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第37話『恋はバトル』

 こうして、体育祭に向けての準備は始まった。


 放課後、時間がある人は残って衣装作り。

 白騎士の装備品制作班と、紅薔薇姫の装飾品制作班に別れて取り組む。

 どちらのキャラも衣装は決まっているから、それに合わせて作っていくことになる。


 制作班というのはユウトくんが言い出したのだけれど、なんだかちょっと本格的な気がしてテンション上がる。


「ちょっと図面見せて」

「ごめん、そこのテープ取って!」


 みんながワイワイと作業しているのを後目に、私はリュックを背負った。

 リュックの中にはジャージが入っている。


「ユイは今からリレーの練習ね。頑張って! 応援してるから!」

「ユイぴょん、ファイトー! おー!」

「ありがと! 行ってくるっ!」


 アイリとミユに手を振られ、私は廊下に出た。

 そう、私は今から特別メニュー。

 今日も、レンと二人で走る練習をするのでした。


 更衣室で着替えてグラウンドに出る。

 今日は雨が降ってないから外になった。


 この時期は体育の時間も体育祭に向けての練習で、体にそこそこ疲労を感じてる。

 でも、レンが教えてくれるんだから頑張るしかない!


 グラウンドに行くと、すでにジャージ姿のレンがいた。

 その隣に並ぶ、金髪の彼女。

 制服を大きく着崩したその人は……。

 うわっ!

 4組のギャルこと、土屋つちや 樹里じゅりだっ!


 なんで!?

 私は、すぐさまレンの腕を引っ張って、小声で話しかける。


「ちょっと、なんで土屋さんがいるの?」

「しらねーよ。日野原のことを待ってたら、勝手に来たんだよ」

「あのさー。あーしのこと、ノラ犬みたいに言うの、やめてくんなーい?」

「わっ!?」


 気が付けば真後ろにジュリがいた。

 うちらの口から驚きの声が出る。


「てかさー、人の目の前で内緒話とか、いい度胸すぎん?」


 じろりと見る目。

 ううっ、威圧感が凄い。


「ご、ごめんなさい」

「悪かったな、土屋」


 謝る私たちに、ジュリは笑顔を見せた。


「あははっ、土屋って! あーしはレンくんって呼んでるし、ジュリでいーって」


 あれ……?

 意外と気さくな人なのかな。


 私はおそるおそる口を開く。


「えーと、ジュリちゃ……」

「アンタに言ってねーし」


 即座に否定された。


 うぅーっ!

 私、やっぱこの子苦手だっ!


 悔しいので、下の名前を呼び捨てにしてやる!

 心の中でだけどっ!


 とりあえずジュリは無視して、私たちは練習を始めた。

 準備運動をして、軽く走って体を慣らす。

 ある程度、体が温まったところで、


「じゃあ、ちょっとそこで待ってて」


 そう言ってレンは私を残して走り出す。

 その力みのないフォームはとても綺麗で、思わず見とれてしまう。。

 そのとき、私の背後から不意にため息が聞こえた。


「ヤバ……レンくん、走るの超キレイだし……!」

「だよねー、テヘヘ」


 私と同じことを思ってる人がいたことが嬉しくて。

 でもちょっと照れくさくて。

 ……そう答えたところで、ハッとして振り返る。

 その瞬間、ジュリと目が合った。


「ちょ……あーしのヒトリゴトに入ってくんじゃねーし!」

「聞こえちゃったんだから仕方ないでしょっ!」

「しかも、なんでアンタが照れてるし!」

「う、うるさい!」


 にらみ合う私たち。


「日野原ー!」


 そのとき私を呼ぶ声。

 見れば、レンが離れたところから手を振っている。


「そこからここまで、だいたい50メートルだから。昨日の続き、また走ってみて」

「う、うん!」


 私はスタート位置で構えると、前を見つめた。

 レンと、そしてジュリにも見られてると思うと、緊張はより一層強くなる。


「用意……スタート!」


 レンの言葉と同時に、私は全身に力を込めた。

 強く大地を踏み締める。

 早く走らなきゃ!

 早く走らなきゃ!

 それだけを思って一生懸命に足を動かすけれど。

 気持ちばかりが前に行って、あまりスピードが出ている気はしない。


 そのままゴールを駆け抜ける。

 レンがスマホのストップウォッチを読み上げる。


「……10.09秒だな」


 うーん。

 やっぱり、昨日とほぼ変わりない。


「えーと……」


 頬をかくレン。

 その口が開く前に、あとから来たジュリがズバッと言う。


「足、遅くね?」


 ぐさっ!


「あーしも足は早い方じゃないけど、でも、絶対あーしの方が早いって!」


 ぐさっぐさっ!


「ねーアンタ、日野原さんだっけ? あーしと勝負してみん?」

「なんで私がそんなことを!」


 不意にジュリの顔が、意地悪く笑う。


「あー、でも、彼氏の前で恥はかきたくないかー」

「か、彼氏じゃないって!」

「ふぅん? じゃあ、勝った方がレンくんと付き合えるってことで!」

「は!? 勝手に何言ってんだ!」


 レンが驚きの声をあげる。


 ほんと、なんなのこの人……!

 自分勝手が過ぎない!?

 温厚な私も我慢の限界というものだ!

 私は、キッとジュリをにらんだ。


「いいよ、やろう!」

「ちょっと待て、日野原までなにを!」

「大丈夫、私に任せて!」


 彼女も足は早い方じゃないって言ってるし、私が勝つに決まってる!

 なんと言っても、私は放課後こうして特訓だってしてるんだからね!

 まぁ、まだ二日目だけど……。


「あ、そうそう!」


 ジュリが私を見てニヤリと笑った。


「ちなみに、あーしのベストは9.5秒だからね」


 サーッ……。

 私の中に、血の気の引く音が響き渡った。

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