二人で一つの傘に入った帰り道。
それから一日が明けた。
今日の放課後も、体育祭の打ち合わせのためにみんなで残っている。
「姉貴から、紅いドレスをもらってきたぜ」
「私も、騎士風の白い服を持ってきたわ」
そう言って、大きな紙袋を取り出す実行委員クンと、クラスメートの女の子。
「サイズ、大丈夫かな?」
「一度、着てみないとわからないよね」
「どんな感じになるか、知りたいよな!」
クラスのみんなからの言葉。
というわけで……。
今月から夏服になり生地も薄いということで、とりあえず制服の上から着てみることに。
「サプライズ感を出したいから、着替え中は見ないようにしよう!」
という実行委員くんの提案で、みんなは教室の後ろに移動する。
私とレンは、それぞれ紙袋を渡されて教卓の影に隠れた。
「えーっ!? これ……私、似合うかなー?」
「ちょ、ちょっと待て! 俺、これかよ!?」
「あ、ダメだよっ! 今さら逃げるのは、なしだからねっ! 私だって恥ずかしいんだからっ!」
「くっ……!」
クラスのみんなに見えないように、レンと密着して着替える。
普段なら、絶対にドキドキするシチュエーション!
だけど今は、着なれない服に着替えてお披露目するドキドキの方が少しだけ勝ってる。
とはいえ、いつまでもここに隠れてるわけにもいかない。
深呼吸をして覚悟を決める。
「レン、私、行くね!」
そう言って、私は教卓の影から出た。
みんなの視線が一斉に集まる。
高まる緊張!
「ど、どうかな?」
——次の瞬間、
わぁーっ!
と、歓声が響いた。
「ユイ、とてもよく似合ってるわ!」
手を叩くアイリ。
クラスのみんなも、それに同意する。
「ほ、ほんと?」
「うん! ユイぴょん、本当の白騎士みたーい!」
そう、私が着ているのは、白い騎士の服だ。
まるで新雪みたいな、純白のジャケットと純白のズボン。
それらは金の
清廉潔白な凛々しさ。
まさに、白い騎士の服装だった。
「ちょっと、クルッと回ってみて」
「こ、こう?」
「わぁー、サイズもピッタリー!」
最初は不安と照れくさい気持ちだった私だけれど、みんなの声にだんだんと気持ちよくなってきて。
なるほど、コスプレをする人ってこんな気持ちなんだな……。
と思った。
そして、私が騎士の格好をしているということは、レンは当然——。
「ううっ……なんで俺が姫なんだ……」
——そう!
教卓の影から現れたレンは、紅薔薇姫の深紅のドレスを身に
サテン生地で作られたそれは、ため息をが出るほど美しい光沢だ。
私の白騎士衣装と並んでも遜色がない。
首周りの大きくあいたデザインは、本番ではきっとみんなの目を引くだろう。
「キャー、レンちゃーん、可愛いー!」
男子の黄色い声に、レンの顔がドレスと同じ色に染まる。
「……これって、俺が着ないとダメなのか?」
「うちの姉貴、バレーボール部だったからね。身長173センチあるんだよ」
消え入りそうなレンの声。
悪びれる様子もなく実行委員の彼は答える。
「ユイぴょんはー、何センチだっけー?」
「私、158センチ。レンは?」
「……175センチ」
「やっぱり、月島が着るしかないな!」
実行委員の言葉に満場一致。
レンは、諦めたようにがっくりと肩を落とした。
「いいじゃん、レンちゃん。可愛いよ、レンちゃん!」
「くっ……ユウト、あとで覚えとけ!」
からかうユウトくんを、レンは恨みのこもった目でにらむ。
そのあと、アイリに目を向けた。
「……水本はいいのか? これこそ原作崩壊なんじゃねーの?」
レンの言葉に私はハッとした。
そ、そうだった!
完璧主義のアイリには、譲れないこだわりがあるんだった!
そういえば、レンが出てきてからアイリは一言も話してない気がする。
もしかして、激しい怒りで何も言えなくなってるんじゃ……。
内心、ドキドキしながらアイリの顔を見る。
——って、あれっ?
なんか、うっとりとした目をしてる!?
「あ、あの……アイリ?」
「月島くんの紅薔薇姫……これはこれでアリかもしれない……」
頬に手を当てて、幸せそうなその表情。
うーん。
アイリって、ときどきよくわかんない……。
「とりあえず、衣装はこれで大丈夫そうだけど……二人はこれでいい?」
実行委員くんの言葉に私はうなずく。
「うん、私は大丈夫だけど……」
みんなの目がレンに向く。
うつむく彼。
しばしの沈黙。
……ややあって。
「……っ!」
レンは短く息を吐くと、顔を上げた。
「あー、もう、覚悟を決めたわ! そのかわり、やるからには絶対に勝つぞ!」
拳を握るレンに、教室内は一気に盛り上がる。
「よーしっ! あとは、白騎士の鎧と紅薔薇姫の装飾品だな!」
「俺、鎧の設計図作ってみるわ!」
「じゃあ、私は姫の装飾品を作る!」
「見た目はもちろん、二人が走りやすいようにしないとだね!」
クラスが団結して、一つの方向に動き出す。
こーゆーのって、いいよね!!
そして……。
恥ずかしそうなレンは新鮮で。
なんだか、とても可愛くて。
そんなレンも凄くいいっ!!
そのとき、不意にレンが私を見た。
その顔が少しだけ照れくさそうに笑う。
「……頑張ろうな」
「うんっ!」
私も笑顔で応える。
色々不安はあるけれど、今はクラスの勝利のために!