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第19話 変わり始めた印象④


「何かあったんですか?」


 なので、思わずあたしは新井さんに尋ねる。


「連れてきた新人がね。高宮さんに随分入れ込んでた子で」


「えっ」


「その子が、高宮さんに気に入られたくて、必死に頑張ったのよ」


「それって、いいことなんじゃないんですか?」


「う~ん。ちょっと頑張りすぎたっていうか、空回りしちゃったっていうか」


「そうなんですか?」


「こちらの提案にその子は頑張って応えようとはしたんだけどね。だけど、それがちょっと求めてるモノがこちらと違っていて、それをその子は気付かないで、必死に話を進めていっちゃって。それで、うちの上司が気分損ねちゃったことがあったの」


「そんなことがあったんですね」


 好きな人のために仕事を頑張りたい気持ちはわかるような気がする。


 特に直接の指導係なら、自分が頑張る姿見てほしいって思うだろうしな。


 ってか、理玖くんって仕事してる時もそんな風に気に入られるとか、理玖くんのことだから、ムダに勘違いさせてたんじゃないの?


 と、そんな風にいつもの感じで思っていたら。


「でも、その子はそれが納得いかなかったみたいで、高宮さんへ全部その不満がいっちゃって」


「え? 高宮さんにですか?」


 あれ? 気に入られたかったのに不満?


 さっきは気持ち共感出来るとか思ってたけど、なんか違う方向に行き始める。


「上司が怒ったことがよっぽどダメージだったんでしょうね。その子その場で泣き出しちゃって」


「えっ? どういうことですか?」


「その子が言うには、高宮さんの力になりたくて、高宮さんに気に入られたかったからだって。だから、そもそも何が間違ったのかとかまではその子は気付くことは出来なくて。とにかく高宮さんだけのことしか結局頭にはなかった」


 あぁ~、理玖くんそんな時まで罪な男になってんじゃん……。


「まぁ、でもそれは冷静になれば全然気付ける程度だったんだけど、その子は私たちが見ても高宮くんに気に入られたくて必死なのがわかるほどだったしね」


 だけど自分がそんな状態になるまで、理玖くんに影響されるって……。


 え? あれだよ?


 指導係としても全然優しくなんかないのに。


「そこまであの人に魅力あります?」


 すると、思わずあたしは無意識でそんなことを呟いてしまう。


「えっ?」


 すると、あたしのその言葉を聞いて、新井さんが不思議そうに反応する。


 あっ、しまった……! つい本音が!


 取引先の人にバレちゃ絶対ダメだよね!?


「あっ、いえ! じゃなくてですね!」


 その状況に気付いて焦って訂正しようとするも、どう訂正していいか戸惑っていたら。


「フフ。なるほど。あなたはそんな感じだからってことね」


「はい?」


 新井さんは、それを気にすることもなく、少し笑って。


「あなたならそんな心配はなさそうだものね」


「はい。高宮さんに気に入られたいとかなら、そういうのはまったくないので」


「あら。そこまでなの?」


「いや、でもせっかくの機会なんで、どうせなら社内一のエースの仕事の仕方を勉強して、しっかり盗んでやろうとは思ってます!」


「フフ。あなた面白いわね」


「えっ、そうですか?」


「そうね。さっきも言ったけど、彼の元で勉強出来るのはラッキーだと思うわ」


「えっ? ラッキーってそういう意味ですか?」


「そういう意味って? あぁ、もしかしてその新人の子的な意味合いだと思った?」


「あっ、はい……」


「もしそうであるなら、彼にそんな期待しても無駄なだけだから、あたしが今の時点で指導係を他の人に替えてもらうようにアドバイスしてたわ」


 すると、思ってもない言葉が返ってくる。


 あたしがその前の新人の人と同じように理玖くんに好意を持っていたらって意味だよね?


「それは、どうしてですか?」


「彼は仕事では一切そういう意味合いの特別扱いは絶対しないからよ」


「えっ? しないんですか?」


 意外だった。


 そこまでその人が好意を寄せていたってことは、少なからず理玖くんもそういう特別なことをしていたのかなって思っていたから。


「結局高宮さんは、そのあとその子の指導係は辞退したわ」


「高宮さんからってことですか? そんな慕ってもらってるのに?」


 しかも、自分から辞退?


 あの理玖くんなら、どんな女性でもウェルカムなんだろうなくらいまで思っていたから。


 しかも慕ってくれていたなら尚更断るとか意外だった。


「だからよ。結局そういう感情がある以上、自分は指導係に相応しくないからって。自分がいることで悪い影響にしかならない。彼女のホントの力を自分は引き出せてやれないし、それどころかその能力を自分が壊してるって」


 理玖くん仕事の時はそんな風に考える人なんだ。


 そっか、ちゃんとそういう感情は割り切ってるってことなんだ。


 しかも、自分じゃなく、その相手の女性のためにだなんて。


「でもそれは高宮さんが悪いわけじゃないですよね?」


「そうね。でも、彼って案外そういうとこあるのよ。自分の存在がその人にとってプラスにならないなら、その人のためにどうすればいいかを考えたいって、そう言ってたわ」


 仕事先での今の理玖くんの話を聞いて、どんどん思っていた自分のイメージが変わっていく。



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