それから食料品を買うため、その下の大きなスーパーに移動。
カートにカゴを二つ乗せて、材料を書いたメモをカバンから取り出す。
「じゃあ、まずは野菜から!」
そう伝えてカートを押そうとすると。
「いいよ。オレ持つ。お前は好きに動いてカゴに入れな」
「あっ、ありがとう」
おっ、優しい理玖くん。
あたしは早速その理玖くんの優しさを感じつつ、トマトや玉ねぎなど必要な野菜を入れていく。
「あっ、あった! アボカド!」
と、アボカドを見つけてそこに向かう。
「えっ、高っ! アボカドって今こんな高いんだ!?」
「へぇ~そうなんだ。オレもアボカドの値段なんて知らなかったわ」
「だよね。でも今回の料理にはアボカド必須なんだよ!」
「フッ。お前ここでもアボカド使うんだ」
「当たり前じゃん! まず何作ろうか決まったのはアボカド料理だからね」
「ハハ。マジか。筋金入りだな」
「うん! で、すぐ食べれるちょうどいい感じの柔らかさは……」
と、かなり茶色になって柔らかそうなアボカドを手で握り確かめる。
「アボカドってそんな感じなんだ?」
「そう。この緑のやつだと固くて全然食べれないからね。すぐ食べるならもうとろけるくらいの柔らかいやつじゃないと」
「へ~。なんか料理うまいやつの言い方みたいじゃん(笑)」
「えっ、そう思ってくれてもいいよ? マジ今日の料理食べたら美味しすぎて絶対理玖くんあたしのこと見直すから」
「お前自分でハードル上げるんだ(笑)」
「いや、それくらい気合入ってるってことだから!」
気合入ってる今日のあたしは、そんな風にからかう理玖くんも軽くあしらう。
「いやいや、お前が気合入ってる時って、大抵空回りすることも多いからな(笑)」
「ちょっ、いつの話してんの~! てかホントに美味しすぎて参りましたって絶対理玖くん言わせて見せるから!」
と、あまりにもからかってくるので、ついそんな強気なことまで言ってしまう。
「ほ~。そんな自信あるんだ。なら、ホントにそんなウマかったらそれいくらでも言ってやるよ」
「えっ、絶対適当に返してるでしょ? じゃあそこまで言うんなら、ホントに美味しかったら、あたしのお願い一つ聞いてよ」
「は? お願い?」
だって、あまりにも真剣に思ってなさそうだから、あたしはついそんなことを言ってしまう。
だけど、もしそのご褒美があるなら、あたしももっと頑張れそうな気がする。
「それくらい自信あるもん」
「ん。わかった。なら、そこまでウマかったら、お前の願いごとなんでも聞いてやるよ」
すると、そんなあたしの熱意が伝わったのか理玖くんがその提案を受け入れてくれた。
「えっ、ホントに!?」
あたしは嬉しくなって思わず笑顔になる。
「えっ、そんな嬉しい!?」
あっ、つい素で喜んじゃった。
「あ、あ~。だって理玖くんにお願い聞いてもらえるなんて滅多にないじゃん。理玖くんにどんなことしてもらうかじっくり楽しみながら今から考えとこ~」
「あっ、恥ずいこととか無謀なことは却下だからな」
「え~、それはズルいよ~。あたしのお願いは絶対にしてくれなきゃ~」
と、そんな風にからかうように返すけど、実際は別にそんなことを思ってるわけじゃない。
またこんな風に理玖くんと過ごす時間を一日作ってもらえたらそれでいい。
今よりもっと理玖くんとの特別な時間を増やしたい。
「おまっ……! まぁいいや。じゃあなんでも叶えてやるから、それ実現出来るようにせいぜい頑張れ」
と、理玖くんは観念したのか、最後は優しくそう言って応援してくれる。
実際美味しいと感じるかは理玖くん次第だし、結局そこで美味しくないと思えば別にそのお願い叶えなくてもいいわけだしね。
あたしももしそう言ってもらえたとしても、あたしに嬉しいことしかお願いする気ないし、理玖くん困らせるお願いなんてする気はさらさらないけど。
でも理玖くんならそんなあたしの無茶なお願いも、嫌だとか言いながら叶えてくれそうだけどさ。
でも結果はどうであれ、理玖くんがそう言って応援してくれるのが嬉しい。
てか、なんでも叶えてくれるって……。
そんなこと言っても、 ”あたしを好きになってほしい” なんてお願いは、絶対叶えられるはずないのに……。
でもそんなやり取りをしながら、実はこういうのもよく食べるだとか、いつも冷蔵庫に入ってるだとか、そんな些細なことを理玖くんと買物をしながら出来たりして。
そんな何気ないやり取りが今は幸せに感じる。
こんな時間にまた理玖くんの何気ないことを知れた。
こんな何気ない時間をドキドキしながらも心地よく感じるのはやっぱり理玖くんだけで、たとえ片想いだとしても、あたしは理玖くんを好きになれてよかったと、理玖くんを見ながらそう思った。
それから買物を終え、理玖くんの車で理玖くんの自宅へそのあと向かう。
そして着いた理玖くんのマンション。
マンションの玄関からオシャレだったけど、部屋に入って更にそのオシャレさに驚く。
シンプルだけでオシャレな家具とインテリアの配置。
理玖くんのセンスの良さがそこに現れてる。
大きい窓からは景色が一望出来て、あたしはそのすごさにまた驚いて窓に張り付く。
「すごっ!」
「ここ。夜景もすごいんだよ。夜楽しみにしてて」
「うん!」
やった! 夜景見れるの楽しみ!
ん……? でもちょっと待って。
こんなシチュエーションバッチリの部屋、どれだけここに女の人連れてきたんだろ……。
「その夜景。今までどれくらいの女性と見たの……?」
だから、ついまたあたしは聞いてしまう。
聞いたって別に嬉しい答え帰ってくるわけじゃないのに……。
「えっ? いや、ここには連れてきてないよ」
すると、理玖くんが平然としながらサラッと答える。
「えっ!? 他の女性誰も連れてきてないの!?」
まさかこの家にも連れてきてないとかビックリしすぎて、声も大きくなり反応自体も大きくなる。
「まぁ。この家知られんのもあとあと面倒だし。割り切る相手は連れてこないって決めてるから」
「そう、なんだ……」
意外だった。
料理はこの家で作ったことはないとは言ってたけど、さすがに家に来た女性はいるんだと思ってたから。
それこそ好き勝手いつでも自由に連れ込んでいるのだと思った……。
でも確かに茉白ちゃんが好きだという気持ちがあるから、そこまでは気持ち的にも入ってきてほしくないっていう感じなのかもしれないな。
「じゃあ、ここは茉白ちゃんとあたしだけ?」
「いや、茉白もまだ来てない」
「えっ? 茉白ちゃんも?」
「あぁ。必要以上に二人になること避けてるんだから当然こんなとこ連れてこれないだろ」
「あっ、そっか……」
そこに理玖くんの強い気持ちが存在しているから、あえて避けているというその理由にわかっていても胸がチクリと痛む。
「でも茉白ちゃんは来たいってならないの?」
「あぁ。茉白は何回か言ってるけど、オレが適当に言って誤魔化してる」
「そうなんだ……」
そういうところは行動的にも気持ち的にも徹底してるな……。
まぁそれだけ大切だからってことなんだろうけど……。
「だからこの家、女で入ったの沙羅が初めて」
理玖くんがそう言って穏やかに笑う。
「やった。嬉しい」
それだけで今のあたしは少し特別だと思えて嬉しくなる。
適当に割り切ってる他の女性は来れないこの場所、だけど一番大切な存在の女性も来れない場所。
あたしは理玖くんにとってどんな位置にいるのかも、どんな風に思ってるのかもわからないけど、でも、理玖くんの中で、他の誰も受け入れようとしなかったそれをあたしにはしてくれたということが何より嬉しかった。
多分これは、あたしが理玖くんが好きだってことを知らないから出来ること。
あたしを妹的に思ってくれてるから出来ること。
だけど、多分きっとあたしが理玖くんを好きだということを伝えたら、きっともうこの場所には来れない。
だから言えない。
あたしはずっと理玖くんの妹より妹でいなきゃ、理玖くんのそばにはいられないから……。