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第10話 わかり合えない恋愛観②


「とりあえず外回りはオレだけで回らなきゃいけないとこもいくつかあるから、まずはデスクでそれ把握するのにしばらく集中してくれたらいいよ」


 そっか。まだ外回りの営業は行かなくていいんだ。


 あっ、でもそういうことか。


 まずはその今関わってる内容を頭に入れないと、営業ついていっても役に立たないってことか。


 それなら……。


「あの。じゃあ、もし時間あるなら、これあたしなりにリストとしてわかりやすいようにエクセルでまとめてもいいですか? あっ、もしかして、もうそういうのやってます?」


 実はこの渡された資料を見て、もっとわかりやすくしたいなってちょっと思ってたんだよね。


 「えっ、あっ、いや。オレが関わってるやつだし、そういうのよりもオレは現場行くこと多いから、まとめるのもそこまでが限界っていうか」


 なるほど。理玖くんはこれをベースに把握してるだけってことか。


「じゃあ、ぜひそれやらせてください。ただ読んで頭に入れとくより、どうせならそれぞれわかりやすい調べやすいリストにした方がいいですよね」


「あっ、まぁ、うん」


「なら、調べやすい感じとか、自分でわかりやすい感じで、ちょっとまとめてみます」


「あ、あぁ。うん。なら、任せるわ」


「はい」


 なんか変な感じ。


 理玖くんと話してる時は、あたしが学生で幼い頃がほとんどだったし、ギャーギャー騒いでるか言い合いしてるか、そんな感じのやり取りが正直多かったけど、今は理玖くんと仕事の話してるんだもんな。


 仕事の時は、さっきみたいな煽られることがなければ、案外冷静に接することも出来るし。


 ちょっと悔しいけど、さっきの少し説明だけでも、なんか理玖くん仕事出来るんだろうなぁって、ちょっと思ったりもしたから。


 だから、こうやって落ち着いて接していると、それだけ理玖くんも大人になって当然変わったんだなって実感するし、あたしも子供じゃなく成長したんだなと、なぜだか感慨深くなる。


「てか、そういうこと出来るんだ」


「え?」


「エクセルでまとめたりとか。そんなん自分で考えてお前でも出来たりすんだな」


「いや、そりゃあたしも大学まで行ってるし誰かさん知ってる小学生や中学生のままじゃないんで」


「フッ。昨日の感じだと全然想像出来ねぇけど」


 理玖くんもあたしのように少し何かを感じたのか、説明が終わるといつもの雰囲気で話しかけてくる。


 だけど、まだ理玖くんの中で多分あたしはまだ全然子供のままで成長してないんだろうな。


 だからパソコン出来るのも不思議に感じたりしてんのかな。


 あたしも結構大人になったんですけど。


 てか、あたしどんだけ幼いイメージなんだよ。


「フフ。案外そういうの得意なんで任せてください」


 だから、今は変わったあたしを、ちょっと見せつけたくなる。


 もう子供のままじゃないんだということを。


 いつまでもバカにされているままなのは悔しいから、ここらでちょっと今の自分が出来る人間なんだと知ってほしくなった。


「なら、よろしく」


 すると、理玖くんもそんなあたしを察したのか、少し笑って応える。


「はい」


 あたしの返答を聞いて、理玖くんはその場を後にする。



 そして、理玖くんに渡された資料を確認しながら、あたしは改めてそのかなりの量と内容に驚く。


 これホントに全部理玖くん把握してるんだ。


 でも一応ファイリングはしてあるものの、やっぱちょっとこのままだと探しにくいよね。


 理玖くんだけがわかりやすい感じでまとめてあるから、かろうじてどう分けるかは把握出来そうだけど。


 でもまぁ確かに理玖くんエースみたいだし、ここまで案件抱えて関わってるとなると、こういう事務的なことまでは手が回らないよね。


 となると、まずはあたしが出来ることで理玖くんが仕事しやすいようにしたいな~。


 とりあえずこれをリストにまとめることで何が重要かとか、どういうコンセプトとかいろいろ把握もしていけそうだし。


 よしっ、頑張るぞっ!



 昨日は理玖くんと一緒に仕事することに、ちょっと不安を抱えてたけど、一日経って、仕事モードの理玖くんと接したら、案外思ったほど嫌に感じてないのに気付く。


 さすがに理玖くんもずっとからかってるわけじゃないもんな。


 確かに昔もマジメな時とかはちゃんと普通に接してくれてたし、一旦冷静になると、そこまで大騒ぎするほどでもないかも。


 そんな風に思いながら、それからあたしは目の前の仕事に取り掛かる。



 それから、あまりの量で集中して、しばらくパソコンに向かっていたら。


「おい。もう昼だぞ」


「えっ?」


 背後から理玖くんが声をかけてきて、いつの間にかランチの時間になっていることに気付く。


「何? 気付いてなかったの?」


「あっ、はい。集中してて今気付きました」


もうお昼の時間なんだ。


 早いな。全然気付かなかった。


「へ~そんな感じでまとめてんだ」


「はい」


 すると、あたしがまとめてるリストをパソコン上の画面で見ながら軽く理玖くんがその場でチェックする。


「いいじゃん」


「あっ、ありがとうございます」


 おぉ、褒めてくれた。


 理玖くん、こういうのって、ちゃんと褒めてくれるんだ。


 ってことは、仕事的にはちゃんとしたら理玖くん認めてくれるってことなのか。


 あまりにも昔と変わらないから、仕事でも意地悪されて褒めてもらえないのかと思ってた。


 でも確かに昔もこういう感じで頑張ったことは、さり気なく褒めてくれてた時もあったっけ。


「お前、昼は?」


「あっ、ここ食堂あるって聞いたからそこ行ってみたいなと思って」


「なら案内してやるよ」


「えっ? り……高宮さんが一緒にですか?」


 まさかの理玖くんからそんなお誘いされると思ってなくて、思わず動揺。


「なんだよ。嫌なのかよ」


「いや、嫌ってわけでは」


 職場では知らないフリしろとか言ってたくせに、お昼誘うとかどういう風の吹き回しかと驚いて、理玖くんをじっと見つめてしまう。


「仕事の進捗状況も確認しときたいし」


 だけど理玖くんは一切表情を変えずに平然とそう答える。


 あ、あぁ~そういうことか。


 うん、あたしがじっと見つめたとこで理玖くんなんも反応もなかったもんな。


 納得。


「あっ、じゃあ……、お願いします」


「ん。ならついてきて」


「あっ、はい」


 そしてそのまま理玖くんについて食堂に向かう。


 理玖くんにそう言われるも、さすがにちょっと隣を歩くのは気が引けて、理玖くんの少し後ろを歩き出す。


 特に理玖くんも話しかける様子もなく、あたしは理玖くんの後ろ姿を見ながら、やっぱりこの誘いはただの仕事の確認なんだと実感する。


 だよな。そんな深い意味あるわけないよな。


 なんであたしちょっとガッカリしてるんだ。


 理玖くん的には今はあたしはただの後輩なんだし、そのままの意味だよね。


 別に昔から知ってる親友の妹ってだけで、会社で特別扱いするわけないし。


 あたしも別にそんなの望んでるわけじゃないけど。


 でも仕事モードになると、案外からかってこない理玖くんに実は少し拍子抜けしている自分もいる。


 なんでだろう。あんなにからかわれるの嫌だったのに。


 ホントはそれだけの仲のくせに、仕事ではホントにそんなの気付かれないほどの接し方で。


 今の理玖くんはこういう感じなんだと、なぜか物足りなく感じる。




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