近所のギルドに着いた。そのまま中に入り、クエストが貼ってある場所へ行く。
黒いローブで顔が分からないようにしている一人の女性が真剣に見比べてはこれじゃない……と違うのを見る為に移動していた。
その人の邪魔にならないようにと俺は右端から整然と掲示板に貼られているその紙を見て行く。
『店番頼む! お客は皆モンスター! やっつけてはダメです!』
『中級ダンジョンに行くのでパーティメンバーを募集します! チートはありません。なのでお持ちの方、大歓迎!!』
『レベル2以上の冒険者求む! 畑荒らす野生モンスター退治、報酬ジャガイモ一年分』
『はむはむさせてくれる人、大募集。私の為に死んでください!!』
『死人の付き添い、アンデッドにならないように見守りましょう! ※なってしまったら浄化をお願いします』
ろくなのがない。
中でも一番なのは……。
『我が家のご主人様の愛人になりませんか? 衣食住完備です! 若い娘を好むのでそれなりに考慮させていただきます。メイドで働くのもOK!! そして、それがあなたの新しい道となるのです!』
これを手にするのは誰だろう……俺は見なかったことにして、次を見た。
『愛でやっつけましょう。憎きモンスターを!! 女性の方しか求めていません!』
本当、この世界の仕事はろくなのがない。ここは初心者が多いこともあって、良いやつは全て持って行かれた後。新しいのがあったって、すぐにチート持ちの転生者やレベル上げの冒険者に持って行かれる。
そんな情報を酔っぱらいの香住ちゃんに聞いたんだった……。やはり、ここは家に帰り、日向ぼっこを……。
「すみません」
か細い声でさっきからずっとあっちこっち動き回っている黒いローブの女性が一枚の紙を手に取った。
俺は思わず言ってしまった。
「それは!」
え? という顔で俺を見上げた黒いローブの女性。
その顔は見覚えがある! なんてもんじゃない!!
「リリーさん?!」
二度、驚いてしまった。
「よ、ヨシキチさん……が何でここに?」
戸惑いを隠せないリリーさんに俺は訳を話す。
「あのスケルトン返してから数日経ってるんですがね、その次の対象モンスターが全然来ませんで、それで何か良い仕事ないかな~って。それより、リリーさんは本当にそれをやるんですか?」
え? と言いながら異世界文字で書かれたそのクエスト内容を読み……プルプルと怒りでなのか、恥ずかしさでなのか分からないが、彼女は俺を見ながら言って来た。
「冗談じゃありません! わたしはこんなのの為にこの格好でいるわけではないのです! わたしは、わたしはメイドになんてなりませんからぁ~!! わたしはずっと魔法使いのままですから~! 愛人になんて、なりませんからぁ~っ!!」
涙を目に、彼女は必死に訴えて来る。
「分かりました。これは戻しましょう」
「はい……」
俺はリリーさんからその紙を受け取ると元の場所にそれを戻し、リリーさんをもう一度見る。
「でも、何でそんな格好を? いつもの格好で良いのでは?」
「そうなんですが……、あまり人目を気にしたくなくて……、じっくり見ていると緊張してしまって、それでそのあまり見えなくても良いやって思ってたら……」
「それを取ってしまったんですね」
「はい……」
彼女はそれ以上何も言わない。代わりにもうバレてしまったのだから……と顔を隠していたローブを脱いだ。
いつものリリーさんだ。
それなのに、ちらちらとこちらを見たりして来る。
「どうしました? 他に気になるのでも? 高くて取れないのなら、俺が取りましょうか?」
「いえ、わたしは仕事を探しに来たのではありません。近々このギルドか勤務先の近くにある王都の方のギルドにわたしが臨時で勤めている魔法学校の子達を連れて将来こんな所で働くんだよ……というのをやるんです。それでその下見の為に……」
「こそこそしないで堂々とすれば良いじゃないですか?」
「だって、こういう変なのがあったりして、外してください!! 子供達に悪影響を及ぼします!! なんてのをするにしても、事前に全て確認しとかなきゃいけないじゃないですか!! それをするにはこういう格好でないと恥ずかしくて!!」
ふん……、要するにリリーさんは赤面したくないということなのだろう。きっとこれよりも過激なのがあるに違いない。ここは男の俺が見ようじゃないか!!
「リリーさん、そのチェック俺がやりますよ! それなら恥ずかしくない!」
「え、でも……」
ちらちらとリリーさんは周りを見る。
「べ、別に……今日でなくても良いんです……いつでも……」
何故か、赤面し、またローブを深くかぶり、顔を見せないようにしてしまった。
どうしたんだ?
「何かあったんですか?」
「あ、いや……その、周りが……周りの人達がこちらを見ていまして……それでその……あの……!!」
はう!! とこの状況を知らないおじさん達が新しいクエストを貼って行く。
きっとあのおじさん達はクエストを出した依頼者だろう。
さっき自分達で貼る! と受付のお姉さんに言っていた声が聞こえた。
それを狙って皆こちらを見ていたのだ。決して、恥ずかしがってる姉ちゃん可愛いな~ゲヘヘヘヘ……という感じではない。
「大丈夫ですよ、皆俺達ではなく、新しく追加されたクエスト内容が気になってるだけです」
「そうでしょうか?」
「はい、もう群がってるじゃないですか。新しく出たのは三つかぁ……。俺に出来ますかね?」
そんな話をしてみてもリリーさんのローブはそのままだ。
「リリーさん、怖がらずそのローブ脱いでみてくださいよ。それでこっちに群がって来たら、俺が守ります。まあ、何の力もないジャージ姿なんですがね……」
「ふふ、そうでしたね……。そういえば、あの後、魔法使えるようになりました?」
「いいえ、全然で」
「そうですか……、じゃあ、今日はこの辺でギルドを出ましょう! 魔法が使えるよになれば少しはレベル上げに繋がりますから!」
そう言って、リリーさんはグイグイ俺の腕を引っ張り、無理やりそこのギルドから外に出た。