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冒険者ではないが

 はろーわーデパートに来て、どのくらい経っただろう。

 決められない。

「これはどうですか?」

 ティノは今もその店の店員のように声を掛けて来る。

 はあ。確かにあのスライムの時に思った。

 ペットボトル一本で戦うことなく終わってしまった俺って情けない。

 モンスターを切れる短剣でもあればまた違ったはずだ。

 服装だって、火に強い、水に濡れても大丈夫なやつでも持っていれば、もっと違う動きが出来たはずだ……。

「ティノ」

「何ですか?」

 声が静まった。

「最初のにするよ、あれは確か初心者用のやつだったろ?」

「そうですね! 初心者向けなのでいろいろと都合良く出来てますよ。全ての属性にそこまでとは言わないまでも重症回避も難しいですが、その服やジャージより良いと思います」

 俺達は最初に見た店に戻り、俺に合ったサイズの物を買い、また歩き出した。

「良かったですね! これでいつでも不測の事態でもまあまあな行動がとれますよ!」

「まあまあか……」

「はい、だって江東さん、まだレベルが……」

「そうだな……」

 俺は冒険者ではない。だから本来ならこんな商品券や現金を使い、こういう服を買うことはなかった。

 だが、これから来る対象モンスターのことを思うと買わざるをえない。

 あのスライムのようにはしたくないから……。

「スライム、元気かな……」

 ぽつりと言ってしまった言葉にティノは笑いそうになっていた。何で?

「何だよ、何がおかしい?」

「だって……、まだそんなこと言ってるんだなって……」

 思うとおもしろいのか? こんな大人でも思っちゃうことがあるんだよ。

 ぽん! とティノの頭を軽く叩いて俺達は歩く。すると少し歩いた所でティノが立ち止まった。

「どうした?」

 俺はそのまま動かないティノが見ている物を見る。

「杖か?」

「はい、ここに来たのはお散歩がてらですが、杖、やっぱり欲しいですね……ちゃんとしたの……」

「買えば良いだろ?」

「そうなんですが……、あのその……」

「何だよ? まさか! さっきの高いやつ食べちゃったから買えない!! とか言うんじゃないだろうな……」

 じろっとティノを見る。

「そういうわけじゃないんです! 今、あたしは江東さんよりお金を持っています!」

「ほ~う……」

「さっき、ATMでお金下ろして来ましたから」

「ほ~う……」

「だから、待っていてくれますか? こんな格好の魔法使いが言うのも何ですが……」

「そんな……、格好のことを気にしてたのか? 気にすんなよ! 行って来い!!」

「いや、だって! 服装と杖の感じが合うかどうかはとっても大事なことで! なめられない為にもここは!」

「さっさと買って来いよ! お前、また魔法陣書いてやるつもりか? そんなパーティメンバーはいりません!!」

「ひどい! 買ってきますよ!! 買ってきます!! そして、江東さんをぎゃふんと言わせてやるんだー!!」

 猪突猛進。それが今のティノには合っていた。

 俺は近くのソファーに座り、待つことにした。

 もし、一番最初に出会った時のような木の枝みたいな杖を買って来たら、すぐに買い直させよう……。そう思って一時間。

 長い……杖一本にここまで使うのか? 俺は少しばかりイライラしていた。

 きっと温泉の女神様は飽きて温泉に入っているだろう。リリーさんはまだ居るだろうか……。早く、ティノ来てくれ!! お前はまだ子供だ。買い物にそんな時間をかけることはない!!

 俺はスマホを見る。何も連絡なし。

 はあ。スライムが居た頃だったら、もしかして、こういう時でも楽しくやれたかもしれない。けれど、今回のスケルトンは……連れて歩いて大丈夫だろうか……。

 いろんな事を考えて待つ。けれど、来ない。はあ、ここは置いて帰ろうか……。

 そう思い始めた時だった。

「ごめんなさい! 江東さん!! でも、良いの買えましたよ!! 少しでも安くしようと値引き合戦をしていたら遅く……」

「もう良いよ、行こう……。それにしても立派な杖だな……」

「はい、これは!! と思ったので!! 一目惚れですね……」

 本当、あの木の枝みたいな杖じゃなくて良かった。真面目な魔法使いのツインテール少女になるだろう。

「夕飯、どうしましょうか……」

「弁当で良いよ、弁当で。もしくは近所にあるギルドに行って食事しよう。あ、でもそうするとクレアがダメなのか?」

「いえ、大丈夫だと思います。出来上がった女神様には誰も近付きませんから」

「何で?」

「面倒なので」

 はっきり言うこの子は。

「そうか……なら、弁当にするか……電子レンジあるしな、冷めたって温められる」

「そうですね、冷蔵庫もあって便利なもんですよ。日本がこの世界に来なかったら、こんな楽しい快適ライフなんて出来ていませんでした。ありがとう! 日本!!」

「お前、恥ずかしいことすんなよ!」

「え? 恥ずかしい? 恥ずかしいんですか? 江東さん!」

「そうだよ……そんな……あいらぶチチなんていうの着てる子と歩いてる俺の身にもなれ」

「隠れているではありませんか、あいらぶチチは見せたい人にしか見せません!」

「どういうことだ? それは……」

 クスクスクス……と通りすがりのおば様に笑われ、ちょっと自重しようと思った。

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