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夜のギルドで

 徒歩十分で着くというのは良いものだ。

 ギルドに行くまでにリリーさんとスケルトンに会えるかと思ったが会えず、俺はやっぱり一人でご近所にあるギルドに来ていた。

 この前来た時のような軽快な音楽が大音量で流れ、その音に負けないような大声や笑い声、怒声……そんなものが入り混じったまさに夜のギルドという感じになっている。俺がギルドに行きたくなかったのはこうした中で起こる喧嘩にでも巻き込まれ、命の危険がやって来てしまう……というのを危惧していたからだ。

 だが、今、このギルドぐらいしか行き場のない俺は獣耳のかわいい給仕の子にどの席にでもどうぞー! と明るく言われ、はーい!! と元気に返事をしてしまっている。

 はあ、人間慣れれば何も怖くないな……。

 と、どこに座ろうか……とちょっとうろうろしていると、店の奥の方でちびちびと一人酒を飲んでいるほろ酔い顔の女性が居た。

 お! と思い、その子に近付き声を掛ける。

「ぼっち飲みですか? お嬢さん」

「な、何だ……江東先輩か……」

 何ともがっかりそうな声を出して、酒を一口、木のジョッキで豪快に飲む。

 木のテーブルには酒がたくさんあり、つまみもそれなりにある。

「なあ、この席座って良い?」

「そうすれば、ぼっち飲みにはならないって言いたいんですか? 空いてる席いっぱいあるじゃないですか」

「でもさ、まだ二回しかここに来てない俺としてはさ、あんまり会わない香住ちゃんに話を聞いて、何を食べようか、飲もうか……考えたいわけだよ」

「良いですよ、そういう言い訳。聞き飽きました。好きに座ってください。こっちが移動しますから」

「まあまあまあ……」

 俺は無理にその席に座らせ続け、隣の席に座る。

「ぼっち飲みがそんなに嫌ですか?」

「いや、嫌ではないんだけどね……。何ていうか、この世界には香住ちゃんの方が詳しそうだし」

「あの子に聞けば良いんじゃないんですか? あの魔法使いの姉妹の妹の方に」

「いや、そういう話しないし」

「じゃあ、あそこで一番騒いでる日本からの異世界転生者達に聞けば良いじゃないですか」

「何? 転生者って……、あれがそうか?」

「そぉですよ、一番目立っているのが日本からの異世界転生冒険者代表、石沢煌翔いしざわきらとっていう十七歳の少年。天界の女神から授かった何かしらのチート能力を持ってるそうです」

「へぇ……」

「オレ、最強! やる気充分! の夢見がち……少年冒険者で、東京に異世界が来る前にこの異世界に来たらしく。その死因は工事中の落下物による下敷きだそうです」

「悲劇的だな」

「でも、あんなに盛り上がれるんだから、良いじゃないですか。魂が若いからこそ、生き続けたいっていう……未練? そういうのがあるから、できることだって言われてますよ」

「ふーん……」

「でも、彼、老けないんですよね……それがチートなのか……分かりませんけど。最近、十歳若くなる薬とかいうのが開発されたみたいで、まだ治験段階なんですけどね、それを飲んでいるんじゃないかっていう噂もあって……。まあ、彼が転生者だっていうのはいろんな所で大活躍してるからだと思いますけど……」

 俺はその辺に置いてあった酒を飲もうとしたが、バシ! と叩かれ、香住ちゃんに奪われた。

「自分で注文してください!」

 この子はキツイ。さすがクールビューティー。

 そう思っていると一番騒いでいる中央の席からこんな声が聞こえて来た。

 この異世界に転生を果たした新人です! よろしくお願いします!!

 ここではそういうのもあるんだ……と俺は彼らを見ていた。

 数十人いる。そのくらいしか転生者はいないのだろうか。この数は仕事や旅行で来ている日本人よりかなり少ない。

「どうしたんですか?!」

 急に香住ちゃんがそんな声を出し、そちらを見た。

「あの! あの!」

 必死に走って来たらしいリリーさんがそこに居た。

「どうしました? 何か……クレアが何かしたんですか?! それにスケルトンは?」

「スケルトンはちゃんと……妹に渡して来ました。ですが、女神、クレアに無理やり……このガイコツにどこも触られてないでしょうね~……と言って、無理やり服を! う、服を、脱がされそうに……」

 う、うう……。と泣き始めてしまったリリーさんにかける言葉がなかった。

 確か、女神は言っていた。この国ではあまりそういうことをしないと。きっと冒険者だって日本から来た者達だろうし、本当、面倒な女神だな。

「大丈夫ですよ、リリーさん。俺が家帰ったらちゃんと言いますので、クレアに脱がせんな! って言いますので!」

「はい、お願いします……。別に脱いでお風呂に入るのは良いんです。だけど、その、脱がし方が乱暴で……」

「怖いのが苦手だと?」

「え、いえ、モンスター相手なら大丈夫なんですが……って、それは戦闘においてですから!! 普段はその……」

 口ごもる。

 何を言わせてんだ? という顔で香住ちゃんがこちらを見て来た。

 ここはもう潮時か……。

「いや~、分かりました。俺、ちゃんと言いますから! って言っても、ティノからの連絡来ないと帰れないしな……」

「それじゃあ、江東先輩、うちらはうちらで飲むんで、とっとと帰ってもらえます?」

「ねえ、香住ちゃん、お願いだから人の話聞いて! 前もあったよね、この流れ!」

 俺は席を離れず、リリーさんも加わって飲み直そうと提案した。

「あー、でもー、江東先輩いると話せないこともありますし……」

 何だよ、その態度。何なんだ、この後輩。

「話せることを話そうじゃないか! 俺はそうだな、今、魔法が使えなくて困っている!」

 え? という顔をされた。リリーさんが心配そうに言って来る。

「それはいつからですか? 冒険者登録は済んでるはずですよね?」

「ええ、まあ……」

 え? これってこんなに深刻な問題なの? という感じでいるのだが。

「まあ、魔法の才能がなかったってことで、しょうがない! 飲み直しましょう!」

 気分良く、香住ちゃんは言ってる。そして、勝手に獣耳の給仕の一人に新しい酒、お願いします!! と注文し出した。

「今度、ちゃんと診ても良いですか?」

 下戸のリリーさんは真面目に言って来る。ああ、彼女こそが良い人だ。

「はい、よろしくお願いします!!」

 それから俺達は飲んだり、食べたり、この異世界の事や日本について語ったりした。

 ティノから連絡があったのは次の日の朝のことだった。

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