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派遣社員で異世界の仕事してます!
縁乃ゆえ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年10月28日
公開日
144,623文字
連載中
大型台風によって異世界と繋がった現代日本から派遣社員として異世界でいろんなお仕事をする話。

※小説家になろうにも掲載しています。

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 かれこれ、十年前か――。

 その日、起きた大型台風の爪痕を忘れる人はいないだろう。

 異様な暴風雨と共に落ちた雷によって出来たのだろうか、その大きな穴は地平線とどこかに続いていたのだろうか。

 人々は過ぎ去った大型台風に安堵し、閉めていた窓や扉を開けた。

 そこにあったのは平和的な日常の朝の風景ではなく、この世で言う『異世界』を象徴するモンスター達が動いたり、闘ったり、眠ったりしている姿であった。


 東京だけに起きた現象『異世界化』が今日こんにちでもあるのは引きこもりを少し減らしたりしたそうだが、人は馴染むもので今ではそのモンスター達と仲良くしようという心持ちが至る所に見られ、この派遣会社にもそれは見られる。


 スーツ姿で行き、少し狭い面談室のような所に通され、派遣社員として働く説明を受けた後、電話予約で言われた履歴書と先ほどまで書いていた職務経歴書のようなアンケート用紙を見ながら、二十代半ばくらいのお姉さんは口を開いた。

「正社員であったにも関わらず、前の会社をお辞めになったのは急な事だったんですね」

「はい、電話でも話しましたが、急に会社を辞めてくれと言われまして……ほら、最近、異世界のモンスターさんも会社に……とかっていうクソみたいな法律ができそうになったりしてたでしょう……。まあ、俺のはそれとは違って、赤字になってしまうからっていう……会社都合による退社です!」

 もう、どうでも良いのだ。

 これからは自由にやるさ。

「二十八歳。男性、独身でいらっしゃって……お顔も身長も体格もまあまあ」

「はい! 元既婚者でも子持ちでもありません! ずっと一人です! あ、家族はいますよ。父、母、弟が一人」

「そうなんですね。残業も可能。異世界での仕事に就く為の条件は満たされています。向こうで暮らすことも可能だと」

「はい、ここの求人情報をネットで見た時にこれかな……って思ったので」

「失礼ですが、江東えとうさんは、彼女さんとか、付き合いたいな、結婚したいな、子供欲しいな……とかはないんですよね?」

「はい、ありません! 目の前の担当さんは美人だな……と思いますが、異世界に希望とか、ちょっとあります!」

「そうですか……派遣社員で異世界での仕事をご希望中。そうですね、正社員の方だと命の危険のある仕事もあったりして、既婚者の方の場合、かわいい我が子を残して死なないでほしい……といったご家族からの申し出も多数ございまして、この度の法律の改正で禁止されていますし、成人した男女で派遣社員でしか異世界には行けないのはそういったことがあまりないからで、ガッツリ働きたい方は安全なこの日本でご就職されますしね。まあ、異世界転生者は成人してなくても異世界に行けますが、滅多にないことなのでね……この就きたいと思ったお仕事の理由、稼ぎが良いからですか?」

「はい、やはりお金はあった方が良いかな……っていうのと、異世界に行ってみたいという冒険心ですかね。それが合わさって」

「分かりました。時間はフルタイムで?」

「はい、命と隣り合わせのようなものは希望してないんですが、出来れば軽いので、さっさっと終わってしまうのよりは長期の仕事が良いので」

「そうですね、今回ご応募されたお仕事もそのような感じのものでして、そのモンスターは人間の恋愛対象になるのかどうか……から始まっていまして、ペットになるかどうか、雌雄があるのかどうかを異世界で暮らしながら調べるというのが今回のお仕事内容になりますね。人型モンスターの場合ですと、こうして話が出来るので簡単に分かるのですが、スライムだとかになるとちょっと分からないということでして」

「あの、求人情報に書いてあったパーティメンバーというのは」

「こちらの方でご用意させていただきたいのですが、もう見つけられているとか?」

「いえいえ、そんなことはありません。ただ、そういうのって要ります?」

「何かあった時の為の保険です。そこまで危なくない仕事だとは思いますが、念の為」

「はあ……」

「他に何かあれば聞きますが」

「ありません」

 心配は損だ。なるようになるだけだ。

「他にもご応募されている方がおりまして、一度社内選考をさせていただき、その後、お電話の方に結果をご連絡でもよろしいでしょうか」

「はい、宜しくお願い致します」

 こうして俺は派遣社員として異世界でのお仕事を始めようとしていたのだった。

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