「理玖くんは? あたしのアボカドみたいに、これあったら絶対頼んじゃいたくなる好きなものってないの?」
だから、今の理玖くんの好きを聞いてみる。
今のあたしはこうやって一つずつ理玖くんのことを知っていくしかない。
「あぁ~。そうだな~。……海老?」
すると、少し考えて、理玖くんが答える。
「海老? そうなんだー!」
「まぁさすがに沙羅みたいに何かあれば海老ばっかってわけじゃないけど、でもあれば選びがちかも」
そうなんだー海老かぁー!
案外そういうのも気付かなかったかも。
あたしはなぜか理玖くんにアボカド好きとは知られているけど、理玖くんは特に昔を思い出してもそういうのはなかったような気がする。
特に何か好きな食べ物があるとかも今まであんま記憶してなかったし、食べ物に対しても、誰かに対してもこだわったり執着するようなタイプではなかったかも。
昔からいろんな意味であっさりしてたんだよな。
「えっ、ならこれあたしの好きなアボカドと理玖くん好きな海老の融合じゃん!」
と、テーブルに並んでいたアボカドと海老のサラダを取って、理玖くんに差し出す。
「あぁ~確かに。オレも好きかもこれ」
そしてあたしからそれを受け取ると、それを空いていた皿に取り分ける理玖くん。
「ここ来たらオレも必ずこれ頼んでるし」
「そうなんだ」
「そう思ったら結構海老とアボカドの料理っていっぱいあるよな」
「だよね! じゃあ理玖くんとまたどっか食べに行くとき、海老とアボカドがメニューあったら絶対頼むのマストだね」
「だな」
「あっ、じゃあ海老料理なんか頼む?」
あたしはそう言いながらメニューで海老料理を探す。
「あっ! ガーリックシュリンプあるよ! これ頼む!?」
「おっ、いいね~。ビールに合いそう」
「絶対美味しいよこれ!」
そして、追加でガーリックシュリンプと他に理玖くんが食べれそうなのを追加で頼む。
「あっ、てかガーリック大丈夫!?」
「ん?」
「このあと女性に会う予定とか……」
「フッ。さすがにこのあとはないから。明日も休みだし」
「あっ、そっか。ならよかった」
こんな状況でも無意識にそういう女性を気にしてしまう。
それは今までの慣れ的なものもあるけど、理玖くんを本気で好きになってしまったあたしにしたら、そういう状況が少しでも減ってほしいと思う気持ちもある。
だから、無意識でガーリックシュリンプを選んだというのもあるけど、それを理由に理玖くんのことを聞き出したいと思ったりもして。
そっか。さすがにもう今日は会わないのか。
じゃあ今日会おうとしてたあの人との約束はもうないのかな……。
それともまた近々そういう時間作るのかな……。
やだな……。
「あの……さ」
そう思ってたら、あたしは自然と理玖くんに話しかけていて。
「ん、何?」
「今日。約束してた人、また今度料理作ってもらうの……?」
やっぱり気になってたそのことを確かめたくなった。
「えっ? いや、どうかな。今日断っただけで、次いつとかは決めてないし」
「そうなんだ……。よくそうやっていろんな人に作ってもらってるの?」
「まさか。彼女っぽいことされるのはあんま好きじゃないから。気持ちに応えられないのに勘違いさせても困るし」
「でも、今回の人はそこまでの話になったっていうのは……?」
だけど、あの人、自分が一番近い距離にいるって思ってたし、かなりその気になってた……。
それにあの人も理玖くんホントに好きって感じじゃなかったし。
そんな人が理玖くんにそういうこと出来る距離にいるなんて、なんか嫌だ。
茉白ちゃんの時はこんな風に思わなかったのに、理玖くんをちゃんと見てない人に対しては、なんかモヤモヤする。
たとえ理玖くんが相手をそこまで大切に思ってないとしても、理玖くんが大切に思ってもらえないのが嫌だ。
「あ~。あの子ちょっと勢いで自分で暴走するとこあるからさ。でもまぁオレを想ってしてくれるなら嬉しいし一回くらいならそうしてもらおうかなと思ってたんだけど。まぁでもそれきりで断るつもりはいたけどな。メシ作ってくれんならオレは作れないから助かるし」
ほら、理玖くんは結局こういう優しいとこあるんだよな。
あたし以外にも、こうやって気持ちを邪険にしたりしない。
だから、皆理玖くんに惹かれていくんだろうか。
一つの優しさでも自分だけ特別だと思ってしまう。
だけど、それは好きになれないなら一番優しくないことなのかもしれないけど……。
そうは思いつつ、あの人はそんな純粋な想いじゃなくて。
それを知ってるから。その一回でも叶えてあげることが切ない。
茉白ちゃんを好きな以上、きっと理玖くんは他の女性とのこういう関係はやめないんだろうな。
それで誰かを傷つけるわけでもないけど、だからといって誰も幸せになれない形。
だけど、あたしも今のままじゃ何も変わらない……。