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魔法学校の保健室で

 リリーさんの逃げ道となってしまったようだ。

 俺はそのままずっとリリーさんに手を離してもらえないでいた。

「あのリリーさん?」

「はい?」

「その……リリーさんの勤めてる魔法学校ってどこなんですか? 何気にさらっと王都とか言ってませんでした?」

「そうです。王都のギルド近くにあるんです」

「あのそこまでこれで行く気ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。すぐですから」

 でも確か王都まではここから徒歩で五十分……すぐってもんじゃない。

「あのリリーさん?」

「黙って!」

「はい!」

 おっかねー!! 何か知らんが集中している。それでも離されない手……。それにここ路地裏!?

「あの、リリーさん? 俺、逃げませんよ? だから」

 テレポート!!

 彼女の声により、地に魔法陣が浮かび上がり、その光が俺達二人を包み、路地裏から一瞬で王都へと飛んだ。


 *


 静かな所で俺が前に行った王都とは違う。

「ここは……」

「学校です」

 当たり前のようにリリーさんは言う。その顔はもうローブで隠れていない。

「あの、王都って言いましたよね?」

「ええ、ここは王都の中でも端の方にありまして、賑やかな音を遮断し、集中して出来る環境となっております。今日は休校日で校長ぐらいしか居ないでしょう。その校長も見回りに行っているようですし、好き勝手できそうですね!」

「え!?」

 彼女はこんなに生き生きとした人だっただろうか。もっとこう、誰かにやられてはひぃーひぃー言っているような不憫な女性だったではないか……。

「どうしました?」

「いえ、何だか今日はとても違う人みたいで」

「え、そうですか……ちょっと浮かれてますかね……」

 かあ~っと一瞬で赤面した。何故?! でも、そういう所もカワイイ!! ので、これ以上、つつくのは止めよう。

「あの、それで……ヨシキチさん」

 いつもの調子でリリーさんが俺を呼ぶ。

 でも、その顔はまだ赤い為か、こちらを向かない。

「はい、何でしょうか?」

「魔法、どうなってるか診ましょうか」

「はい、お願いします」

 この魔法学校はとても古い建物で大事に使われているようだ。木で出来た机や椅子、保健室となるベッドまで木で出来ている。

「それじゃ、ここに寝てください」

「はい! 失礼します!!」

 何かドキドキする……。ここは保健室。そしてリリーさんが言った所はベッド! 変な意味がないのは分かっているし、服を脱げとも言われてない。なのに、どうしてこんなにドキドキするのか。

「えっと……ヨシキチさん? リラックスしてもらえますか? そんなに身体を硬くしていると隅々まで診れませんから」

「はい!! すいません!!!」

「では、診ますね」

 それまでの赤面はどこへやら、彼女は悪い所を探すという意味の異世界語呪文を呟くと真面目にその両手を俺の身体の上にかざし、言っていた通り、隅々までその両手で感じ取っているようだ。

 きっと俺の下には魔法陣が出ている……それによって彼女は杖を使わずにこれを行っている。

 変な声も出て来ない。静かな時間だけれど、緊張する時間……。

 頭から順調に行き、腹の辺りまで来た時に突然、ん? というおかしい……という表情になった。

「どうしました? リリーさん! 俺、やっぱどこかダメなんですか?!!」

 起き上がりたいのを堪えて俺はリリーさんに寝たまま訊く。

「いえ、ちょっと……でも……」

「何ですか? はっきり言ってください!! おかしいならおかしいって!!」

「いえ、あの……何か詰まっているようなんです。魔法が使えないのもこの『何か』のせいです。これさえ取り除けばきっと普通の初級魔法は使えるはずです」

「じゃあ、手術するんですか?!!」

「いえ、しません。そのような事はこの世界では出来ません。日本に戻ったとしてもできないでしょう……。これは、そうですね……。運動場に移動しましょうか……」

 彼女はそれ以上、診ようとはしなかった。確かな原因を発見したからかもしれない。ああ、あのまま行けば……なんて考える余裕もなく、俺はベッドから起き上がり、彼女の後に続き歩き出した。

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