「怪人だああああ!!!」
街中に響く悲鳴
住民たちは叫びながら一斉に逃げ出す
街の中心には異形の姿をした怪人の姿があった
「うっひょひょひょん・・・」
【C級怪人 ぬらりひょんの身内】
それをテレビカメラで回す報道陣
「街中に怪人が現れました!!住民の皆さんは速やかに避難してください!
大丈夫です!ヒーローや魔法少女たちが助けに来てくれます!」
「そこまでだ!!」
報道陣の言葉に応えるように
一人の声が響く
「だ・・・誰だ!?」
怪人が振り向くと一つの影
背は低く角刈りであり
厳つい顔つきの男だった
「ヒーロー、堺 大地・・・ここに見参!!」
「おお!ヒーローだ!!」
「みなさん、ご安心ください!ヒーローが現れました!!」
市民や報道陣はヒーローの登場に歓喜する
そしてヒーロー、大地は構えをとり・・・
「変・・・態!!」
「え?」
「今変態って言った・・・?」
市民達は少しざわつく
大地は眩い光を放ち、それから現れた姿は・・・
「「「「変態だああああああ!」」」」
住民や報道陣たちは叫び上げる
変身、いや変態した大地の姿は・・・
「上半身裸の上にコート、マフラーって・・・
暑いのか寒いのかどっちなんだよ!!」
「しかも下半身は海パンだけじゃねえか!
靴もサンダルって・・・実用性考慮しろよ!!」
「あれが一体どう戦うんだ!?」
大地は怪人の腕を掴み・・・
「えぇー!?ヒーローの攻撃手段が『関節技』って・・・
地味ぃーーーーー!!」
「しかも決まってない!」
市民や報道陣たちは困惑を隠せない
大地は怪人と距離をとり、大声で叫ぶ
「これで決める!俺の必殺技を!!」
怪人の背後から全身を掴み空高く飛び上がり
そして頭を地面に向けて勢いよく落下する
「必殺!ローリングメテオインフェr・・・」
\ ズボッ/
必殺技を叫ぶ途中に
大地と怪人は共に上半身が地面に埋もれ
下半身だけが無様に地上からさらけ出す
「なんだあれ!」
「ウケる!!」
「でも怪人は倒せたみたいだぞ!」
「い・・・以上・・・住民に怪我人はなく解決できました・・・」
「あははははは!!」
市民達は大地の戦いに大笑いをあげていた
\ ブッ!/
・・・・・・・
〜ヒーロー、魔法少女たちの事務所〜
「だっはっはっはっは!!」
一人で笑い声を上げている大地
「笑い事じゃないわよ・・・」
声をかけてきたのは、金髪でショートの癖毛のある
メガネをかけた20代半ばほどの女性だった
「あ!小夜さんお疲れっす!」
「和歌山さんと呼びなさい。私はあなたの上司なんだから・・・」
和歌山 小夜(わかやま さよ)彼女もまた事務所に属する魔法少女の一人
年齢的に少女ではないが、魔法少女は職業の名称みたいなもので、多少の矛盾は仕方ない
「小夜さんも見てくれましたか!?俺の勇姿!」
意気揚々に語る大地とは裏腹に小夜は呆れている
「何よ、あの変な戦い方・・・」
「みんな笑ってたじゃないですか!」
「笑われているのよ!!」
小夜が軽く怒っても大地は笑い続けている
「怪人も倒せて市民達も笑ってる!何も問題ないじゃないですか!」
「問題ありだ」
二人の背後に一人の男が現れる
黒スーツにサングラス、髪型は七三分けで顎が割れており
見るからに怪しい人物だった
「だ、誰!?」
驚く大地の後ろで小夜はそっと伝える
「事務所の広報部部長よ」
「堺 大地くん、君には非常に呆れている
なんだあの無様な戦いっぷりは
君はヒーロー、魔法少女達の中でもぶっちぎりで人気がない!!」
「それがどうした!
ヒーローに人気とか関係あるのかよ!」
「それが大いに関係あるのだよ!
ヒーロー活動には金が必要!つまり人気が必要なのだ!!
グッズ販売や動画視聴による利益など・・・それらを通して我々は運営している!
ヒーロー堺 大地、これは命令だ。君はしばらく出撃するな!」
「えええ!?」
・・・・・・・・
怪人が現れ始めたのは3、4年前
何が目的で、どこからきているのかはわからない
ただ攻撃性が高く、人類の脅威であった
そして、対怪人として設立されたのがヒーロー、魔法少女達
『変身』という技術を生み出し、人間の能力を大きく上昇させている
〜事務所の休憩室〜
大地は他のヒーロー達の活躍している動画や記事を眺めていた
「やっぱり納得いかない?」
小夜は優しく大地に声をかける
「・・・」
大地はずっと黙ったままだった
「あなたの言い分もわからなくはないけどね・・・
でも、私たちは慈善事業だけではやっていけない。お金は・・・必要なの。変身にかかる費用も安くない」
小夜が大地を宥めていると・・・
『怪人警報!怪人警報!!近くにいるヒーロー、魔法少女は直ちに出撃してください!』
サイレンの音が響き空気は一気に緊迫する
「怪人!?私が出撃するから大人しくしてなさいよ!」
小夜は急いで怪人の出現場所に向かう
・・・・・・
「うわあああああああ!!」
「きゃあああああああ!!」
「怪人です!怪人が現れました!!市民の皆さんは急いで逃げてください!」
逃げ惑う市民達
その奥から現れる一つの影
「あっひゃっひゃっひゃ!」
【A級怪人 修羅】
現れた怪人は下半身は胴着のようなものを履いており
上半身は赤く裸で腕が4本ある異形の存在だった
そこに一人の女性が立ちはだかる
「そこまでよ!魔法少女 小夜があなたを討つ!」
小夜の登場に報道陣や市民は盛り上がる
「小夜って確かすごく強いんだっけ?」
「ああ、戦ってるのは見たことないが、上位10番以内ぐらいと言われている!」
〜事務所〜
「小夜が出撃なら大丈夫だな」
「ああ、それどころか生配信で視聴者数をかなり稼げそうだ」
「よし、主題歌やグッズ販売のアピールの準備をしておけ!」
事務所の上層部
彼らが見ているのは住民の安否よりも経済的な利益だった
しかし・・・
〜怪人の出現場所〜
小夜は修羅と戦うが・・・
「かはっ!そ、そんな・・・」
怪人 修羅の圧倒的な強さに小夜はやられてしまい
変身も解けて無防備な状態となる
「うわあああ!!小夜がやられたああああああ!!」
「お、落ち着いてください!みなさん!!すぐに次のヒーローが駆けつけてくれます!」
混乱状態になる市民達と落ちつかせる報道陣
〜再び事務所〜
「バカな!?小夜がやられるなんて!」
「どうする!?あいつに勝てそうなヒーローや魔法少女なんて近くにいないぞ!?」
「やむを得ない・・・軍隊に依頼するしかないか・・・街に被害が出るが仕方ない。」
「俺が行く!」
上層部の声を遮るように声を上げたのは大地だった
しかし広報部部長は呆れるように言う
「大地くん、私は君に出撃するなと命令したはずだ。
君の行動はヒーロー達の名誉に傷をつけるのだよ」
「名誉を傷つけるからなんだ!
市民や大事な人たちが傷つくことから守るのがヒーローだろ!!」
大地は走って怪人の場所に向かう
「・・・」
大地の言葉に事務所の上層部達は沈黙していた
〜怪人の出現場所〜
怪人修羅は声を上げる
「戦える奴はいないのか!?いないのであれば街を破壊し尽くす!」
修羅が街を破壊しようとすると・・・
♪ズンチャズンチャッズンチャズンチャッ
「な・・・なんだ!?この陽気なサンバのリズムは!?」
場にふさわしくなさすぎるBGMと共にやってきたのは
「いええええええええええい!!」
奇声を発しながら登場する
変態の姿をした大地の姿があった
それに小夜は困惑する
「だ、大地・・・?」
「え!?あの時の変態!?」
「あいつ強いの!?」
大地はポーズを決め
「ヒーロー堺 大地、ここにさんじょ・・・」
怪人 修羅は大地の顔面に強烈な一撃を喰らわせる
「ぶふぉお!?」
その後も修羅は4本の腕で大地を殴り続け
市民達は困惑する
「あいつ何がしたいんだ!?」
殴られ続ける大地の脳裏に、一つの記憶が蘇る
ー5年前・・・・
「あはは・・・
お兄ちゃん、お兄ちゃんは本当に面白いね!
笑っている時はどんなに辛いことも忘れることができるんだよ!
私の命が残り僅かだということも・・・
だから、もし私がいなくなっても多くの人たちを笑わせてほしい・・・
だってお兄ちゃんは、私の自慢の『ヒーロー』なんだから・・・」
・・・・・・
「あああああああああ!!!」
「な!?」
叫び声と共に大地は拳を握り締め強く振り上げる
強烈な一撃は怪人修羅の顎に命中させた
体は空高く宙に舞い、そして地面に叩きつけられ
ダメージの限界を超えた修羅の体は消滅していく
「・・・え?」
「え?」
「え?」
「「「つええええええええええ!!!?」」」
あまりの一瞬の出来事に市民や報道陣達は驚愕する
ふらつきながらも大地は報道陣たちのカメラに向かって話し始める
「みんな聞いてくれ・・・。
俺は・・・どんな怪人にも絶対負けない!
怯えなくても、怖がらなくてもいい。笑っていてくれ・・・
いや、笑わせてやる・・・!
それが俺の・・・描いたヒーローなんだ。」
⭐️おしまい⭐️