こうして、体育祭に向けての準備は始まった。
放課後、時間がある人は残って衣装作り。
白騎士の装備品制作班と、紅薔薇姫の装飾品制作班に別れて取り組む。
どちらのキャラも衣装は決まっているから、それに合わせて作っていくことになる。
制作班というのはユウトくんが言い出したのだけれど、なんだかちょっと本格的な気がしてテンション上がる。
「ちょっと図面見せて」
「ごめん、そこのテープ取って!」
みんながワイワイと作業しているのを後目に、私はリュックを背負った。
リュックの中にはジャージが入っている。
「ユイは今からリレーの練習ね。頑張って! 応援してるから!」
「ユイぴょん、ファイトー! おー!」
「ありがと! 行ってくるっ!」
アイリとミユに手を振られ、私は廊下に出た。
そう、私は今から特別メニュー。
今日も、レンと二人で走る練習をするのでした。
更衣室で着替えてグラウンドに出る。
今日は雨が降ってないから外になった。
この時期は体育の時間も体育祭に向けての練習で、体にそこそこ疲労を感じてる。
でも、レンが教えてくれるんだから頑張るしかない!
グラウンドに行くと、すでにジャージ姿のレンがいた。
その隣に並ぶ、金髪の彼女。
制服を大きく着崩したその人は……。
うわっ!
4組のギャルこと、
なんで!?
私は、すぐさまレンの腕を引っ張って、小声で話しかける。
「ちょっと、なんで土屋さんがいるの?」
「しらねーよ。日野原のことを待ってたら、勝手に来たんだよ」
「あのさー。あーしのこと、ノラ犬みたいに言うの、やめてくんなーい?」
「わっ!?」
気が付けば真後ろにジュリがいた。
うちらの口から驚きの声が出る。
「てかさー、人の目の前で内緒話とか、いい度胸すぎん?」
じろりと見る目。
ううっ、威圧感が凄い。
「ご、ごめんなさい」
「悪かったな、土屋」
謝る私たちに、ジュリは笑顔を見せた。
「あははっ、土屋って! あーしはレンくんって呼んでるし、ジュリでいーって」
あれ……?
意外と気さくな人なのかな。
私はおそるおそる口を開く。
「えーと、ジュリちゃ……」
「アンタに言ってねーし」
即座に否定された。
うぅーっ!
私、やっぱこの子苦手だっ!
悔しいので、下の名前を呼び捨てにしてやる!
心の中でだけどっ!
とりあえずジュリは無視して、私たちは練習を始めた。
準備運動をして、軽く走って体を慣らす。
ある程度、体が温まったところで、
「じゃあ、ちょっとそこで待ってて」
そう言ってレンは私を残して走り出す。
その力みのないフォームはとても綺麗で、思わず見とれてしまう。。
そのとき、私の背後から不意にため息が聞こえた。
「ヤバ……レンくん、走るの超キレイだし……!」
「だよねー、テヘヘ」
私と同じことを思ってる人がいたことが嬉しくて。
でもちょっと照れくさくて。
……そう答えたところで、ハッとして振り返る。
その瞬間、ジュリと目が合った。
「ちょ……あーしのヒトリゴトに入ってくんじゃねーし!」
「聞こえちゃったんだから仕方ないでしょっ!」
「しかも、なんでアンタが照れてるし!」
「う、うるさい!」
にらみ合う私たち。
「日野原ー!」
そのとき私を呼ぶ声。
見れば、レンが離れたところから手を振っている。
「そこからここまで、だいたい50メートルだから。昨日の続き、また走ってみて」
「う、うん!」
私はスタート位置で構えると、前を見つめた。
レンと、そしてジュリにも見られてると思うと、緊張はより一層強くなる。
「用意……スタート!」
レンの言葉と同時に、私は全身に力を込めた。
強く大地を踏み締める。
早く走らなきゃ!
早く走らなきゃ!
それだけを思って一生懸命に足を動かすけれど。
気持ちばかりが前に行って、あまりスピードが出ている気はしない。
そのままゴールを駆け抜ける。
レンがスマホのストップウォッチを読み上げる。
「……10.09秒だな」
うーん。
やっぱり、昨日とほぼ変わりない。
「えーと……」
頬をかくレン。
その口が開く前に、あとから来たジュリがズバッと言う。
「足、遅くね?」
ぐさっ!
「あーしも足は早い方じゃないけど、でも、絶対あーしの方が早いって!」
ぐさっぐさっ!
「ねーアンタ、日野原さんだっけ? あーしと勝負してみん?」
「なんで私がそんなことを!」
不意にジュリの顔が、意地悪く笑う。
「あー、でも、彼氏の前で恥はかきたくないかー」
「か、彼氏じゃないって!」
「ふぅん? じゃあ、勝った方がレンくんと付き合えるってことで!」
「は!? 勝手に何言ってんだ!」
レンが驚きの声をあげる。
ほんと、なんなのこの人……!
自分勝手が過ぎない!?
温厚な私も我慢の限界というものだ!
私は、キッとジュリをにらんだ。
「いいよ、やろう!」
「ちょっと待て、日野原までなにを!」
「大丈夫、私に任せて!」
彼女も足は早い方じゃないって言ってるし、私が勝つに決まってる!
なんと言っても、私は放課後こうして特訓だってしてるんだからね!
まぁ、まだ二日目だけど……。
「あ、そうそう!」
ジュリが私を見てニヤリと笑った。
「ちなみに、あーしのベストは9.5秒だからね」
サーッ……。
私の中に、血の気の引く音が響き渡った。