!!! 江
この子は何ていう子なんだろう! とっても聞き捨てならない子だ!!
「良いか、ティノ。お前の本当の父さんはな、どっかの勇者様と遠征に行ってるそうだ。だから、待てば必ず帰って来る」
「イヤです!!」
駄々っ子だった!!
「ティノ、お前は俺に何を求めてるんだ……」
「父さん!!」
もうまた一からやり直しだ……。これは言い聞かせるのに時間が掛かりそうだ。