遅い朝、正社員ではなくなった俺はあれから一週間、ぼーっとしていたわけじゃないが、パソコンの画面を見て、求人情報をぼーっと見る……というのを日課にしていた。
実は実家暮らしである。前の会社から近かった……というのがあるのだが、今はもう出て行け状態。
何となく、居づらい。だからと言って、異世界に行きたいわけじゃない。まして、ここから逃げるためでもない。本当に異世界での派遣の仕事は時給が非常に高く、普通にこの日本で正社員をやっているより良い時があるのだ。
今回応募した求人もそれで、やれるかどうかはやってみなければ分からない。
それが信条だった祖父の教え通り、やってみたのだが……電話は一向に来ない。焦りとかはない。物好きしか、異世界の派遣仕事をしないからだろう。他にも派遣会社はあり、異世界での仕事もたくさんある。
最初の頃は野次馬感覚の人達が多かったようだが、あれから十年。人は皆、それを受け入れ、生きている。だからこのような求人に手を出すのは本当に困っている人か、夢を抱いている大人だけだ。
あまり聞こえて来ない音……スマホの着信音……ビビる! どこからだ……。
株式会社ニホンイセカイ
ゴク……となる前に電話に出る。切れたら終わりだ。
「はい、江東です」
「
あの派遣登録に行った時に担当となった美人のお姉さん。
「あの、それでどうなりました?」
早口で言ってしまった。まずっただろうか。
「はい、先日の社内選考の結果、全ての条件を満たされておりました江東様にぜひ、ということになったのですが」
「そうですかぁ……」
ふわーっと一気に、身体の中から熱いのが込み上げて来る。これは安堵だろうか。
これで仕事が出来る! これで何も言われない!
「パーティメンバーの方々も決まりましたので、後日また改めて、こちらの方に来ていただき、顔合わせなどをしたいのですが」
「はい、喜んで! すぐにでも行きます!」
「え、今すぐですか? それはちょっと、他のパーティメンバーの方の都合もあるので」
「あ、そうですよね! すみません!」
一気に来てるぅー! あ、その前に。
俺はすぐに電話を持ち直し、メモの用意をした。これはフラグではない。真面目な話だ。
「あの、パーティメンバーの方々は女性の方ですか?」
「ええ、お二人とも女性の方で、異世界で生まれ育った方ですよ」
なんと嬉しいことを言ってくれるのだろう! 棧さんは!
「はい、はい! では、失礼致します!」
はあ、数日後! 俺は異世界に行くための準備を着々と進めているような気がしてわくわくしていた。