公園内を巡る私たち。
自転車に乗ったり、動物と触れ合ったり、温室でお花を眺めたり。
もちろん、学習という言葉が付いているだけあって、手放しで遊んでいたわけじゃない。
動物やお花の生態をノートにまとめたりだってした。
ちゃんと学習しているのだ。
12時になり、お弁当タイムがやって来た。
私たちはリュックからレジャーシートを取り出し、公園の広場の芝生の上に広げてそこに座った。
……っと、あ。
見れば、ミユとユウトくんは一つのシートに二人で座っている。
「今日はねー、ユッたんのためにいーっぱいご飯作ってきたからねー」
「え、ホントに? めっちゃ嬉しいんだけど!」
ミユの趣味は可愛いもの集めとお菓子作り。
ユウトくんと出会ってからは、お弁当作りも楽しくなったみたい。
「いーっつも美味しいー! って言ってー、ぜーんぶ食べてくれるんだよー!」
なんて言ってたこともある。
ミユは傍らのリュックに手を入れると、そこからおかずが入った容器を取り出す。
その数は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ……。
「わ、わぁ……俺、食べきれるかなー……」
まだまだ出てくる可愛い容器を前に、ユウトくんは真剣な表情でゴクリとツバを呑んだ。
ミユとユウトくんは恋愛教習所通いも順調のようで、あと1か月もしないうちに卒業検定を受けられそうだと話していた。
卒検に合格した後は免許センターで学科試験を受け、それに合格して初めて恋愛免許証を手にすることができる。
大変なこともあるかもしれないけれど、この二人ならきっと大丈夫だろう。
まったく、羨ましい限りで……。
「……あれ? ちょ、マジかよ!」
そんなことを思っていると、隣のレンが騒がしい。
「どしたの?」
「いや……俺、シート持ってくるの忘れたみたいだ」
困ったように頬をかくレン。
「ま、いっか。芝生の上に直に座っても」
なーんて言ってる。
ふふっ、ほんと手が焼ける子だ。
「レン!」
「ん?」
「そういうとこだぞっ!」
「……なにがだよ」
私は自分のシートを、ぽんぽんと叩く。
「おいでよ。半分貸してあげるっ」
レンはショウ先輩に「日野原の保護者です」なーんて言ってたけれど。
まったく、どっちが保護者なんだか。
私からのお誘い。
でも、レンはポリポリと頬をかいてこっちに来ようとしない。
私は首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……日野原のシートさ。どう見てもひとり用じゃね?」
「え? ……あ!」
そう、私が持ってきたシートは90センチx60センチの一人用シート。
小学生の頃から愛用しているお気に入りのこれは、高校生二人が並んで座るにはちょっと小さすぎる。
でも、一度口にしてしまった以上、引き下がることはできなくて。
「いいじゃん! ぴったりくっついて座れば大丈夫だよっ!」
「は? そんなこと、できるわけねーだろ! 第一、飯が食いづらいだろ!」
「じゃあ、食べなきゃいいじゃん!」
「……なら、何のために座るんだよ」
ため息をつくレン。
そこにアイリが声をかけてくる。
「ねえ、月島くん。良かったら私のシートも半分貸そうか? 私のシートも一人用だけど、ユイと合わせれば三人で座れるでしょ」
その言葉に従って、私たちは無事に三人でシートに座ってお弁当を食べることができた。
さすがアイリ、機転が利く。
私も、冷静に物事を見る目を持たなくちゃ……。
『何事にも真っ直ぐなユイちゃんはとても素敵だけど、もう少し周りに目を向けてもいいかもね』
不意に、ショウ先輩の言葉が蘇って。
慌てて頭を振って追い出そうとした。
お弁当を食べ終わったあと、私たちは公園の中央を目指して歩いた。
「私ー、ボートに乗りたいなー」
という、ミユのリクエストに応えるためだ。
もちろん、誰一人異論はなくて。
なんなら、ちょっと楽しみとさえ思っている。
キラキラと木漏れ日が射す中央道を抜けると、急に開けた場所に出た。
私の目の前に広がるそれに、私は感嘆のため息を漏らした。
「わぁー、大きな沼ーっ!」
「池だって言ってんだろ」
この前のクラス会議のときと同じように、レンが即座に突っ込んでくる。
そのテンポの良さに、私は「ふふっ」と笑った。
ボート乗り場に行くと、かなりの人が並んでいた。
そのうちの大半が、うちの高校の生徒で。
ネクタイの色が違うので、2年生と3年生が入り混じっているのがわかる。
それに対しボートのスタッフはおじさん一人で、帰ってくるボートと出ていくボートの処理で手一杯に見えた。
「手漕ぎボートが3人乗りで30分400円、ペダルボートが2人乗りで30分800円だって」
「はわぁ、ペダルの方が高ーい!」
キャッキャとはしゃいでいる二人に私は声をかける。
「ミユとユウトくんで乗りなよ。うちらは3人で乗るから」
「えー、いいのー?」
「もちろん! 二人の邪魔はできないって。ね、アイリ!」
だけど、アイリは申し訳なさそうに首を横に振る。
「あー……ごめんね、ユイ。私はパスで。ボートって昔からダメなのよ。揺られてると気持ちが悪くなっちゃって」
「そ、そうなんだ」
残念。
言われてみると、心なしかもうすでに顔が青白い。
「じゃあ、私は……」
ちらりと隣を見るとレンと目が合った。
彼は目線をそらしながら、
「じゃ、じゃあ、二人で乗るか……」
「う、うん……」
少し恥ずかしそうに言う彼に、私もなんだか恥ずかしくなってくる。
っく、やば……っ!
私、顔、赤くなってないよね?
「それじゃ、私は向こうのベンチで待ってるから」
「ごめんね、アイリ」
「ううん。ちょうど読みたい本もあったしね」
そう言って、ポケットから難しそうな本を取り出した。
さ、さすが、学年トップ!
アイリと離れ、
ようやく、ペダルボートと手漕ぎボートの2
話し合いの結果、ミユとユウトくんはペダル、私とレンは手漕ぎに決まった。
スタッフのおじさんにボートを押さえてもらいながら乗り込むミユとユウトくん。
「いってきまーす!」
なんて嬉しそうに手を振ってる。
ほんと可愛い子。
桟橋から離れていくミユたちを見送って、次は私たちの番。
おじさんにボートを押さえてもらっているけれど……。
ゆらゆらと揺れて……あ、案外怖い。
「落ちないように気を付けてね。5月の水はまだ冷たいからね」
おじさんにそう言われ、びくびくしながら慎重に乗り込む。
そのとき、ボートの横を何かが通り抜けた。
驚きながらも目を向けてみると、
「わ……すごっ!」
それは、たくさんの鯉たちだった。
大小の鯉が間近を泳いでいく様は、まさに圧巻!
そのほとんどが黒い色をしているけれど、その中に数匹だけ白いものもいて。
それが一際目を引いていた。
「エサもあげられるからね」
そう言っておじさんが指差す先。
桟橋から少し離れた売店には、
『コイのエサ、あります』
と、大きな字で書かれた看板が出ていた。
「買いたいなら行ってきていいよ。このロープでボートと柱を結んどくから」
そう言っておじさんはロープを取り出す。
「日野原、エサやりたいか?」
「う、うん。でも、いいの?」
「いいよ。俺も、楽しい思い出を作りたいからさ」
そう言って、レンは
「それじゃ、彼氏さん帰ってきたら声かけてね」
ロープで縛り終わると、そう言っておじさんは桟橋の反対側に行ってしまった。
揺れるボートに一人、ぽつんと取り残された私。
「彼氏さん……だって」
おじさんの言葉を繰り返すと……。
ダメ、思わず顔がニヤケちゃう。
心が幸せで満たされていくような……。
「日野原さん!」
そのとき、ふと声をかけられて、私は我に返った。
顔を上げると、そこには女子生徒が3人立っていた。
ネクタイの色から同じ2年生だとわかる。
「ちょっと……いいかな?」
一人の子が、そう言って微笑んだ。