「理玖くんは颯兄と会ったりしてるの?」
「あぁ。この前一緒に飲んだ」
「そうなんだ!」
「颯人からくれぐれもお前をよろしくって言われたよ」
「颯兄から?」
「迷惑いろいろかけるかもしれないけど頑張り屋なのは間違いないから、諦めずに面倒見てくれって」
「ハハ」
「仕方ないから面倒見てやるって言っといた」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
颯兄さすが! 早速理玖くんにちゃんと言ってくれてる!
「てか、お前速攻颯人に愚痴ってんじゃねぇよ。別にオレお前イジメてねぇし」
「あっ……」
そっか、結局あたし愚痴ったことになるんだよね……。
颯兄のフォローに喜んでたけど、早々にあたしが理玖くんにそう思ったこともバレてるってことか……。
「いや、イジメてはないけどさ? 相変わらず扱いが最初から酷いなぁって、思わず颯兄に愚痴っちゃった」
だけど、こうやって直接理玖くんには、なんでか言えたりするんだよな。
「いや、それお前の態度も大概だからな?」
「え、そうかな」
「お前も昔からオレかなり年上なのにずっと生意気だしさ。お前の理想と正反対だからって態度適当すぎんだよ」
「それは仕方ないよね。なんせ理玖くんだから」
「いや、理由になってねぇわ」
そしてしっかりバレてる、そんなあたしの態度……。
「でもあたしも理玖くんだけだよ? こんなの言えんの」
だけど、理玖くんはなんだかんだ言って、こんなあたしを受け入れてくれるっていうのも感じたりしてるんだよね。
「そりゃ誰にでもそんな態度取ってたら王子様なんか寄ってくるわけねぇだろ。てか、そもそもそんな男この世の中存在するかよ」
「え、そこから全否定?」
「お前はいろいろと夢見すぎなんだよ。そんな夢見てるといつか痛い目にあった時には遅ぇんだからな」
「わかってるよ。てか、颯兄はそんな理想の王子として存在してるもん」
「颯人だってわかんねぇぞ」
「え?」
いやいや、まさかの親友の颯兄を否定!?
「あいつだって、あぁ見えて実は心ん中とか裏では違ったりするかもしんねぇぞ?」
「はぁ~? そんなわけないじゃん! 颯兄は完璧だよ! ってか人のお兄ちゃん勝手に悪いイメージにしないでくれるー!?」
「いや、お前の兄ちゃんの前にオレの親友だから」
「それはまぁ」
「てか、上辺だけで左右されんなって話だよ。お前はちゃんと理解する前に突っ走るとこあるから、ちゃんと社会人になったんなら、焦らずどんな時も一旦立ち止まって周りやそれだけじゃない中身をもっと知れってこと」
「なんか難しい話?」
「違うわ。まぁこれからいろいろ経験してけばわかんじゃない? これからいろんな人間関係目の当たりにしていくだろうし、お前みたいな単純バカは実際経験してみないとわかんないだろうしな」
「いや、なんでそうバカにするかな」
「オレは間違ったことは言ってない」
「うぅ~」
あ~、なんか全然違うとは言い返せない!
昔から言い方はあれだけど、痛いとこ突いてくるんだよな~!
案外理玖くんって冷静なんだよな。
でもあたしは案外勢いだけのとこもあるから、そういう意味で確かに理玖くんが言うことは間違ってないとも言える。
だから、多分あたしは反発したくなるのかもしれない。
理玖くんはこんなあたしをなんでも見透かしてお見通しで。
結局あたしは理玖くんに逆らえない。
だけど、悔しい。
いつか仕事でも恋愛でも絶対理玖くんが”参った”って言っちゃうくらいの人間……、いや、魅力的な女性になりたい!
だけど理玖くんといると不思議となんかそういうよくわからないパワーも出てくるんだよな。
それは理玖くんに認めてほしいってことなのか、バカにされたくないってことなのか、どういう感情なのかはまだよくわからないけど。
でも、なんか理玖くんには見放してほしくないというか、なんだかんだそうやって意地悪言いながらでも、ずっと見守っていてほしいというか、なんかそんな感覚もあるんだよね。
「でも。まぁ、気長に付き合うわ。面倒かけられんのは今に始まったことじゃねぇしな」
ホラ、またこうやって、ふとした優しさブッこんで来たりするんだよ。
これが他の人なら全然優しいとか感じないけど、理玖くんだとこういう風に言ってくれるだけで、いつもが酷いせいか、気にかけてくれる優しさを感じたりしてしまう。
え、これがこの人の手なのか!?
いや、こんなん感じんのあたしだけか。
他の人にはこんな意地悪しないだろうし。
っていうか、こんな風に他の人にもしてたらヤだな。
この前こんなことすんのあたしだけとは言ってたけど……。
なんか、なんだろう。
案外あたしは理玖くんとのこの関係、嫌いじゃないというか。
理玖くんとはこんな関係でちょうど居心地よかったりしてしまう自分がいるんだよね。
理玖くんが言うように、この関係のこの感じが楽というか。
だから、なんか、こんな関係でも、こんなポジションでも……、こんな関係だから、あたしだけにしていてほしいというか。
なんかそんな変な感覚。
決して理想の人じゃないけど、理玖くんとはこんな関係も悪くないって、なんでも言い合えるこんな関係は、逆に理想的なのかもしれないなんて、そんな風にも思ったりもして。
「でもまぁ出来るだけ迷惑は少なめにな。出来ればないに越したことはない」
「うん。あたしも別に理玖くんに迷惑かけたいわけじゃないからさ。あたしなりに頑張るよ」
「ん。頼んだ」
結局は理玖くんは、口ではこんな感じに言うけど、いつも昔から見捨てずに気にかけてくれたんだよな。
颯兄はダイレクトな優しさで、理玖くんは時に厳しい意地悪な優しさ。
だけど、理玖くんの優しさにはちゃんと意味もあって、その時は反発したりもするけど、あとになってどういう優しさだったのか気付くことも多かった。
あたしに対して理玖くんがこんな態度だから、その優しさがわかりにくいってことも問題だとは思うけどさ。
だけど、そういう部分では、やっぱり理玖くんもお兄ちゃん的な安心感は感じていたのかもしれない。
昔からあたしにとっては正反対の二人のお兄ちゃんがいたような、そんな特別な関係。
だから、今そういう人がそばにいることは、正直ちょっと安心というか頼もしいというか。
新人としてこれから頑張っていかなきゃいけないことも、理玖くんがいてくれるなら、なんとなく頑張れそうな気がする。
多分甘やかさずに見守ってくれるような。
なんか、きっとそんな気がするから。