するとしばらくして部長らしき人が入ってきて、そのまま挨拶が始まる。
そして、新入社員であるあたしたちは、早速挨拶するようにと指示をされる。
一人ずつその挨拶が始まって、自分の番が回ってきて、皆の前に立って挨拶を始める。
「え~今回新しく入社しました楠 沙羅です。この会社でいつか夢を叶えることを目標にしながら、日々いろいろ勉強して、早くお役に立てるように頑張ります。よろしくお願いします」
と、挨拶をした瞬間、目に入る理玖くん。
すると、あたしだけにわかるようにニヤっと笑って悪い表情をする。
いや、これですって皆さん!
今この人一瞬悪い顔してました!
だけど、さすがに挨拶してる人物に皆注目していて、そんな悪い理玖くんに気付くはずもなく……。
うわー絶対同じ営業部でも出来るだけ関わりたくない。
こんな裏も表も知ったら絶対仕事やりにくくて仕方ないし、そもそも理玖くんには他人のフリしろって言われてたし。
まぁその点は関わらずにいれそうでよかった。
そして新人の挨拶が全員終わり、今度は新人の自分たちに一人ずつこの部署で新人教育の担当がつくらしいとの説明が。
え~出来れば優しい先輩がいいな。
最初は女の人が理想だな。それでちょっと仲良くなったりしたいな。
と、都合よく考えてたら。
「え~っと楠は、広川がいいか」
部長があたしの担当を決め始める。
「あ~広川は、デカい案件取れそうだから今はそっちに集中する方がいいんじゃないですかね。今日もそっちに出張行ってるから、指導係キツいんじゃないですか?」
すると、理玖くんがこのタイミングでそんなことを伝えだした。
「あぁ~そうか。確かに広川は今ちょっと余裕がないか。そしたら、誰にするかな」
指導係を指示していた部長が理玖くんの言葉を聞いて誰にするか迷い出す。
ん? あたしの指導係迷われてる感じ?
優しい人なら誰でもいいけどな~。
案外自分は普段は明るく元気な方だけど、こう見えて案外メンタル弱いとこあるんだよな。
褒められて伸びるタイプなんで、出来ればずっと怒られる人よりそんな感じの人になってくれた方が……。
「あ~。じゃあ、オレやりますよ?」
すると、聞き慣れた人からそんな言葉が飛び出す。
……ん? えっ! 理玖くん??
いやいや、なぜに自ら立候補!?
「高宮お前が直々に指導係言い出すとか珍しいな。てか、お前の方がいろいろ忙しいだろうからもう少し案件抱えてないヤツに任せても……」
えっ、珍しいんじゃん!
ならわざわざやらなくていいよ!
理玖くんが指導係なんて絶対嫌なんですけど!!
「いや、今オレ余裕ありますし、ちょっと指導係を今のうち経験しとくのもまた視野も考え方も広がりそうですし、ここら辺でちょっとやっといてもいいかなぁって」
いやいやいいよ! これ以上頑張らなくて!
あなたエースなんでしょ!? 指導係なんてしなくていいから!
「あ~そうか? まぁそりゃ他のヤツがやるより、お前のが要領いいだろうから無理なく出来るだろうし問題はないか。楠も高宮と組めばかなり勉強出来ていい経験になるだろうしな。じゃあ、高宮頼めるか?」
「わかりました」
えっ……。
わかりましたじゃないよ!
これホントに決まっちゃったの!?
マジで理玖くんが担当になっちゃったの!?
絶対嫌だーっっ!!!
「え~沙羅すごーいっっ! 高宮さん指導係になったのー!?」
すると、挨拶が終わり次第、一葉が早速笑顔で羨ましそうに声をかけてくる。
周りの人たちからも、あたしを羨ましがる声まで聞こえてくる状況。
いやっ、あれがいいなら全然変わりますけどっ!?
あたしはそんな状況にまったく喜べなくて、引きつった笑顔で応える。
そして皆が散らばったタイミングで、理玖くんがあたしの前まで来て。
「はじめまして。楠さん。指導係になった高宮です。よろしく」
と、嘘の笑顔の仮面を貼り付けた理玖くんが、わざとらしく声をかけてくる。
「はじめまして。高宮さん。楠です。よろしくお願いします」
そして、あたしも嘘の笑顔を貼り付け、はじめましての挨拶をわざとらしくし返す。
あぁ、なんだろう、この屈辱感。
今までは別に颯兄の妹ってだけだったし、理玖くんもあんな態度だったから別に好き勝手に言い返したりしてたけど、まさかのこれ会社の先輩でしかも指導係になっちゃうなんて、もうストレス溜まる未来しか想像出来ない。
入社早々、あたしは期待に胸を弾ませ、新しい自分として輝かしい社会人をスタートさせるはずが、まさかの天敵の理玖くんに再会し、すでに前途多難……。
どうかこの出会いが、これからの仕事にも、王子様探しにも、なんの影響も及ばしませんように!