温泉の女神よ、何であの時、緊急時にしか使わないという『テレポート』を使ったのですか。最初から出来るならそうしてください。俺達が歩いた道のりは何だったのですか……一度行ったことのある所なら、どこでも行けるの! なんて、なんて便利な魔法持ってるんだ! この女神はーーーーっ!!!!
そんな愚痴を聞いてくれるのは元気になったスライムとリリーさんだけだった。
そもそもそんな便利な魔法で甘やかすほど、私は神として出来てないし、許してないの! という辛口なお言葉からこれ以上言うのは諦め、俺はやっと帰って来た自分の部屋でさっさと寝ることにした。その前にと……その火傷を治す温泉出したからその手だけこの温泉の中に入れなさい。許しましょう、その行為を見届け、治すことを誓ったこの温泉の女神、クレアが……テオスセラピア! と唱えると痛みが引き、温泉の中から手を出すと全てが完治していた。すげーな……神様。と普通の感想を言っただけなのに、いや~照れるわね! 覚えておきなさい! って言ったでしょ! と言われ、そういえば、お前どこかで俺の名前略してたよな? と言うと、え? そうだっけ? 忘れちゃったわよ! そんなこと! いつまでも覚えておかないでよね! そんなこと! と怒られた。
寝てからも時々、スライムが心配でその様子を見にリビングに行ったりしたが、また堂々とリビングのど真ん中でワイン風呂なんかに入って出来上がっている女神と入りなさいよ~と無理やり服を脱がされそうになっていたリリーさんと目が合ってしまったが見なかったことにし、きっとスライムに何かあればあの出来上がったクレアが何か叫ぶだろう……と思い、寝ることにした。
いや、待て……ここで部屋に戻るのもどうなんだ……と思っていると眠い目をこすりながらトイレにでも行っていたのか、ティノがとぼとぼ歩いて来て、リビングに入り、何やら騒ぎが起こったようだが、あ、そうだ、明日も早いし、もう寝よう……と思い、それ以降はリビングに行っていない。
翌朝、ティノとクレアはいなかった。
まさか!? と思ったが、元気に動くスライムの隣にメモ用紙が一枚置いてあり、ティノちゃんと仲良く買い物に行って来ます! クレア。お姉ちゃんがスライムさんの為に聖水を持って来てくれると思うのでどこにも行かず、待っていてください。と長文で書いてあった。
その通りに待っているとピンポーン! という音。
「あの、来ました。ティノは?」
と言うリリーさん。
これは! と思い、中に入ってお待ちください! とシメシメ展開だ。
素直に、じゃあ……と言って、入って来たリリーさんに俺は言う。
「昨日はいつ帰られたんですか? 俺、あの後すぐに寝ちゃって……」
「ああ、女神クレアから逃れられたのが深夜ですので、その後、スライムさんも落ち着き、スヤスヤと皆さん寝られたので、わたしも寝ようとそのまま……」
「え、それじゃあ、昨日はこの家に?」
「はい、寝てしまいました……。すみません、来て早々」
「いえいえ、全然です! 全然良いですよ!」
俺は有頂天になる。
「それであの、朝早く、ティノにどうしてこんな所で寝てるの!!? おねーーーーちゃん!!!!! とたたき起こされまして、聖水を常備しておきたいから、スペシャルのじゃなくても良いから余っているので良いから持って来て!!! と言われまして……それであの、またこちらの方に来た次第です」
「それは何ていうか……ご苦労様です。粗茶です」
「あ、そんな! ありがとうございます……」
一服する。なんて、なんて! のんびりした時間なんだ!!!
あの二人と居る時よりも心穏やかだ!!!
愚痴も聞いていただいたし、とっても良い気分だ!!
「それであの、聖水」
「すいません、ありがとうございます」
そう言って俺は机の上にリリーさんからもらったクリスタルの小瓶に入った聖水を十本ほど置く。
「たくさんありますね」
「ええ、家にあったのと、この前の報酬でいただいたのとか……」
何だかリリーさんが俺のことをじーっと見ているのに気付いてしまった。ドキッとする。そんなに色気とか出てないのに! 何で?!! 俺もリリーさんを見る。
「あの、何か?」
「い、いえ! じゃあ、わたしは行きますね。あの何かあったら、電話ください!」
さらっとリリーさんは机の上に置いてあったボールペンを手に持つと、その隣に置いてある何も書いてないメモ用紙に自分の連絡先を書いて俺に渡して来た。
「じゃ、じゃあ、失礼しますぅー……」
なんか逃げるように帰ってしまったが、これは良い物をもらった! 俺は早速、スマホの方にその連絡先を入れ、電話してみることにした。
「はい、リリーです」
その声は本当にティノのお姉さん、リリーさんのものだった。
「あ、すみません。江東です。ティノと一緒に暮らしてる」
「あ、ヨシキチさんですか?」
「はい。あの、リリーさんに俺の連絡先言ってないことに気付きまして……」
良い口実だ。これならイケる!!
「あ、そうですね……すみません、わたしったら、すぐに出て来てしまって……そうですよね、ヨシキチさんの連絡先知らないとわたし、困ります! ありがとうございます、ご連絡。このお電話終わったらすぐにこの番号を登録させていただきますので」
なんか事務的になって来たぞ……。そろそろ切るか。
「では、また」
「はい、失礼いたします」
電話終了と共にあの二人の賑やかな声が聞こえて来た。
やばい!! とスマホをその辺に置く。じーっとその様子を見ていた元気になったスライムに言うなよ! という意味を込めて、ほっぺを二、三回ツンツンと優しく
とってもぷるんとしていた。