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第5話 意地悪な王子様との始まり②

「ていうか、営業部に所属出来る新人ってかなりラッキーみたいだよ」


「えっ? そうなの? 営業ってよく配属されやすい部署なんじゃないの?」


「あぁ。この会社に、あたしの従姉のお姉ちゃんが働いてるんだけどね。その従姉からいろいろ聞いたんだけどさ。最初に働くのは断然営業がいいらしいよ」


「そうなの? なんで?」


 たまたま配属された営業だけど、最初は営業って大変そうだから頑張れるか心配だったけど、なんかメリットあるのかな?


「沙羅って面接の時チラッと話してたけど、この会社でお兄ちゃんのお店プロデュースするのが夢なんだっけ?」


「そう! パティシエのお兄ちゃんがいつか独立する時、あたしがそのお店プロデュースしたいんだよねぇ~」


「この会社って社長が若いから、いろいろと新人の頃から若手の要望や意見も聞いてくれるらしいんだけど、特にそういう後々夢を持ってる人は、まずは営業で経験積む方がいろいろ勉強にもなるし、そういう道近づける可能性多いらしいよ」


「へぇ~」


「それに、従姉が言うには、この会社一イケメンのモテモテのエースがこの部署にいるらしくて。そういう意味でも一番ラッキーだって言ってた」


「えっ! そうなんだ!」


 社内一のイケメンのエースと聞いて、急にあたしのモチベーションもテンションも上がる。


 えっ、そんな人がいたらめちゃ頑張れちゃいそう!


 多分あたしのこのチョロさは、イケメン好きっていうのも問題あるのかもな。


 別に外見だけで選んでるわけじゃなんいだけど、でも王子様は誰が見ても絶世のイケメンだったりするでしょ?


 漫画だってドラマだって、やっぱりイケメンが主役なのよ。


 まぁ、さすがにあたしもそんな最初っからイケメンに相手にされるとは思ってないし、とりあえずまずはそんな王子様に素敵な片想いでもいいから恋してみたいな~なんて。


「あっ! あの囲まれてるあの人!」


「えっ、どれどれ!?」


 あたしは一葉が指差した方向を興味津々で見る。


 すると、少し離れた先で女性に囲まれてるその人物。


 お~さすが噂のイケメン。


 出勤早々あんなに囲まれるとかすごいな。


「その人と一緒に仕事したい人多いから、元々他の部署で働いてる人も、営業部に転属してくる人も結構多いらしいよ~」


「え! そんなに!?」


「実際仕事もめちゃ出来る人らしいからね。イケメンっていうのも大きいけど、とにかく一緒に仕事すると勉強になるらしいから一緒にしたい社員多いらしいよ~。すごいよね~」


 へ~そんなすごい人なんだ。


 じゃあそんな人と同じ営業部で仕事出来るのはかなり勉強になるかも。


 しかも社内一のイケメンでしょ!?


 えっ、それっておいしすぎない!?


 だけど、その人は椅子に座っているのか、女性が周りを囲みすぎてまったく見えない。


 えっ、どんな人か気になる!


「あっ、ホラあの人」


 すると、その男性が立ち上がり、その女性たちに話しかけてる様子がなんとなく見える。


 あたしはようやくその男性の顔が見れると、ワクワクしながら前のめりで確認しようとする。


「高宮さんって言ってね。ホラ。あの隣の女の人と仲良さそうに話してる人。常にあの笑顔で気さくで優しくて、一度話すと、ほとんどの人がその魅力に虜になるらしいよ~」


 一葉がそう説明するのを聞きながら、爽やかな笑顔を振りまいて隣の女性と親しげに話しているその人物に、あたしはある意味釘付けになって、そのまま固まってしまう。


 え……?


 いやいや、理玖くんじゃん……!


 ってか、笑顔で気さくで優しい……?


 あたしさっき思いっきりいろいろ罵られて睨まれましたけど?


 あぁ~! 社内一のイケメンは理玖くんだったのか~!


 にしても、さっきのあたしとの時と別人なんですけど!?


 なるほど。表向きの理玖くんはこういう感じってことね。


 うわ~社内でそんな風に言われてるってことは、あたしが知ってる理玖くんは一切封印してるってことだよね?


 え、完全に仮面被ってんじゃん。


「従姉のお姉ちゃんが同期みたいでさ~。一緒に写真写ってんの事前に見せてもらってはいたんだけど、実物のがやっぱめちゃめちゃカッコいいよね~」


「あぁ~うん……」


 社内一のイケメンが理玖くんだと知り、さっき上がったモチベーションとテンションが今度は一気に下がりまくる。


 そして一葉への反応にも薄くなってしまう。


「えっ、イケメン好きじゃない?」


「いや、イケメン大好物です。なんなら王子様みたいな人が理想です……」


 あたしは少し気落ちしながら、引きつった笑顔でそう答える。


 うん、確かにそうなんだけども。


 だけど、イケメンでも理玖くんは論外なのよ。


 そんな理玖くんは王子様と正反対なのよ。


 だから、一葉の話を聞いて、一ミリもそれが理玖くんだなんて一致しなかった。


「えっ、じゃあ高宮さんとかピッタリなんじゃない!?」


「えっ!?」


 なのに、一葉は嬉しそうにそんなことを言い出す。


 いやいや、確かにあたしがホントに理玖くんと他人なら、万が一その可能性もあったかもしれない。


 だけど、どう考えても理玖くんの本性知っちゃってるから無理なんだよ~!


「ビジュアルはモデル並みのあのレベルで、人柄も誰にでもフランクで優しいらしいから、めちゃめちゃ人気あるみたいだよ~」


「へ、へぇ……」


 ハハッ。誰のこと言ってんだろ。


 それはホントにあたしの知ってる理玖くんですか?


「だから社内はもちろん取引先や関係者、とにかくいろんな女性からのアプローチもすごいんだって」


 あぁ……なるほど。


 放っておいても女性から近づいてきてくれるってわけですか。


 でも皆騙されてますよー!


 この人あたしの前ではめちゃ意地悪だし、いちいち文句言ってくるし、全然優しくなんてないですからー!


 と、声を大にして言いたいところ、グッと心の中で我慢して堪える。


 入社日早々、昔と変わらないそのままのイメージのままの理玖くんを見て正直ガッカリする。




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