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第60話 今の自分に出来ること


「じゃあさ。あたしが作ってもいい!?」


 すると、あたしはなぜかそう口走っていた。


「え? 作るって……?」


「理玖くんに、料理……」


 あたしも作りたい。理玖くんのために。


 一度でもその気持ちを受け取ってくれるなら、せめてその料理にあたしもあたしの気持ちを込めて、理玖くんに届けたい。


 今すぐあたしの気持ちを伝えるとか、理玖くんにとっては迷惑でしかないし、きっとそんなの考えてもいないだろうから、突然言われたら困るだろうし。


 だけど、何もしないままじゃ何も変わらない。


 あたしも一度理玖くんのために何か頑張ってみたい。


「なんで……?」


 明らかあたしのその言葉に不思議そうにしている理玖くん。


 いや、そりゃそうなるよね。


 いきなりあたしが料理作りたいとか意味わかんないもん。


 別に料理も得意なわけじゃないし。


 だけど、多分羨ましかったんだ。


 理玖くんのために料理を作った茉白ちゃんとか、その女の人とか。


 あたしも理玖くんが喜んでくれる何かをしてみたい。


 今までそういう理玖くんのためにとか、一度もやったことないし。


 だけど、もっと理玖くんの喜んだ姿とか笑った顔が見たい。


 だけど、そんな理由、理玖くんに言えるはずもないし……。



「えっと、あの、最近料理あたしも勉強してて!」


「へぇ~そうなんだ。お前が?」


 嘘です。今初めて言いました。


 なんか唐突にそう思っちゃったから仕方ない。


「で。あの……そう! 好きな人に料理作るって約束しちゃって。それ練習したのを理玖くんに味見してほしいなぁ~なんて」


 あえて視線を外してそんなことを言い訳がましく言ってる時点で、もう怪しいでしかない自分。


 そして咄嗟に出た言い訳がまさかのそんな言葉。


 その好きな人は理玖くんだけど。


 でも、他の人のためだって思ったら理玖くんも別に重く感じないだろうし。


 ただの味見だと思ったら軽く食べてくれるかもしれない。


 てか、咄嗟の言い訳とはいえ、こんな理由で成り立つのか?


 そもそもあたしには、そんなのも望んでない……?


 と、理玖くんの顔を見れないままいたあと、チラッと理玖くんの方を見て確認する。


 だけど理玖くんは、それを聞いて少し驚いた表情をして固まったような反応をする。


 えっ、やっぱわざとらしい!? そんな理由、不自然!?


 あたしの下心満開の無理やりの理由、理玖くん勘付いた!?


 それともそんなことでさえあたしは迷惑……とか?


 と、動かないままいる理玖くんを恐る恐る見ると……。


「へぇ~……。お前、いつの間にそんな仲良くなったヤツ出来たの?」


 すると、なぜか理玖くんはさっきみたいな軽い話し方ではなく、少し落ち着いた声で、そんなことを聞いてくる。


 そして、なぜか真剣な目でじっと見てくる理玖くん。


 あっ、しまった。そっか、そういうことになるのか……。


 確かに手料理食べさすとか、ホントはかなりの仲だよな……。


「あ~。うん、実は……」


 そしてまた理玖くんと目を合わせられないまま、いるはずない相手をとりあえずごまかす。


 だけど、なんとかその流れで成り立ちそうなので、あたしはそのチャンスを逃したくなくて、そのままその嘘を続ける。


「好きなヤツ。出来たんだ?」


 変わらず真剣なトーンで聞いてくる理玖くんに、逆に緊張してしまう。


 浅はかなあたしの嘘がそのままあっさりと見透かされそうで。


 でも、確かにそういうことになるということに、理玖くんに指摘されて今更ながら気付く。


 でも、まぁあたしに好きな人が出来たところで、理玖くんは茉白ちゃんが好きなわけだし、特に意味なく聞いてきてるんだろうけどさ。


 だけど、さすがにホントに好きな相手を伝えられるはずもないし。


「ハハ。なんか気付いたら好きになってた~みたいな」


 だから、あたしは理玖くんにバレないように照れるような素振りをしながらまた更にごまかす。


 でも、別にそれは嘘じゃない。


 気付いたら理玖くんのこと好きになってた。


 あたしだってまさかこんな予想もしないタイミングで理玖くん好きになるなんて思わなかった。


 だけど自分の気持ちに気付いたら、好きだと認めるまで時間はそうかからなかった。


「そいつ。大丈夫なの?」


 背もたれによりかかりながら、理玖くんは少し冷静にあたしに尋ねる。


「大丈夫、って?」


「もうそいつと付き合ってんの……?」


 どこか冷静な視線と表情で、理玖くんがボソッと呟いた。






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