「向こうはそれでいいって言ってんだから問題ないだろ」
「えっ!? 向こうはそれでいいの!?」
自分好きになってくれないとか悲しすぎない?
本気で好きになってくれないってわかってるのにそんな関係、あたしは絶対耐えられない。
「いいんじゃねぇの? オレはそうやってアプローチされたら皆に応えてるだけ」
うわ~、やっぱりクズなの全然変わってなかった……。
しかも昔よりも大人になって酷くなってる……。
「何? 幻滅した?」
「うん。全然クズっぷり変わってないんだなって思って」
「フッ。お前の王子様やらとはオレはまったく正反対だからな。でも現実はこういうこと全然普通だから」
「えっ、それは理玖くんがそういう付き合い方してるからだけでしょ」
昔からこうやってあたしの理想をぶち壊す。
別にそんな現実突きつけなくったっていいのに。
「んなの、お前の理想みたいな付き合い方してるヤツのが少ねぇよ」
「そんなことないよ。颯兄と茉白ちゃんなんて超ラブラブだしめちゃロマンチックな縁で繋がれてるもん」
初恋の男性と数年後に想い届いて付き合えるとか、そんなの素敵すぎる。
実際茉白ちゃんにとっての王子様は颯兄だし、まさに二人はそんなあたしの理想を叶えてる。
「あぁ、あの二人な……」
その二人のことを言うと、理玖くんも納得するかのようにボソッと呟く。
フフッ。さすがにその二人のこと話したら、そこは理玖くんも目の当たりにしてそれ知ってるはずだから、何も言い返せないよね。
「あれは特別だよ」
そしてなぜかそこは否定もせず、意外な言葉が返ってくる。
ふ~ん。さすがにそこは理玖くんも認めてるんだ。
茉白ちゃんの想いも当然理玖くん知ってただろうし、あたしと違って茉白ちゃんには理玖くん優しいから、そういう意味ではちゃんと応援してるってことなのかな。
「そこは否定しないんだね」
「あいつらはあいつらで幸せにやってんだからいいんじゃない? オレとあいつらは違うよ」
「ちゃんとそこは自分は違うってわかってんだ」
「そりゃそうだろ。あいつらには幸せになってもらわなきゃ困る」
「意外。理玖くんもそんな風に思うんだ」
「大事な妹と親友だからな」
なんだよ。そこは全然マジメなんじゃん。
ちゃんと二人のことはそんな風に思ってるんだ。
なぜだかそこはちゃんと大切にしてほしい、持っててほしいという感情が完全になくなってるわけじゃなくて、少しホッとする。
「なら、理玖くんは、そんな二人見て自分もそんな恋愛したいって思わないの?」
「──そんな二人見てるからこそ、だよ」
噛み締めるようにそう呟く理玖くん。
「それってどういう意味……?」
その表情と呟く言葉が少し気になって思わず聞き返す。
「オレにはそんな恋愛出来ないって話」
そう答えた理玖くんが、なんだか寂しそうな諦めたかのような、そんな感じになぜか聞こえて。
理玖くんがそう答える言葉が、あたしにはまだどういう意味なのかはわからない。
だけど、理玖くんも本当に好きになれる人が出来たら、いつか二人のように幸せな恋愛が出来るかもしれないのに。
なんで最初からそんな諦めたような言い方するんだろ。
もしかして実は今までに辛い恋愛経験してきたとか……?
いや、理玖くんに限ってそれはないか。
「あたしは、あの二人みたいな理想的な恋、したいな」
さっきの言葉で、理玖くんが恋愛に前向きではないかもしれないと感じながらも、その言い方は、ホントは出来るならそんな恋愛をしてみたい気持ちもあるのかな、とかも思ったり。
そして、あたしはやっぱりそういう恋愛にずっと憧れを持ち続けてしまうから、ついその気持ちを呟いてしまう。
「そういうのしたいならまずお前のその王子様思考やめなきゃ無理だろうな」
「絶対どこかに理想の人見つけてみせるもん」
「そんなの言ってねぇで、お前はちゃんと幸せになれる男選べよ」
そして、理玖くんのその言葉も、なぜか突き放してるように聞こえる気はするけど、ホントに心配してくれてるような、そんな気もして。
「理玖くんみたいな人は絶対選ばないから大丈夫!」
あたしは今はそんな言葉で理玖くんに返す。
「おぉ~。そりゃ安心。オレみたいな男だけはお前は引っかかんなよ」
なんかその言葉が、やけに心に響く。
結局理玖くんとはこうやってずっと一生わかり合えないんだろうな。
っていうか、この王子様が理想なあたしと複数の女性相手して誰も本気にならない理玖くんと、恋愛観わかり合えるわけがないんだよね。
絶対理玖くんとはわかり合えない自信あるもん。
理玖くんもあたしのこの理想がわかんないだろうし、あたしも絶対理玖くんのその女性との関わり方は理解出来ない。
でも、理玖くんはなんでそういう付き合い方しかしないんだろう。
それってなんか理由があったりするのかな。
誰かを本気で好きになりたいとか思わないのかな。
なんかそれって寂しいな。
理玖くんの後ろ姿を見ながら、クズの姿に幻滅しながらも、なぜかそんなことも少し気になりもした。