テレポートは出来ますが、こんな格好ではしたくありません! と言う真面目な魔法使いの少女、ティノのせいで俺達はまた五十分くらい歩いてこのマンションへと帰って来た。
「ただいまー」
リビングに入るとクレアはやっぱりど真ん中で温泉に入り、出来上がっていた。
それでご満悦かと思えば、ぷーっとほっぺが膨れている。
俺を見るなり、クレアは叫んだ。
「遅い! 遅い!! 遅いんですけどーーーーーっ!!!!」
かなりご立腹中の女神様になっている。これが面倒なのか。
「悪かったよ、買い物をしてたんだ。そしたら、ティノに会ってな」
「デートしてたの?」
何気なく言われた言葉に俺は動揺した。
「ちが! 違いますよ、温泉の女神、クレア様。俺達はちゃんと仕事の為の買い物をして来たのです」
そう言って俺とティノは今日買って来た物を見せた。
「ふーん、なるほど……。短剣ね……、ヨシキチ、使えるの? 使えない物を買うんじゃないわよ!!」
「な!」
温泉の水をかけて来るとは!! 濡れるだろ!! と怒ってやりたいが、これは今まで女神クレアが入っていたやつだ……かなりのご利益があるはず。文句は言うまい!!
「それでご飯は?」
「買ってありますよ。さあ、お食べください!!」
ガツガツ食べるのかと思えば、ちょっと食べて箸を置く。
「冷たい、温めて来て」
「はいはい」
そうだろうな……とは思ったんだ。だけど、好きなのを選んで食べ始めたから何も言わなかったのだが。
温めが終わった弁当をまた温泉に入ったままのクレアに渡す。
「で、お土産は?」
何だ? この女神!!
「ねえ、私ちゃんとお留守番してたのよ! とっても嫌だったんだから! 分かる?」
「そのスケルトンは今どこに?」
「リリーちゃんがお散歩に行ってくれてるわ! 私がこのままだと本当にあのガイコツを浄化してしまう! って思ったんでしょうね」
「お前……」
「で、お土産は?」
「あるよ」
俺はムカムカしていたが、出来上がっている女神に言ったとしても何も解決にはならないと、はろーわーデパートで買って来た物を出した。
クレアはそれを受け取るとしげしげとその手に収まるくらいのクリーム色の粉が入った個包装の袋を見た。
「ミルク蜂蜜風呂入浴剤……?」
クレアは袋に書いてある商品名を読んだ。
「良い匂いがするらしい! 温泉の匂いも良いが、こういう匂いもたまには良いだろ?」
「へー……」
「何だよ?」
「ミルクと蜂蜜って……どういうことを想像して買って来たのかしら? その辺を詳しく聞きたいけれど、まあ、良いわ。ティノちゃん!」
キッチンで隠れていたティノがびくっとなって、こちらにやって来る。
「はい……何でしょうか……クレアさん」
「ねえ、今からこの温泉をね、お湯に変えるから、ティノちゃんも一緒に入って!」
「え!!!」
ティノが俺の顔を見た。
「ほら、二人用にしたから入れるわ。そうね、リリーちゃんが帰って来たら三人用にして……ヨシキチ、あんたはどっかに行きなさい!」
「え!!!」
「何よ、何でティノちゃんと同じ反応なのよ!! 何、あんたも一緒になって入りたいって言うわけ?!」
「ち、違います!! ただ俺は……自分の部屋でも良いかな~って」
「何言ってんのよ!! 今から女だけのキャッキャウフフの日本の入り方でお風呂に入るのよ!! そんな声聞いて楽しいの?」
「楽しいです!!!」
「バカじゃないの、この男……」
それには同感……という顔をティノはする。
だって、日本の入り方って言ったら、裸だろ!!! とか俺は言わない。あえて言わないのだ!!!
「ほら、さっさと出て行ってよ!! 何かヨシキチ良くない事考えてるでしょ!! 分かるんだからね!! お背中流しましょうか……とかいらないんだからーーーーーー!!」
俺は結局、ご立腹中の女神に追い出された。
お風呂が終わったら連絡しますので……!! とティノと連絡先を交換し、行く当てのない俺はギルドに一人、行くことにした。