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第11話 わかり合えない恋愛観③


 すると、前を歩いていた理玖くんの元に近づいてくる女性に気付く。


「高宮さ~ん♪ この前はありがとうございました~♪」


 そしてその他の部署の女性社員らしき人が理玖くんに声をかける。


「あ~こちらこそ。ごめんね。朝まで一緒にいられなくて」


 すると、理玖くんは嫌な顔一つもせず、微笑みながら流れるようにそんな言葉をその女性に伝える。


「ホントですよ~。あたし朝までいれると思って楽しみにしてたのに~」


 あたしにはない特有の女性の色気や雰囲気を醸し出して、至近距離で理玖くんを見つめながら意味ありげに理玖くんの身体に触れるその女性。


 初めてまともに見た。


 こんなわかりやすく男性に好意をアピールする人。


 あたしには絶対出来ないしすることもないその仕草や雰囲気に思わず目が離せずに、少し離れた場所から二人のやり取りをガン見してしまう。


「急な呼び出しでホントオレもすげー残念。だから、また都合いい日連絡して。ちゃんと埋め合わせするから」


「ホントですか!? もう~今度は絶対朝までですよ?」


「もちろん」


 あたしは見るからにわざとらしいその雰囲気が苦手だと感じるのに、理玖くんはまったくそんな嫌な雰囲気もなく、慣れた感じでその女性と甘いやり取りを続ける。


 思わずここが会社だと忘れてしまうほどの自然なそのやり取り。


 だけど、あたしはふと我に返って冷静になる。


 いやいや、ここ会社ですよね??


 しかも、朝までって言ってたよね……?


 それってそういうことですよね……?


 いや、そんな甘い雰囲気漂わせてたら、きっとそうなんだろうけど。


 てか、理玖くんの少し後ろを歩いてたことで、ちょうど理玖くんが一人で歩いてるようにでも見えたのだろうか。


 あたしはまったく見えてない感じで、思わずあたしもそのやり取りが終わるまで少し後ろで立ち止まって見入ってしまう。


「フフッ。やだ~♪」


 だけど、全然終わらないそのやり取り。 


 それからもまだ耳元に理玖くんがコソコソと耳打ちをして、相手の女性が嬉しそうに反応する。


 え、あたし目の前で何見せられてるんだろう……。


「じゃあ、またね」


「は~い♪」


 ようやくそのやり取りが終わり、その女性は嬉しそうに微笑みながら去っていく。


 そして、あたしは目の前で繰り広げられた、そのイチゃついたやり取りにドン引きして、さっき理玖くんをちょっと見直したことを早々と後悔する。


「何、今の」


 理玖くんと二人になると、冷ややかな目で見ながら理玖くんに後ろから冷静に尋ねる。


「何って?」


 後ろに少しだけ顔を傾け、こちらを見ないまま反応する理玖くん。


「いや、ここ会社だよね」


「そうだけど?」


「今の、彼女?」


「いや? オレ彼女は作んない主義だし」


「え!? 彼女じゃないのにあのやり取り何!?」


 あんなにイチャイチャしといて!?


 しかも彼女作らない主義って何?


「いつものことだけど?」


「いつものことって……」


 平然と伝えるクズ発言の連発に理解不能で言葉を失くす。


 すると。


「高宮さん」


 また今度は違う女性が声をかけてきた。


 あたしはまたその瞬間、理玖くんに少し近づいて話していた距離をまた離し少し後ろでまた待機する。


「この前言ってたお店、来週なら大丈夫です♪」


「わかった。じゃあ予約しとくね」


「はい。楽しみにしてます♪」


「ん。オレも楽しみにしてる」


 今度はさっきの色気を漂わせてる女性とは違い、可愛らしい素朴な女性。


 そして理玖くんもまたさっきの女性とは違う表情と微笑みで、その女性とイチャつき始める。


 え、これって通常運転なの?


 誰もこれおかしいと思わないの?


 てか、理玖くんあたし後ろにいんのになんも感じないわけ!?


 だけど理玖くんは一度もこちらを振り向かず、あたしもまるでいないような素振りで、さっきの女性同様コソコソイチャイチャして、またその女性は満足して去っていく。


 すると、その女性がいなくなって、ようやくあたしの方に振り返って、あたしを見る理玖くん。


「ブッ。お前、なんて顔してんだよ」


 そして、なぜかあたしの顔を見て、吹き出す理玖くん。


「はっ!? 何!? なんで笑うの!?」


「いや、お前すんげぇしかめっ面してるからおかしくて(笑)」


「いやいや、こんな顔させてんの理玖くんじゃん!」


「あぁ~。お前にはこんなん刺激強すぎるか(笑)」


 理玖くんは、そんなあたしをまた面白がってからかう反応をする。


「ねぇ今の人もさっきの人も彼女じゃないってことだよねぇ?」


 そんな理玖くんにあたしは呆れながらも冷静に尋ねる。


「だから特定の女は作らないって言ってるだろうが」


「それって、あの人たち知ってるの?」


「知ってるよ? オレ皆にそう言ってあるし」


「言ってあるって?」


「気持ちには応えるけど、本気で好きにはならないし付き合いも出来ないって」


「えっ、最低」


 意味わかんない。


 気持ち応えるなら普通付き合うものじゃないの?


 しかもなんで最初っからそんなん決めつけてるの?


 当たり前かのようにそう答える理玖くんの言葉を聞いて、理想の人を探し続けてるあたしにとっては、そんな考え方があるのだと、少しショックを受ける。


 別に理玖くんが誰と付き合おうが知ったこっちゃないけど、でも、そういう男性が存在してるということが、あたしにとっては衝撃的で。


 だから昔から理玖くんはたくさんの女性と付き合ってたのかと納得。


 そしてやっぱり幻滅。



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