マジな話。マニュアルは二枚しかなかった。もう一度……と思って、机の上のやつをクリアファイルから出す。
……ああ、なんて簡単なやつなんだ……。
一枚目は求人情報をさらに詳しくしたもので。
【仕事内容】日本国での対象モンスターのペット化の可能性の有無。雌雄の判別確認。
【期間】対象モンスターが無くなり次第、終了。
などといったことが書いてあり、この仕事は
時給は5000円~10000円となっている。実に素晴らしい金額だ。
顔をにやけさせていたら、クレアとティノにそれを取られ、安すぎる……と言われた。良いんだ、俺にはこれぐらいが似合ってる。今回は初めての異世界仕事だしな! と言って取り上げ、二枚目に移った。
二枚目には今後の仕事のやり方が載っていた。
1、対象モンスターは突然送られて来るので、家を空っぽにしておかないこと。
2、対象モンスターに名前を付けないこと。※そのモンスターの通称で呼ぶと良い。
3、対象モンスターのお世話は忘れないこと。
4、結果報告はパソコン、スマートフォン等から専用ページを開き、送ること。※結果報告が届き次第、次の対象モンスターを送り、到着した時点で結果報告したモンスターを返すこと。
またまた覗き込んで来たクレアに餌はどうすんのよぉ! と言われ、各自用意だと思います。ほら、冒険者と同じように取りに行くやつですよ! とティノが答えていた。
「やたらと書いてない。それはそういうことなのか?」
「そうですね、簡単そうに見えて、案外簡単じゃない。そういうのが多いですよね、これ」
「それ、早く言ってくれよ。俺はてっきり、この日異モンスターマネージがご用意してくれるもんだとばかり……」
「まあ、大体はいらないから。
怖いことを言ってくれるな。この女神は。
「もうお昼ですし、何か作りますか?」
「そうね、朝早くからだったしね。もう荷物の片付けは終わったの?」
「ああ、終わったよ。クレアのように大荷物でもないしな」
「ふーん」
「何だよ」
「イヤらしい本とか持って来てないの?」
「バカですか? 俺はなくても生きていける!」
「へー、そう。だったら、サキュバスが来ちゃったとしても平気ね」
「さ、サキュバス?! それはもう、すでに女か男か分かってるじゃないか! 来るわけないだろ!」
「なに、慌ててんの? 来るわけないでしょ。この、女神様がいらっしゃるのよ! そんな悪魔が来てみなさいよ! 返り討ちよ! 温泉に入りながらでも出来るわよ!」
「ああ、そうですか」
このくだらない展開に終止符を打ったのは紛れもないインターホンの音。
ピピンポーン。
どんな鳴らし方するヤツだよ。
俺は素直に開けようとした。
「ダメよ! ヨシキチ! 引っ越しの挨拶には行ったけど、誰もそんな鳴らし方で開けるヤツはいないわ! それにカメラ付いてるから見てから」
クレアの止めが入ったところでもう一度、ピピンポーン……。何かの合言葉か。
「はーい、今開けまーす」
「ダメだってばー!」
見る前に開けてしまった。
クレアの叫び、ティノの無関心さ。
「こんにちは! お届け物です」
「あら、運び屋さん」
クレアの素の声に俺は安堵する。
変なのじゃなくて良かった。それも日本人みたい。安心……怖い人じゃないし、二十代前半の若者だ。こういう仕事をしているからか、筋肉とかも良い感じに仕上がっている爽やかさ。
「今日は一人なの?」
「ああ、クレアさん、お久しぶりです。そうです。今回のは小さいんで」
「何よ? 何を持って来たのよ?」
「それは……江東良吉様は」
「俺です」
そう言って俺は手を挙げてしまった。彼の手には小さめのダンボール箱がある。
「では、ここにサインをお願いします」
「あ、ハンコ、あるんですけど書くじゃダメですか?」
「良いですよ。では、ここに」
そう言われ、俺はボールペンを貸してもらい、自分の名字をそこに書く。
「はい、では、ありがとうございました!」
彼は爽やかにここを離れて行った。
「大変だろうな……こんな所まで歩いて来てるのかな……」
「走って来てんじゃないの? この前の仕事の時も、あの運び屋さんにお世話になってた人いたな……」
「ふーん……」
俺はクレアのどうでも良い話よりも受け取ったその
「開けても良いかな?」
子供のようにクレアに言ってしまった。
「良いんじゃないの。好きにしなさいよ。あんたの仕事なんだから」
「そうだよな……日異モンスターマネージからだもんな、これ……」
「それにしても、ダンボールで来るなんてね。本当にこれ、モンスター?」
「一応、生物になってる」
「そういうのまで……、まあ、良いわ。細かいことなんて気にしないで開けなさいよ」
「何だよ、クレアもそう思ってたのかよ」
「良いから、早く開けてください。それを見て判断しましょう。餌が必要かどうか」
「そ、そうだな」
俺はティノに言われ、茶色のガムテープを取り、中を見る。
「こ、これは……」
「スライム一匹ですね。透明なスライムです。レベルは1。赤ちゃんレベルです」
「赤ちゃんが出来たのね! 良かったじゃない!」
「何が良いんだよ……」
この女神がどうして喜んでいるのか分からない。
すると、ティノがそれまで持っていた日本の包丁をキッチンのまな板の上に置き、スライムをダンボールの中から慎重に取り出す。
さて、どうしたものか……。
俺はどうやってこいつと親しくなるのか考え出した。
……何も思い付かない、困った。