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第7話 永遠の理想の存在と憧れの関係①

「ただいまぁ」


 入社初日、家に帰ると。


「おかえり。沙羅」


 玄関で出迎えてくれる珍しい人物の姿。


「うわっ、颯兄! 帰ってきてたんだ!」


 大好きな颯兄の姿に気付いて、落ちていた気分が一気に上がる。


「おぉ。ちょうど仕事も今日休みだったし、沙羅が入社初日だって聞いてたからお祝いしてやろうと思って、ケーキ持ってきた」


「えっ! 嘘っ!! マジで嬉しいっっ!!」


 一人暮らししてる颯兄は、普段は有名レストランでパティシエをしているので、なかなか実家には帰ってくることも少ないんだけど、元々優しい人なので、家族のお祝いごとがあれば、必ず当日じゃなく遅れてでもこうやって自分の作ったケーキを持って帰ってきてくれる。


「よかったよ。たまたま今日休みになって」


「ホント颯兄基本忙しいもんねー。でもこうやって毎回家族のためにケーキ持ってきてくれるのホント最高。優しすぎる」


「ハハ。大袈裟だな。どう? 出社初日は。思ったより元気そうにも見えるけど」


「あぁ……!」


 家の中に入りながら、颯兄からその言葉を投げかけられて、一気に理玖くんとの再会を思い出し、ドッと疲れが出る。


「いや、それが、散々で……」


 リビングのダイニングテーブルの椅子に腰掛けながら、あたしは家に帰ってきた早々肩を落とす。


「何、どした?」


「職場にもう最悪な人がいて……」


「あら? 沙羅、お兄ちゃんの夢叶えられる会社に入社出来たってあんなに喜んでたのに」


 すると、あたしの言葉を聞いてキッチンで料理を作りながらママが不思議そうに呟く。


「うん。沙羅がオレの店いつかプロデュースしたいからその会社選んだって聞いて、嬉しかったよ。なのにそんなキツい会社だったのか?」


 そして颯兄もそう言いながら目の前の椅子に座る。


「いや、会社自体はね。めちゃ良さそうな感じだし、これからもすごい楽しみなんだけど」


「ん? なら一緒に入った同僚とかが嫌な感じだったとか?」


「いや、そうじゃなく先輩がですね……」


「先輩?」


「先輩がー! 理玖くんだったのーーっっ!!」


 今日の理玖くんとの再会でずっとモヤモヤとした感情を抱えていたあたしは、ようやくその愚痴をぶちまけられるこの状況が来て思いっきり吐き出す。


「え? 理玖? ってオレの親友の理玖?」


「そう! 颯兄の親友のあたしの天敵の理玖くん!!」


 会社ではあの感じだと絶対理玖くんいい顔してるし、あたしに接してくるあんな意地悪な態度他の人に絶対してないだろうから、その本性をさすがに誰にも言えるわけないし。


 たけど昔からからかわれてるのを知ってる颯兄もママも、理玖くんはあたしの天敵なことも知っているから、ここぞとばかりにあたしはその不満をぶちまける。


「えっ、マジか。理玖と同じ会社だったんだ」


「そだよー! 颯兄知らなかったの!?」


「あぁーそういえばあいつも食品関係のプロデュースの会社にいるのは知ってたけど、会社名まではいちいち覚えてないし、しかもまさかそんな一緒の会社だとは思わないだろ」


「だよねー! そのまさかまさかだよー!」


「へぇ~入社初日から理玖に会ったんだ?」


「うん。あたしが配属された営業部の先輩で、しかも理玖くんが指導係になった」


「ハハ。マジか。理玖が沙羅の指導係とか世間狭すぎだな」


 あたしが必死にこの切なさを訴えても、颯兄は軽く笑って反応する。


「いや、でもそれさぁ。ホントは多分違う人が担当だったんだよ」


「それならなんで理玖が?」


「あの人自分でなんでかわかんないけど、あたしの指導係に立候補した」


「マジで? あいつから?」


「そう! ねぇなんなの、あの人! なんでわざわざ自分から立候補とかすんの!? 最初に会った時にもあたしまた昔みたいにボロクソに言われたんだよー!」


 マジで今でも意味わかんない。


 なんで自分からそんな面倒なこと引き受けたのか。


゛出来るだけ理玖くんとは関わりたくなかったのに。


「最初って?」


「あ、あぁ~。営業部行くの迷ってた時に、たまたま理玖くんに会って連れて行ってもらったの」


「へぇ~先にお前ら出会ってたんだ」


「うん。偶然出会ったのが理玖くんだった」


「ならその時久々に再会していろいろ話せなかったのか?」


 颯兄にそう聞かれて、一瞬再会した時のことを思い出す。


 あの時、理玖くんを王子と勘違いして早々にからかわれた黒歴史は恥ずかしすぎて振り返りたくもないから、ここではちょっと黙っておこう……。


「あぁ~。話は出来たんだけど、それが逆に昔のままで理玖くんにはからかわれたというか……」


 なので、細かいその辺りは少し濁して伝える。


「あぁ~、確かに理玖は昔からなぜかお前からかってばっかだったしな~」


「そうなんだよ~! てか、あたしもう22だよ? 大人だよ? 昔みたいな小学生とか中学生じゃないんだよ? なのに、まったく同じような扱いされてマジでムカつく!」


「まぁお前もあんま昔から変わってないし(笑)」


「はっ? 颯兄までそんなこと言う!? 可愛い妹がこんな風に親友に初日からイジメられて可哀想だとは思わないわけ~!?」


「いや、さすがにあいつもイジメてはないだろ(笑)」


 颯兄はあたしを可愛がってくれるけど、それと同時に親友の理玖くんとも当然仲はいいから、こういう時は至って冷静に状況を判断する。


「まぁ、そこまでではないけど……」


 あたしもちょっと大袈裟に言い過ぎた。


「っていうか、自分から指導係するって理玖が言ったってことは、理玖的にはお前をホントに指導しようとしてんじゃないの?」


「えっ、自分の都合いいパシリとして!?」


「ハハ。そうじゃなくて。結構沙羅は全力で周り見てないとこあるからさ。元気なのは沙羅のいいとこだけど、たまに心配になる時もあるから。それわかってて、理玖は自分から面倒見ようと思ってくれたんじゃない?」


「え~そうかな~!? あたしもう大人だし~!」


「そういうとこが全然お前は昔のままなんだって(笑)」


「そうよ~。沙羅はそうやって言うけど、案外理玖くんは昔から沙羅の面倒見てくれてたわよ?」


 すると、ママまでキッチンから話に入ってきたかと思ったら。


「そうそう。茉白ちゃんがしっかりしておとなしかった分、お前はずっとやんちゃで目が離せなかったからなぁ。案外振り回されてたのは理玖だった気もするけど(笑)」


 ママに続いて颯兄まで理玖くんの肩を持ち始める。






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