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愛着が出る前に

 二人がわいわい言い合いながらリビングにやって来た。

「ただいまー」

「お、お帰り!」

 そのままティノはキッチンに向かうが、クレアはバタバタと荷物をキッチンに置くとすぐにこちらにやって来た。

「何だよ!」

「ねえ、ヨシキチ! 嬉しそうだけど、何かあったの?」

「何も……」

 平然としているつもりだったのだが、この温泉の女神には分かってしまうのだろうか。

「なあ、クレアには人の感情が読み取れるとか……そういうのがあるのか?」

「読み取れはしないけど、そうね……何かそういう気配は感じるわね。まあ、ヨシキチの場合、大体顔に出てるから」

「え!!!」

 ふふふ……とクレアは笑う。そして、机の上で元気に動きたそうなスライムを見る。

「ねえ、ヨシキチ」

「何ですか?」

「この子ね、ペットボトルの水が好きみたいなの」

「は? 何言って」

「この子ね、昨日の聖水かける前にかけた水が好きになっちゃったみたいなの」

「何でそんなのが分かるんだ?」

「今日の朝、お風呂上がりにそのペットボトルの水を飲んでたら、欲しそうにしてたから……あげてみたの」

「あげるなよ!」

「でもでも、昨日からこの子何も食べてないのよ! それでもちゃんと生きてる! それってすごくない? 日本のペットボトルの水でこの子は生活していけるわ! だって、その水、飲んでたし……」

 ニヒルな口がちょっとニマ~とした。こいつ、クレアが見てるからって。オスにしておこう! あのギルドのお姉さんの件と良い、これは確定だ!

「じゃあ、こいつは何も食べなくても生きていけるが、何となくあげたくなったら、日本のペットボトルの水をあげる……と?」

「そういうこと!」

 うん、うん! とクレアは俺を見て笑顔になった。

「はあ、まだ二日も経ってないけどさ、こいつ、何か慣れかな……肩に乗ったりさ。可愛く思えて来ちゃったよ……。親しみやすいっていうかさ……」

「なになに? 愛着が出て来ちゃったの? 早くも?」

「そっ」

「へぇ、それは大変ね」

「何が? 全然大変じゃないだろ。ペットとして飼える、そんな気さえしてる」

「それが甘いのよ。この子、早く返しなさい」

「何言って!」

 俺の大声でティノが驚いたのか、こちらにやって来た。

「良い? 愛着が出てしまった以上、あなたは冷静に報告が出来るの? 出来ないでしょ? 別れも辛くなる。この子はこれからきっと大きくなる。そしたら、今の性格も失われるかもしれない。ちゃんとしたモンスターに成長してしまうかもしれない。そういう危惧を今のあんたは報告に入れられるの? 入れられないでしょ! ただ、可愛いだの、好奇心旺盛だの……そんなことしか書かない!」

「言われなくてもちゃんと報告はするよ! しっかりとな! 簡単だ! 大体、日本の報告書の書き方を知っているのか?」

「うるさいわね! その報告結果でこのスライムちゃんの今後が決まるってこと、忘れないように!」

 そう言って、クレアは自分の部屋である和室に行ドスドス行ってしまった。

「浴衣女神が……、報告すれば良いんだろ……こいつの……」

 俺は見てしまった。少し困ったような表情をする小さいモンスター。

「スライムさん、返してしまうんですか?」

 やっと喋ったかと思えば、そんなことを言うティノ。

「そうだよ……」

 俺は本当に……、あの女神の言う通り、少し別れが辛くなってるかもしれない。

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