クレアのガイコツ呼ばわりはまだ許せる。
けど、ティノのカクカク呼びは何だ。
俺はティノを見る。
「おい、どういう訳があって『カクカク』なんて言っている?」
「はい、あれは……」
ティノは『カクカク』との思い出を語り始めた。
キラキラと目を輝かせたまま。
「お姉ちゃんの部屋に忍び込んだ時……」
ほ~う、リリーさんの部屋での出来事なのか……。少しニンマリする。
「どうしたら、あの体になれるのか! 発見してやろうと部屋を荒らし、出て来たのがカクカクだったのです!」
「は? どこにいたんだ? こいつは」
「はい、お姉ちゃんのクローゼットの中に隠れていました。カクカク……と笑いながら」
「そのクローゼットの中には何があったんだ?」
「はい、それはもう……お姉ちゃんの好きな色の物がたくさんあって」
「ほ~う」
「それをこのカクカクはスーハースーハーと」
「ほ~ぅ!!」
「ちょっと! それってあれじゃない! ヤバイ奴じゃない!! やっぱり、浄化を!!」
「待て、クレア!! ティノの話の続きを聞くんだ! やるのはそれからでも良い! なんて言うとでも思ったか! こいつを浄化したって何も解決しない。いいや、その時のカクカクはこれなのか? 違うだろ! な?」
俺はティノを見て確認する。
「はい、違うと思います。あの時のカクカクはもっと大きくて、どうして人間の大人サイズの骨が入れるのだろうと疑問を持ち、聞いてみたんです」
「クローゼットの中に入ったまま?」
「はい。そうしたらカクカクカク……って全ての骨を動かし」
「笑ったのか?」
「いいえ、鳴いたのです。ヤツはそのまま自身の骨を全てバラバラにさせ、転がるように移動しました。そして不自然に開いていた窓から逃げたのです! そう、あたしはあの時、その逃げ技に感動しました!! 普通のカクカクはそういう状態になると動けなくなるのに!! だから、その時残して行った音を忘れない為に『カクカク』と命名させていただきました。もちろん、スケルトンだということは知っていましたけどね」
「おい、それはもっと良い話にならなかったのか?」
「下着が全てない! と後日騒いでいましたね……。だから、カクカクがやったのだとお姉ちゃんと……父さんに言いました。そうしたら、カクカク狩りが一家総出で始まり、あたしはレベルを上げられたのでした」
ね? 良い話でしょ? とティノは俺を見て言う。
もしや、さっきの事と絡めてこんな話をしたのか?
俺はティノに何も言えなくなる。
「そういう訳で、カクカクと鳴るヤツは大体レベルが高く、狩るのに適しています。剣で刺したり……というのはムリなのですが、ここにはちょうどこういうのを狩るのに適した女神様が!」
「分かった、分かった! 謝ります! 誠に申し訳ございませんでした!!」
俺は素直に土下座し、ティノが許してくれるのを待った。
「いや、あたしも江東さんと同じような事をしていますしね、許しましょう」
「どういうことだ?」
「さて、少し気が晴れたので、あたしはちょっとお散歩に。あ、そうだ、江東さん、この前話したこちらの世界の派遣会社には連絡してありますので、いつでも好きな時に行ってください。一人で」
「……ああ、ありがとう……ございます……」
俺は怒らせていたようだ。ちょっとやっちまったな……。
「ねえ、それでこのガイコツ、どうするの? あんたが出かけちゃうと、とっても困るんですけど! 私、こいつの面倒は見れないわ! あんたを守ることは出来るけれど!」
「いや、無害だろ……」
じろっとティノが俺を見た。
「いや、こいつはその時の『カクカク』じゃないし、ほら、もう何も動いてないし……!! って、コイツ、息してる? いや、アンデッドだしな……」
「分かったわよ、派遣の仕事だものね……。あんたも行って来ちゃいなさいよ。これよりヤバイの来た時に出かけられても困るし。そうね……、二人が出かけてる間、このガイコツと二人になるのは嫌だから、リリーちゃんを呼んで。少しお話をしましょう」
何か怖い……。このスケルトン、俺が帰って来るまで無事でいられるだろうか……。
「大丈夫よ。あんたがこの世界に居られなくなるっていうことだけはしないから。ただね、女神として、話したいだけなの。これから大きくなるにつれてそういうことをしないようにってきつく注意するだけだから」
優しさを装って怒っている。
怖い! この世界の、いや、最近ヒシヒシと感じている。このパーティメンバーの怒りの部分。
俺は二人に何か買って来なければ!! と思い、クレアの提案に乗った。
多少の金ならある。派遣会社に登録だけしに行って、そこで商品券をもらい……。
今日も派遣切りを回避する!!