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第67話『誓い』

 それから1ヶ月とちょっとの時が流れて、10月半ば。

 明日は、いよいよ文化祭本番の日だ。

 私たち2年2組の出し物は縁日。

 浴衣や甚平じんべいを着て接客し、ミニゲームや軽食を提供するんだ。


 みんなで相談し、力を合わせて1つ1つ形にしてきた。

 それは、私にとってとても素敵な思い出になった。

 もしかしたら本番より、成功に向かって作り上げる準備の方が楽しかった、なんてことまであるかもしれない。


 そして、文化祭と並行して私の頭の中にあるもう一つの出来事。

 こちらは完全に困りごと、ミユとユウトくんの関係。

 ユウトくんと別れると言い出したミユ。

 その後、二人が話をしているところなんて、ほとんど見ていない。


「まさか、ここまで長引くとはな……」


 明日のための看板の飾り付けをしながら、レンがつぶやいた。


「本当よね。話した感じだと、ミユだってまだ金村くんのことを好きそうなのだけれど」


 その看板を押さえながらアイリはため息をつく。


「でも、ユウトくん。人前で辛そうな顔を見せないのは強いところだよね」


 私は、ちらりと教室の隅に目を向けた。

 そこにはユウトくんがいて、いつもと変わらない様子でクラスのみんなを盛り上げている。

 悲しそうな顔を見たのは、この前の1度きりだった。


 そんな彼を見ながらレンは言う。


「だけどユウト、本当はすごく辛いみたいだぞ。ストレスからか、好きなタマゴの量が増えたって言ってた」

「ちょっと、レン! タバコみたいに言わないで!」


 真面目な話をしていたのに、不意に変なことを言われて思わず吹き出しそうになる。

 でも、ここで笑うのはユウトくんに失礼だと思って、必死で我慢をした。

 隣のアイリも同じ考えなのかな。

 口を押さえて我慢している。

 でも、その肩はプルプルと震えていた。


「……ってゆーか、日野原」

「ん?」

「何も仕事ねーの?」

「あー、うん。さっきまでミユと打ち合わせをしてたんだけど、それもひと段落しちゃったから」

「そっか……。じゃあさ」


 レンの顔が、いたずらっ子みたいに笑った。


「俺と、他のクラスの偵察行かね?」




 準備で混雑している廊下。

 飾り付けをしている人がいたり、大きな声で指示を出している人がいたり、金槌で釘を打つ音が聞こえてきたりと、それはかなり賑やか。

 そんな中を、私とレンは歩いていく。


 本当はアイリにも声をかけたのだけれど……。


「私も一緒に行きたいのだけれど……会計の仕事が残っているのよね」


 そう言って唇を尖らせた。

 いつもは大人っぽい彼女が、レンの前では子供みたいにねている。

 そんな顔もするんだな……。

 なんて、ちょっと意外に思った。


 だけどレンが——。


「明日の空き時間は、みんなで一緒に回ろうぜ」


 と、提案したことで渋々といった様子で納得してくれたのだった。

 それじゃ行ってくると、教室を後にする私たち。


「みんなで……か」


 なんて、アイリが息を吐いていた気がした。



 まず最初に向ったのは、お隣の2年1組の教室だ。


「わぁ! レン、見て!」


 私は、教室の入り口に立て掛けてある看板を指差す。


「男女逆転メイド喫茶だって」

「男がメイド、女が執事の格好をするのか……」

「体育祭のときの私たちみたいだね」

「ああ、そうだな……」


 レンが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 彼が体育祭のときにしたコスプレは、超人気アニメ『紅薔薇姫と白い騎士』の紅薔薇姫。

 レンの圧倒的な演技力もあって、姫の姿や立ち振る舞いを完璧に再現していた。



 あのときのレンの紅薔薇姫は本当に見事で、アニメの中の姫を完璧なまでに再現していた。

 体育祭の後は、レンのファンになったという子たちが、教室に押しかけてきたくらい。


 紅薔薇姫の演技は、レンのお姉さん——ハルカさんに指導してもらったりしたのかな?

 ハルカさんは役者で、今度主演を演じるくらいの実力者だから。

 でも、そのことを知っているのは、今のところ私だけっぽい。

 ふふっ。

 ちょっと優越感♪


「……なに?」


 ニコニコしながらレンを見つめていたら、いぶかしげな目で見られてしまった。


「なんでもないよーっ!」


 そう言って私は笑う。


「マジで、なんなんだよ……」


 ため息をつくレンも、その顔は笑っていた。


 1組の偵察を終えて引き返す私たち。

 自分たちのクラスを通り抜けて、次は3組。



「おー、3組はお化け屋敷だって」

「お、お化け屋敷……」


 私はゴクリとツバを飲む。

 隣のレンが、またいたずらっ子みたいに笑った。


「なに、日野原? お化け屋敷、苦手なの?」

「そ、そ、そ、そんなわけないじゃん!」


 そう答える私だけれど……嘘!

 ほんとは、昔から大の苦手。

 子供の頃にお父さんと一緒に入った遊園地のお化け屋敷では、周りがビックリするくらいに泣いちゃって。

 お化け役の人が飴をくれたりして、一生懸命慰めてくれた記憶がある。


「ふーん、苦手じゃねーんだ? じゃあ、明日、入ってみるか」


 な、な、な、な!!

 なんてことを言うの、この人は!!


「は、入りたいなら入ってもいいよ! でも、私は興味ないから行かない! 外で待っててあげる!」


 ……ふふっ。

 これぞ威厳いげんを保ちつつ、レンの希望を叶えるという大人の立ち回り。

 我ながら、上手い切り返しだ!


「そっか……日野原は興味ないのか」


 残念そうなレンに、私は指を立てて言う。


「やっぱね、文化祭はみんなが楽しめるものじゃないと! その点、うちのクラスって大人も子供も楽しめる! これって最強じゃない?」

「まぁ……その言葉には同意だな」


 そう言って、私たちは笑い合った。

 明日の文化祭も、絶対に成功させたい!

 願わくば、隣の教室から怖い音とか聞こえて来ませんように……。


「んじゃ、次は4組だな」


 4組……。

 ギャルのジュリがいるクラスだ。

 立てかけられた看板。

 気になるその出し物は……。


『ギャル語講座(ピーナッツ食べ放題)』


 わけがわからない……。


 ちらりと教室内をのぞいてみる。

 比較的、派手な子が多くて。

 いわゆるギャルな子を集めたクラスなのか、入った子がギャルに感染していくのか、判断に難しいところ。


「えー、マジで!?」


 そのとき、教室内から大きな声が響いた。


「文化祭、ジュリの彼氏、来んの?」

「ジュリ、呼んだんだ?」

「やめろし! 彼氏じゃないし! 呼んでもいないし!」


 噂のジュリと、友達の声だ。


「あーしには好きな人がいるって知ってんじゃん! てゆーか、タクヤは文化祭に来たいって言うから、勝手にすれば? って言っただけだし!」


 タクヤ……。

 この前、ジュリに〝ヤバたんピーナッツ〟の二つ名をもらった人。

 中学のとき、リコさんの件でレンを人殺しとののしり追い込んだ張本人。

 その軋轢あつれきは、今でも根深く残っている。


 私はレンの手を握った。


「レン、行こう」


 小さな声でそう言って、手を引いてその場をあとにする。

 これ以上ここにいて、レンに昔のことを思い出してほしくなかった。


「……あのね、レン」

「うん」

「文化祭のとき、何があっても守るからねっ!」


 私の言葉に一瞬驚いた顔を見せるレンだったけれど。


「……そっか。ありがとう、頼りにしてる」


 そう言って微笑んでくれた。


 大丈夫!

 私は、タクヤなんかに負けたりしない! 

 右手に伝わる温もりに、そう心に誓った。

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