「ん~。ここでは別に意味ないんだよね。こんな誰にでも見られる状況でなんも出来ねぇし」
「なんもって……。お昼食べるだけでしょ」
だけど、理玖くんはそんなあたしを気にもせずに、まだそんな冗談か本気かわからないようなことを呟く。
「うん。だから、それならお前とが楽だろ」
「え?」
すると、理玖くんが少し違う雰囲気でそう伝えてくる。
「お前はさ、オレに対して男として感じてないだろ?」
「うん……」
「お前はオレにそういうのも望まないだろ」
「もちろん……」
「だからさ、ちょっと楽なんだよね。そういう自分作らなくてもいいお前といるのは」
「ふぅ~ん……」
え、なんだよ、それ。
さっきまであたしの存在ありえないとか言ったくせに、そういう方向で今度は受け入れられるとか、ちょっと一瞬戸惑っちゃったじゃん。
だけど、あたしといて、自分作らなくても楽だって思ってくれてるのは、なんかちょっと嬉しい。
それにちょっとその気持ちわかる気もするんだよね。
あたしも理想の人追いかけて、そういう人に気に入られたくて、ちょっと自分作ったりすると、たまに疲れる時がある。
気になる人に、自分を良く見せたいって思うのは、きっと人間として普通に出てくる感情なのだとは思うけど。
だけど、それがずっと続いたり、それでもそれが伝わらなかったりすると、結局はそれが意味あることなのかわからなくなってくる。
一番いいのは、そりゃありのままの自分自身を好きになってくれるのが理想だけど、でもあたしは平凡な人間だし、少しでも人と違う何か魅力を持たなければ、理想の人に出会えた時、結局その人に自分を好きになってもらえるかもわからない。
そうだよね。結局そういう人をまず見つけたところで、全部がうまくいくわけじゃないんだよね。
そこからその人に気に入ってもらわなきゃなんない。
そう考えたら道のりすごい長く感じる……。
だったら理玖くんは?
そんな感じでいろんな人と付き合うのってしんどくならないのかな。
その人たちの中にホントに好きになった人もいたりしなかったのかな。
今まで理玖くんが楽でいれる人は誰もいなかったのかな。
「だったらさ。理玖くんそうやっていろんな人と付き合ってる女性たちとは楽じゃないってこと?」
「あ~。そうだな。楽、って感じはまた違うかも」
「楽じゃないのにそんな関係続けてるの?」
「う~ん。まぁ、その人たちに別に楽を求めてるわけじゃないから」
それがきっとあたしには望まない関係ってことなんだろうな。
「でも。理玖くんそんなことしてたら、いつか本気で好きになった人出来た時に辛くならない?」
「本気で……ねぇ。……きっとオレにはこれからもずっとそれはないかな」
理玖くんは意味ありげに、少し節目がちに寂しそうにそう呟く。
「ないって……?」
その理玖くんが少し気になって、あたしはまたそこから理玖くんに問いかけてしまう。
「あ~。誰か一人を想い続けるとか、そんな面倒なこと、オレには必要ないってこと」
なのに、理玖くんは、またいつものように、そんな言葉で誤魔化した。
「えーやっぱ最低じゃん」
だから、あたしもそれ以上触れない方がいいような気がして、いつものように言葉を返す。
「フッ。そうだな」
理玖くんはそんな自分を認めてるのか、あたしのその言葉にも特に反論もせず、逆に笑って応える。
そんなのこれからどうなるかなんてわかんないのに。
いつどんな運命の相手に出会うかもわかんないのに。
「だからオレになんの見返りも期待しないお前がちょうどいい時もあるってことだよ」
あっ、この少し笑った感じ。
昔から見る理玖くんの顔。
なんだかんだ言って最後は面倒見てくれたりしたあとに、呆れながらもホントに呆れた顔じゃなく、仕方ないと言わんばかりの少し優しい落ち着いた笑顔をする。
今のこの瞬間、その時のそんな顔をまた見たような気がした。
実際、理玖くんがそう言ってくれるのは、あたしもこうやって言ってても嫌な気はしなくて。
理玖くんは女性が絡むと好きじゃないってだけで、理玖くん自体の人柄は別に嫌いというわけじゃないから。
理玖くんは少しあたしにとって、実際はこうやってなんでも言い合えるとこもあって。
だけど、やっぱり女性関係は全然理解不能だし共感もまったく出来ないから、別にどんな理玖くん見ようがそれが理玖くんだと思ってるから、最低だとは思うけど、特に驚きはしない。
だから正直、あたしも理玖くんは年上でイケメンだけど、唯一そう考えれば楽な相手なんだよね。
理玖くんのこと、実際最低なクズだってわかってたら、あたしも好きになる心配もないわけだから、その気になることもないと思うし。
だけど……、理玖くんにとっては、あたしはどんな感じなんだろう。
元々こういう関係性だからあたしを妹的にしか思ってないこともわかってるけど。
だけど、再会するまでは結構年月も経ってたし、かなり久々だったのに、案外あたしの存在、理玖くんすんなり受け入れてくれたんだよな。
まぁそれは恋愛感情はなく、ただの妹的感覚だからだろうけど。
でもだからこそ、ある意味理玖くんとの関係は、これ以上は悪くならないような気がする。
そう思ったら、どうせ指導係なのは変わらないし、今の理玖くんがどういう人か知っていくのもいいかもしれない。
今以上幻滅してもそこまでショック受けないだろうし、逆に少しでもいいとこ見えたらイメージはアップするかも。
そう思ったら、理玖くんとこれからやっていくのもほんの少しだけど前向きになれる気がする。
それにさっき少し見たことない理玖くんの表情を見た気がしたから、なんかそれが少し気になってしまう。
あたしが会わない間に理玖くんに何かあったのか、それとも元々何か気にかかることがあったのか。
多分きっと、あたしは理玖くんのこと知らないことが多い気がするから。
少しずつ、今の理玖くんがどんな理玖くんなのか、少し知りたくなった。