「アボカド。オレも結構好きだなって」
すると、焦ったあたしと打って変わって、きょとんとしながら理玖くんが言葉を返す。
あーっっ! そっちかー!!
いや、そりゃそうだろ。
さすがにこの流れであたしに好きなんてなるはずないし。
だけど、自分が好きだと意識してしまっていると、ただ意味ない”好き”という言葉にも反応してしまう。
「あ、あぁ~! アボカドね! アボカド ! え~、それもうあたしの影響じゃな~い!?」
と、あたしは動揺しながらも、ここぞとばかりにからかうように言う。
「あぁ~。そうかもな」
えっ。
すると、理玖くんは否定することなく、逆に納得した反応をする。
「そもそもお前以外でアボカド好きってやつそんないねぇし、お前いなかったら、時に意識的に選んだりもしてないかも」
サラッと理玖くんはこのタイミングで気付いたのか、自分で納得しながらそんなことを言う。
「そ、そうなんだ……」
それってやっぱりあたしの影響って思ってもいいのかな。
別にあたしが好きとかそういうのじゃなくても、理玖くんの中であたしという存在があるから、その好きに繋がったのなら嬉しい。
「アボカドもお前に言われてそうかもって思ったくらいだし」
「それくらいなの?」
「ん~。昔からそんな好き嫌いもなければこだわりとかもねぇし」
そう言われて、この前の誕生日のことを思い出す。
「あれ? でも前誕生日で理玖くんの好きなものばっかって茉白ちゃん作ってたけど……」
「あぁ~。あれは、オレじゃなくて、茉白がな」
「えっ? 茉白ちゃん? でも理玖くん好きなものって言ってなかった?」
「元々は、茉白が好きだったものだよ」
「え? そうなの?」
理玖くんじゃなくて茉白ちゃん?
茉白ちゃんの好きなモノがなんで理玖くんの好きな話になったの?
「母親がまぁ料理は得意でさ。昔同じようにオレの誕生日にラザニアとオニオングラタンスープを作ってくれたんだよ。それを茉白が初めて食った時、めちゃウマいって喜んでてさ。その時にオレも一緒に嬉しくて喜んでたから、多分茉白の中で自然とそういう印象になってたんだと思う」
あぁ、そういうことだったんだ。
それだけ二人の歴史と絆は大きい。
お互いに何気ないことがそれぞれの記憶として存在してる。
お互い好きだと思って喜んでた形がそうなっていったってことなんだな。
「そこから茉白ん中で、そういう記憶になっていったみたいだから、あの日それをオレのために用意してくれたっていうのが、すげぇ嬉しかった」
理玖くんは、少し遠い目をして茉白ちゃんを思い出しながら優しい顔をして笑う。
そんな理玖くんを見てあたしは胸の奥がギュッと締め付けられる。
ここにいない愛しい人を、そんな昔の記憶からずっと存在している人を、こんなにすぐそばにいる理玖くんは思い浮かべていて、そんな顔をさせられる茉白ちゃんが羨ましいって思った。
茉白ちゃんにとってはただのお兄ちゃんだろうけど、でも、茉白ちゃんにしかしないこんな優しい表情を見て、切なくて苦しいのに、そんな顔他の人には知ってほしくないって思った。
あたしだからこそ見れるその表情を、あたしだけが知っていたいと思った。
たとえ、自分じゃない誰かを愛しく想い浮かべていたとしても……。
だけど、あたしも……、あたししか知らない理玖くんの何かが欲しいな。
誰かを思い浮かべるこんな表情とかじゃなく、あたしだけに見せてくれる何か。
自分の気持ちに気付くまでは、正直理玖くんのことも必要以上に知ることも知ろうともしなかったから、今のあたしはまだ数えるほどの理玖くんしか知らない。
昔の理玖くんを知っていたところで、それ以上に知っているのは茉白ちゃんで。
だからといって、今の理玖くんのことは、きっと今軽い関係を続けてる女の人たちのが、きっと知ってる。
あたしは、どっちでもないすごく中途半端……。
だから、少しずつでもいいから、あたしは今の理玖くんを知りたい。
何が好きだとか、何にテンション上がるのかとか、そんな一つ一つのことを一からでもいいから、今の理玖くんの知っていることを増やしていきたい。