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お散歩がてら

 その店はこの王都にあるのがふさわしいように建っていた。日本の物なのに。

 登録した派遣会社ノイデフィから歩いて十分の所にある、はろーわーデパートがその店の正体で、普通の目で見ればそこはただの近代的な建物だろう。だがそこは魔法の国!

 魔法で何でもこの世界に合った外見に出来る!

 店内に一歩、足を踏み込めば、そこはまるで日本の国!!

 東京でも地方のデパートでも見かける品がある。

 まあ、店内の音楽はこの世界を意識してか明るいファンダジー的なのが流れていた。

 きっとこういう風景で人は安心し、日本に帰ることをなくすのだろう。

 俺は一階から順に見て行くことはせず、気になる店だけ見ることにした。

 旅行で来ているわけではないので、損とか気にすることはない。

 あの二人には何が良いだろうか……俺は歩きながら考える。

 そして、一つの店の前で止まっていた。

 ああ、なんて! なんて! あいつが欲しそうな物なんだ!!

 俺はそれを一つ買うことにした。女性向けの店だったからか、定員さんに彼女さんにですか? とか言われたけど、パーティメンバーの一人にです。ときっぱり言い、良い匂いのする店を出た。また来よう、今度は自分の為に。

 今度はあいつが欲しそうな物を探す。とぼとぼと一人歩く。

 あいつは何が良いだろうか……特に思い付かない。

 そうだな、それで行くか……とそれらしい店を探す。

 あ! あった! あいつなら喜びそう!!

 そしてそれを手に取ってレジに並ぶ。

 店員さんがこちらをチラチラと見る。さっきの店で言われたことを言われるのだろうか……ドキドキだ。

 この店も女性向けの店だから、早く離れたい。

「プレゼント用ですか? ご自宅用ですか?」

「パーティメンバー用にしてください!!」

「はい、か、かしこまりました……」

 先にプレゼント用が来ちゃうとか、俺だからか? 俺が日本の服装のままだからか?!

 俺は二つとも現金で買った。

 よし、次は……。

 トイレに行こう。

 スッキリとしたところで何故か聞き覚えのある声が。

 これは……リリーさん……に似た女の子の声……ティノ?!!

 そちらを向けば、スマホで電話しているお出掛け用なのか、いつもとは違う服装のツインテールのティノの姿があった。

「父さんっ、ですか?!! あ、はい。では、また電話します……」

 しょんぼり……と電話を切って、こちらを見た。

「あ」

「あ……」

 俺はすぐに買ったばかりのそれをパーティメンバーの一人に渡すことにした。

「うっわ~ぁ~!!!!!」

 とても喜んでいる。何かそういう感じのしない言葉だけど、とっても目の前で喜びの表情でそれを見続けている。

 ああ、その顔が見れただけで良いのさ……。

「何ですか? これ!! どういった風の吹き回しですか?!!」

 何かがっかりするようなことを言って来る。

「ティノ、これはな、この前の俺の初ダンジョンの時に壊してしまった折りたたみ傘のあれだ……」

「買ってくれたんですか!! 江東さんが!!」

「ああ、まあ……日頃お世話になっているパーティメンバーの一人! だしな……」

 主に旅行で来ているのであろう日本人の方達がチラチラと俺とティノが座っているソファーの方を見て、それからその折りたたみ傘の入った紙袋を見て、何やら話して通り過ぎて行く……。

 別に変な物じゃないし、変な事もしてない!!

 見た目が子供でもこいつは大人だ!! と、この前本人がそう言っていた気がする!!

 だから、今の俺はヤバそうな奴ではないはずだ~!!!

 何だ!! その目は!!! というにも行かず、俺はティノを見て、言った。

「お父さんと何かあったのか?」

「いえ、大丈夫です……」

 歯切れが悪い答え。

 これはリリーさんに相談するべきことだろうか……。

「江東さんはどうしてここに?」

「あ、まあ、派遣登録も無事に終わったことだし、ちょっと良いのがないかな~ってな」

「そうなんですか……」

「そう言うティノこそ、何でこんな所に居るんだよ? お散歩に……とか言ってなかったか?」

「そうですよ! お散歩がてらです! でも……江東さんが買ってくれたので買う必要がなくなりました。お気に入りの傘が、また増えました。ありがとうございます。やっぱり、オレンジ色の物は日本のが一番良いです! 色のバリエーションもこんな風にいろいろですしね!」

 その折りたたみ傘をやっと紙袋から出して見せてくれた。

 やっぱり、似合っている。そんな感じの色だ。

「そうか、良かったな」

「はい! ハ!!」

「どうした? そんな驚いた顔して……」

「いえ、これはその……どのお金で?」

「ああ、心配するな。それは俺が働いて稼いだ金で買ったものだ」

「それはつまり、日本円?」

「まあな、日本の店だったし。店員も日本人で……。この中にもこちらの世界の店の物が売られてるだろ?」

「ああ、ありますね……」

「そういう所は大体店員さんもこちらの世界の人だ。そして、それらはこの世界の方でも日本円でも買える。まあ、一応、日本出る前に少しはこちらの金にしといたよ。でもな、やっぱ、安心するのは日本円だ。日本円だったらまあ、イカサマされることもないしな……」

「あ~、そうですね……異世界の事件多いですもんね。店員が異世界の人なら注意とか……。まあ、あたしはそこ気にせず、気に入った物買っちゃいますけど」

 ちらっとティノが俺の服を見た。

「何だ?」

「その服を変える気はないのですか?」

「あるけどさ……」

 チラチラ見られているのも、動きやすい私服だからだ。

 本当はスーツで登録に向かいたかったが、歩きを考えるとそれは出来ず、こうなった次第だ。

 そして、ここは平日であっても日本ではない。異世界。

 俺は立ち上がるとティノに言った。

「昼飯でも食べるか?」

「え? おごってくれるんですか?」

「バカ、自分の分は自分で! に決まってるだろ? 俺達は派遣社員でパーティメンバーなんだから!」

「は、そうですよね……そこまで江東さん太っ腹ではないですよね……」

 ちぇ……と言いながらもティノは俺の後を付いて来る。

「江東さん、ご飯が食べ終わったら絶対、冒険者用の服を買いましょうね! 少しくらい高くたって、買っといた方が良いですよ!」

「ああ、そうだな」

 俺は空いてそうな店に入った。

 空いてる店というのは大体、日本食の店。

 異世界に来たなら、異世界料理食べなきゃね! っていうのは常識だが、その肉が何の肉なのか、お客さん達もご存知だろう。

 そうだ、食用肉のモンスター。これがまた絶品で!! という人もいれば、二度と食べたくない!! という人もいる。

 そんな両極端な肉。俺も旅行で食べたことがあるが、一口食べただけでもう良いや……となってしまった。もしかしたら違った食用肉のモンスターを食べれば良かったかもしれない。けれどそれはまるで世界一臭い肉のようだった。いくら味付け良くても食べて良い肉と食べてはいけない肉があるのだ。それを見極めろ! と言われたこともあったっけ……。

「江東さんは何食べます?」

「鉄火丼」

「じゃあ、あたしはネギトロイクラウニエンガワ丼にします」

 ティノが注文してくれた。こいつはこういう時、便利だ。

「高いのなんて頼んじゃって良いのか?」

「江東さんが買ってくれた傘のおかげでお金が余ったんです!」

 そう言って笑顔でお茶を飲む。そんな格好なのに。

「お前、今、ティノTに似た服着てるけど、何て書いてあるんだ?」

 読めますか? とティノはない胸に書かれている文字を俺に見せる。

「あいらぶチチ?」

「そうです! 正解です!」

 こいつ、異世界文字で書いてあるからって! そんなハレンチなヤツ着てたのかよ……だから、パーカーなんかで隠してたのか? もしや、チラチラ見て来た人の中にはこいつの変な言葉が気になって見ちゃった人もいるのか?!!

 それは大変だ!! と思う。ガクガクして来る。こんなのと一緒に居るとは!!

「おい、パーカーちゃんと着とけよ?」

「え、あ、はい。着てますけど……」

「魔法使いの服装じゃないからってな、自由過ぎなんだよ! 何が『あいらぶチチ』だよ!」

「だって! あいらぶチチ! なんですもの!! あいらぶチチッ!!」

 こいつ、わざと大声で連呼してるんじゃないのか? と疑う。

 そんな事をしていたら鉄火丼が来た。

 お店の人はちょっと変な目で見て来たが気にしない。店を出て行け! とは言われてないのだから、ここは黙って食おう。

「良いな~、鉄火丼。早く来ないかな~ネギトロイクラウニエンガワ丼!」

 長い名前だから時間も掛かっているに違いない。

 昼飯を食べ終わって、良い感じの店を探す。

「どうでしょう! 江東さん! この冒険者の服なんてオススメです! 短剣付きでですよ! リーズナブルな価格です!」

 お前はその店の店員か! 声の張り方が違う。キラキラしていて鬱陶しい。

「もうちょっと良く、いろんなの見てからな……」

「え~、なくなったらおしまいですよ~……」

 そんなこと言ったって、俺は悩む。大学時代を思い出したが何も出て来ない。

 困った……いろいろありすぎだ……このデパートは。

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