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第22話 変わり始めた印象⑦


「そういえばお前この会社でいつか夢叶えたいって言ってたけど」


「あぁ~それね! 颯兄がいつかパティシエで独立した時のお店をあたしがプロデュースするのが夢なの!」


「あぁ~颯人のね。なるほど」


「理玖くんは? なんか夢とかあってこの会社入ったの?」


 あたしは明確なちゃんとした夢もあるから、この会社に入る理由はハッキリしてるんだけど、理玖くんはどうしてなんだろう。


 あたしみたいな何か明確な理由があったのかな?


「オレ?  ……いや、オレはたまたまこういう仕事が面白そうだなって思って入っただけ」


「そうなんだ……?」


 だけど、理玖くんは特に明確な何かを答えるわけでもなく、目を逸らしながらそう答えはするモノの。


 何か含んだ感じの言い方が少し気になる。


 だからと言って、実際理玖くんにあたしみたいな理由もないような気もするけど、でも、ただそう伝えた理由だけじゃないような気も、なんとなくして。


「そっか。颯人のためか」


「うん!」


「お前ホント昔から颯人のこと大好きだもんな」


「うん! 大好き!」


 昔から颯兄に懐いてるあたしを見てる理玖くんは、こうやって堂々と颯兄が大好きだと言えるほどだとも知っている。


「へ~。兄貴にそこまでなれるもん?」


「え~お兄ちゃんだから、一番大好きなのかも。どんな人か一番よく知ってるし、ずっとあたし可愛がってくれて、ずっとカッコいいし。颯兄がホント理想の王子様」


「実の兄貴なのに?」


「うん。そこはね、血繋がってるからどうにもならないんだけど。でも、王子様みたいな素敵なところが好きってだけで、別に恋愛感情ではないし。さすがにお兄ちゃんにそんな感情にはならないからね~」


 そこはちゃんとわかってるし、自分でも違うとも理解している。


 颯兄は理想なだけで、多分あたしが実際惹かれる人は、もしかしたら全然違う人なのかもとかも思ったりすることもある。


 実際チョロい自分なだけに、簡単に好きになっても理想通りの人じゃなかったりしてたし。


 結局理想通りの人なんていないのかもなんて、ほんのちょっと気付いたりもしてはいるけど。


 だけど颯兄がそんな理想の男性としてお兄ちゃんとして存在してる以上、あたしはその理想を追いかけたいって、やっぱり思っちゃう。


「まぁ、普通はそうだよな……。確かに颯人は昔から完璧だったからな」


「でしょー!? ホント自慢のお兄ちゃんだもん。一人暮らししてからなかなか会えなくなったからマジ寂しい」


「その歳で?」


「年齢は関係ないよ。好きなお兄ちゃんなのには変わりないし。うちの親もお兄ちゃん家帰ってきたら、やっぱ嬉しそうで全然テンション違うし」


「そっか」


「でもまぁ颯兄は一人暮らしして頑張ってるみたいだし、それに茉白ちゃんが一緒にいてくれてるからね。そっちの方が恋人同士の二人にとってはいいだろうしさ」


 さすがに大好きなお兄ちゃんでも独り占めしたいとか、そういう感情はないから、実際彼女がいたらいたでそれは全然祝福出来るような感情だし。


「茉白。しょっちゅう颯人ん家通ってんの?」


「みたいだよ~。暇あれば颯兄のためにご飯作りに行ってるって」


 さすがに理玖くんも妹となると気になるよね。


 ってか正直複雑だよね? 自分の妹が親友の彼女だなんて。


「そう。あいつ昔はそんなん全然興味なかったのに」


「家でもいろいろ叔母さんのお手伝いしながら花嫁修業的なことも頑張ってるみたいだよ~」


「へぇ……」


 あたしは当たり前の日常なだけに、違和感なく理玖くんに話したけど、理玖くん全然そういう話知らない感じ?


 あたしは颯兄大好きだし、颯兄も実家帰って来てくれる時多いから、あたしがいろいろと根掘り葉掘り聞いちゃうから、茉白ちゃんとのこともいろいろ知ったりしてるけど、理玖くんと茉白ちゃんは全然そんな話したりしてないってことかな?


「あれ? そういう話、茉白ちゃんから聞いたりしてないの?」


「しないだろ。わざわざ。親友と妹の恋愛話、なんで好き好んで聞かなきゃなんねぇんだよ」


「そっか。そういうもんか」


 確かに茉白ちゃんからわざわざそんな話、兄としては聞きたくはないか。


 女子が好きな恋バナとはまた違うもんね。


「お前んとこと立場全然違うからな。そもそも茉白とも全然会ってねえし」


「そうなんだ?  理玖くん、実家全然戻ってないの?」


「あぁ。うん。ここ最近は全然。まぁ正月とかそういう何かあった時とかは顔出してるけど」


「え~しょっちゅう帰ってあげなよ~。颯兄なんて、この前あたしの就職祝いにケーキ持ってサプライズで帰ってきてくれたよ~」


「そりゃあいつパティシエだし、んなのお手のモンだろ」


「そうだけど~、それを持って実家に帰って来てくれるってことが嬉しいんだよ~。颯兄はうちらのそういう家族のお祝いごとの時は、いつもそうやってケーキ持って帰って来てくれるもん」


「あいつはそうやって簡単に帰れるきっかけあるもんな」


「え? きっかけとか必要? 実家なんだから別にいつでも帰ったらよくない?」


 え? そんな感じ?  理玖くん実家に帰りづらいってこと?


「うちとお前んとこじゃ違うんだよ」


「え~全然一緒じゃん。理玖くんとこの両親もめちゃ優しいし、茉白ちゃんも絶対理玖くん家に帰ってきたらお兄ちゃんなんだから嬉しいよ」


「まぁな……」


 家庭的にも絵に描いたような理想の家族で、なんの問題もないように思えるのに、なぜか理玖くんは歯切れの悪い反応をする。


「あんなセレブみたいなお家住んでるなら、あたしなら絶対しょっちゅう帰りたくなるけど」


「だからといって、居心地いいわけじゃないし」


「なんで? え、だからうちにしょっちゅう遊びに来てたの?」


「まぁ」


「え、なんの問題があんの? めちゃ理玖くんとこ理想の家族じゃん」


「理想の家族ね……」


 理玖くんが家族の話をし始めた時に、少し浮かない顔をしたのが少し気にかかる。


 何かあったのかな?  全然問題ある家族には見えないけど。


 男の人だとなんか居心地悪いとかそういうのあるのかな?


 確かにうちも全員仲はいいけど、颯兄はやっぱり実家でお世話になり続けるのも嫌だし自分の力でいろいろ頑張りたいからって一人暮らし始めたもんな。


 あたしなんてそんなのお金もかかるし、料理も洗濯も全部やらなきゃいけないとか面倒でしかないけど。


 出来ることならずっと実家でお世話になり続けたい。


 でもまぁ理玖くんとこのお父さんは大企業の社長さんで裕福だから、お家も立派だし、ホントいいとこの家族って感じで。


 それでいてご両親も茉白ちゃんも品があって、なんか見たままセレブな感じ。


 家族揃ってる時も別に仲悪い雰囲気感じることなかったけどな。


 逆にセレブだからそういうのもいろいろとあったりするのかな。


 その点、うちはまぁ普通の家で普通の家族。


 だけど、パパもママも優しいし、家族全員仲いいこの家が大好き。


 だからあたし的にはいつか茉白ちゃんとも親戚になれたら嬉しいけどな。


 前は理玖くんとそんな関係になるのも勘弁って思ったけど、ちょっと最近は親戚くらいならなってあげてもいいかもくらいにはなってきてる。


 まぁそんな話、二人の間で出てるのかもまったく知らないけど。





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