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エピローグ:『で』ではなくて、『が』がいい。

「何見てるんだ?」

「フレン様」


 少しぼんやりとしていた私の隣に気付いたら立っていたフレン様が、私の視線の先を追う。

 そしてその先にあったものにぎょっとした。


「最初に投げられた短剣と、フレン様の胸に刺さった短剣で。なんか、寄り添ってて私たちみたいだなって」

「えらい物騒だし尖ってんだけど。というか凶器」

「でもほら、隣同士で並んで……なんか似てません?」


 並べられた二つの短剣を前に少しだけ眉をひそめたフレン様が、そうかぁ? なんて首を傾げつつ短剣を見つめる。


「まぁ、お互い最初は尖ってたのかもしれないな。俺は信じられる相手がいなかったしオリアナだって」

「えぇ? そんな思春期みたいな例えされましても」

「オリアナが! 言い出したんだよッ」


 なんでだよ、と文句を言いながら、ぷっと思い切り吹き出されると、そんな彼に釣られて私も小さく吹き出した。


(確かに最初はそうだったのかも)


 誰かが明確に悪い訳じゃない。

 いつか絵本の中の王子様と結婚するんだとそうずっと思い、カミジール殿下に相応しい力をつけるべく鍛練を重ねた。

 そしてやっと与えられた国一番の称号は、私を簡単に絶望へ突き落とした。


(勘違いした父も、ちゃんと話さなかった私も良くないところは沢山あったわ)


 明確に誰が悪い、ということがないことも私を苦しめ、ずっと胸に引っかかっていた。だからこそ『その言葉には、もう乗りません!』と何度も何度も口にしたのに。


「オリアナ?」


 結局私はフレン様の言葉に乗り、そしてかけがえのない人を手に入れたのだ。


「色々ありましたけど、幸せだなって考えてました」

「そうか」


 耳元でフレン様が笑った気配がし、私の頬を彼の銀髪がふわりとくすぐる。


「ウェディングドレス、上半身は騎士服をモチーフにして詰め襟にしてもいいかもな」

「詰め襟、ですか?」


 きっと騎士である私の誇りを汲んでくれたのだろう。

 そんなドレスも悪くない。騎士である私にはむしろピッタリかもしれないけれど。


「……ドレスは、フレン様の好みのを着たいです」

「じゃあ脱がしやすいやつ……いだっ!」

「なんですか?」

「オリアナに、一番似合うやつ……!」

「はい、了解いたしました」


(私に似合うやつか)


 それはどんなデザインだろうか。


(フレン様が言ってた騎士服をモチーフにしたものも私らしいかも?)


 案外最初の発案が一番しっくりくるかも、なんて考える私に告げられたのは、私のイメージとはかけ離れたものだった。


「ふわふわとしたお姫様みたいなやつがいいんじゃないか?」

「お姫様、みたいな……ですか?」


 お姫様、という単語にドキリとする。

 守られるか弱い令嬢ではなく守る矛である自覚があるからこそ、その言葉に少し萎縮してしまったのだが。


「俺にとってのお姫様だからな」

「お姫様……?」


(私が?)


「私、フレン様より強いですけど」

「それは確かに」

「筋肉だってがっつりありますし」

「努力した結果だろ」

「それに」

「あのさ」


 肩を軽く引かれ、くるりと振り向かされると同時にふわりと抱き上げられて。


「強いお姫様も、筋肉モリモリのお姫様も探せばいるしそれでいいんだよ」

「それで、いい?」

「オリアナがいいって何回言わせるんだ」


 少し不服そうに見つめられるが、彼のそんな表情すら可愛く感じる。


(私は、私のままで――)


 筋肉もあるし、鍛練で出来たマメもある。

 指の皮膚は固くてゴツゴツしているけれど。


「……何回でも言われたいです、フレン様になら」


 私でいい、ではなく、私がいい、と彼が選んでくれたから。


(憧れていた絵本の中の王子様とは少し違うけど)


「フレン様が、私の……私だけの王子様です」

「ま、俺は正真正銘の王子なんだけどな」

「すぐ意地悪言う!」

「事実を伝えただけだっつの」


 はは、と笑い合い、そっと唇が重なった。



 彼が選んだ、ふりふりでふわふわの絵で描いたようなウェディングドレスに騎士らしく帯剣した私が、護衛として彼の半歩後ろではなく妻として隣に立つのも、きっとあと少し――……


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