「どう? 結構練習出来た?」
そして少し走ると、理玖くんが前を見て運転しながら話しかけてくる。
「えっ、あっ、うん。めちゃ特訓してもらったから!」
「そっ。まぁ今日はオレが味見なだけだから少し失敗してもそれはそれで練習だと思えばいいからさ。沙羅のやりたいように作ってくれたらいいよ」
「えっ、もう完璧にしてきたよ。今日練習だなんて思ってないよ! 本番と同じようにもう完璧に作り上げるから楽しみにしてて! 理玖くんマジでビックリさせるから!」
と、あたしは意気込んで、運転している理玖くんを見ながら告げる。
理玖くんは練習だと思っていても、あたしは今日が本番なんだから。
この日のために、理玖くんのために今日までずっと頑張ってきたんだから。
あのクオリティーまでになれば、絶対理玖くんも美味しいって言ってくれるはず!
「ハハ。マジか。確かに沙羅は昔からそういうのいつでも真剣に頑張るタイプだったもんな」
「うん」
「なら、楽しみにしとくわ」
そう言って前を見ながら笑う理玖くん。
それから何気ない話をしながらショッピングモールまで向かう。
それこそ今日頑張って料理を練習してきたことや、何気ない話まで。
そのたび、理玖くんは笑いながらあたしの話を聞いてくれる。
そしてあたしはそうやって話をしながら、隣で運転している理玖くんの横顔をしっかり見つめる。
運転しながら、あたしの話にずっと合わせて話してくれる理玖くんは余裕で。
あたしを相手にするその雰囲気も、その運転している姿も、今になって見るラフな私服姿も、昔のあたしの知っていた理玖くんとはまた別の人のように思えるくらいで、あたしはそんな新たに知った理玖くんの大人な余裕な姿に、昔とは違うドキドキや胸の高鳴りをずっと感じ続ける。
理玖くんいつからこんな素敵な大人になったんだろう。
こんなカッコよく運転なんかしてさ。
助手席でこんな距離、ドキドキしないわけないじゃん。
てか、こうやって今まで知り合った女性もたくさん助手席に座ったんだろうな。
そういう人とはもっと大人な雰囲気だったりするのかな。
この横顔とかもたくさんの人見て来たりしたんだろうな。
昔遊んでもらってた時見てる理玖くんの面影はもちろんあるけど、でも、今見る理玖くんはどう見ても大人で、運転してるだけでも色気があってカッコよくて。
今まで知らない理玖くんがいたことに切なくなりつつ、今日この理玖くんを知れて嬉しいとも思う。
あたしが勇気出さなければ、もしかしたら一生運転してる理玖くんなんて見れなかったかも。
今日は理玖くん的にはただ練習と試食に付き合ってくれるって思ってるけど、あたし的にはある意味これが初めてのデートと同じで。
もしこの先、理玖くん以外誰も好きになれないとしたら、あたしは多分好きな人に想いを告げることも、料理を作ることも、デートをすることでさえ、きっとないかもしれないから。
だから、あたしはこれがデートだと思って楽しみたい。
ただ好きな人の運転する助手席に座って、好きな人と買物をして、好きな人のお家に行って、好きな人のために料理をする。
簡単に想いを告げられない相手だからこそ、あたしだから出来ることを頑張りたい。
理玖くんが茉白ちゃんを想い続けるだけ、多分あたしもきっと、同じように理玖くんを想い続けるような気がするから。
一方的な想いなんて悲しいだけだと思ってたけど、でも不思議と本気で好きになった人なら、たとえ誰かを想っていたとしても、自分と一緒に過ごすその時間は二人だけの時間で、その時はあたしだけのことを考えてくれる。
その時間だけあれば幸せだって思えるから。
その時間だけでも茉白ちゃんを忘れて、あたしといる時間を楽しんでほしいって、素直にそう思う。
それからショッピングモールに到着して、さっき理玖くんから聞いて家に揃ってなかった鍋や食器などいろいろ揃える。
当たり前といえば当たり前なんだけど、理玖くんとあたしの分二つずつ揃えていくのが、なんだかくすぐったくて、だけど嬉しくて。
ちょっと新婚さん気分……とは言いすぎだけど、ちょっと付き合い立ての恋人同士みたいな、そんな気分になってしまう。
だって、一緒にこんなん選ぶとか本来なら彼女の特権だし。
逆に彼女じゃないのに、こんなん出来るとか、あたしならではの特権ていうことでもあるけどさ。
だけど、この道具や食器があることで、あたしの存在を残せているようで少し嬉しい。
それを見るたび、あたしのことを思い出してくれたらいいな、なんて思ってしまう。
今日という日も、理玖くんにとって何かしらいい記憶として残ってくれたらいいな。
楽しかったでも、美味しかったでも、なんでもいい。
あたしの過ごしたこの時間が理玖くんのいい想い出として刻まれてくれたら嬉しい。
きっとあたしは間違いなく、最初で最後の幸せな恋人ごっこが出来る特別な日になるから。
二度と味わえない恋人気分を味わえるその大切な貴重な時間は、きっとずっとあたしの中で忘れられない幸せな想い出として刻まれていくと思うから。