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第4話 意地悪な王子様との始まり①

 それから理玖くんに案内してもらった営業部にようやく到着。


「営業部着いたぞ」


「ありがとう」


 すると、営業部に入る入口から少し離れた場所で理玖くんが立ち止まる。


「あぁ~そうだ……」


 そして、その場所で何か思い出したように呟いたかと思ったら、隣にいるあたしを急に険しい表情で見てくる理玖くん。


 えっ、何……!?


「ここからはオレとお前が知り合いってことバラすなよ」


 その表情のまま、あたしに顔を近づけ、耳元でコソッと静かにそんなことを伝えてくる。


 だけど、その意図がわからず、あたしも同じように険しい表情をしたまま理玖くんの方を見て。


「えっ、誰にそんなん言う必要あんの? こんな広い会社なら、そもそも理玖くんに会うかもわかんないし、会ってももう話しかけないから心配しないでいいよ!」


 なんなの、そんなあたしと知り合いなのが嫌なわけ!?


 いきなりそんなことを言われて、またイラッとして強気で言い返す。

 すると。


「いや、オレ営業部だから」


 と、理玖くんが、あたしを見ながら少し呆れ気味に呟く。


「……え。嘘!?」


 まさかのその事実に、あたしは唖然としながらも思わず反応も大きくなる。


 理玖くんと再会してから、次々に信じがたい現実がいろいろ飛び込んできて、すっかりあたしは王子様どころの騒ぎじゃなくなって冷静になってしまう。


「だからこっからお前とオレは嫌でも顔合わせることになんだよ」


「えぇ……」


 マジか。ありえない。


 これから働く場所が理玖くんと同じとこなんて……。


「仕事的にも女関係的にも、お前にベラベラいろいろ話されると厄介だからな。マジこっから初めて会うフリしろ。いいな」


「は!? なんでそんな一方的!」


「いいな……!」


 あたしが反論しようとすると、顔を近づけて睨みつけながら圧をかけてくる。


「は……い……」


 うぅ……、ずるい。


 こういう時だけ理玖くんは年上ぶって、あたしを言いくるめる。


 そんなに昔っから知ってるあたしがいると厄介なのかよ。


 いや、そりゃいろいろと知ってるし。


 女性関係でも、理玖くんが中学生の時から、そういう相手たくさんいるのを小さいながら見てきたし。


 理玖くんが家に来なくなってからも颯兄からそういう話何度も聞いてたしな。


 小さい頃から王子様の存在を夢見てきたあたしにとっては、マジで理玖くんみたいな一途じゃない人、もう幻滅するしかなかったもん。


 正直そんな理玖くんのことあたしが何か言ったところで影響とかあるのだろうか。


 クズはクズでしかなくない?


 てか、あたしにバラされたくないほどって、理玖くん普段どんだけ偽ってんだろ。


 よしっ。それならそれでこれから何かあった時のために抵抗出来るように、理玖くんの弱みもっと握ってやる!


「とりあえず先にオレ入るからお前は時間差で入ってこい」


「えっ、もうこっから!?」


「当たり前だろ。最初っからお前と一緒にいるとか説明すんのめんどい。余計な詮索されても困るし、お前ここでは馴れ馴れしくすんなよ。わかったな?」


 ことごとく念を押され、”余計なことを言うな”と言わんばかりの、その理玖くんからの表情と雰囲気で、不本意だけど状況を察する。


「……もう、わかったから早く行きなよ」


 そのあたしの言葉を聞いて、ようやく納得したのか、理玖くんがそのまま部署内へと入っていく。


 そんなにあたしが邪魔な存在ってこと?


 あたしだって自分のこと知りすぎてる理玖くん近くにいて、こっから職場でずっと顔合わすとか、やりにくくてしょうがないんですけど!


 入社早々こんな再会をして、さっきまで新生活への期待に満ちてた自分も、今ではすっかりどっか行ってしまった。


 そして、そのあと少し様子を見ながら時間を待って、ようやく部署内へとあたしも入っていく。


 えっと、理玖くんはどこ行った?


 理玖くんから他人のフリをしろと指示があっただけに、出来るだけ離れた場所にいたい。


 だけど、理玖くんが見当たらなかったので、なんとなく人が集まってる場所まで行って合流する。


 そして、その人混みに合流した早々。


「もしかして。楠さん?」


「えっ?」


 隣にいた女性に声をかけられる。


「あたし。入社試験の面接の時一緒だったものです!」


「あー! あの時の!」


 その女性は同じ日に面接で一緒になった女性で。


「わ~! お互いこの会社入れたんですねー!」


「しかも同じ営業部だなんて!」


「一緒なのめちゃめちゃ嬉しいです!」


「改めまして、星川ほしかわ 一葉かずはって言います」


 笑顔で爽やかに自己紹介をしてくれるその女性は、少し大人っぽい雰囲気でクールそうに見えるのに、案外気さくに話しかけてきてくれるような人で。


 少しギャップがあったのと、話しかけくれた嬉しさもあって、よく覚えていた。


「あっ、楠 沙羅です」


 そして、あたしもその嬉しい再会に笑顔で応える。


 その点、あたしは元気が取柄なのは間違いないんだけど、案外自分からは行けないタイプ。


 でも向こうから来てもらえたら全然気さくに受け入れられるって感じで、そういう部分では同性でも異性でも嬉しくなっちゃう。


 もしかしたらこういう感じがチョロくなってしまう要素あったりもするかもだけど。 


「沙羅ちゃんって呼んでいい?」


「あっ、沙羅でいいですよ!」


「じゃあ、あたしも一葉で!」


「了解です! よろしくお願いします!」


「はい! よろしくお願いします! あっ、それなら敬語もなしでいきましょ」


「あっ、うん! よろしく一葉!」


「よろしく沙羅!」


 うわ~嬉しいな~。


 まさかあの時の女性と一緒になるなんて。


 たまたま面接で一緒で隣になったことでその日話したんだけど、初対面だけどこんな感じだからすごく話しやすくて、一緒に入社出来ればいいねーって話してたんだよね。


 まさか同じ部署になるなんてな~。


 入社早々知り合いいるとか安心出来る~。


「あっ、そうそう。さっき聞いたんだけど、皆揃ったら、うちら新人は挨拶しなきゃいけないみたい」


「あっ、そうなんだ」


「なんか早速で緊張しちゃうよね。でも、ホント沙羅と同じ営業部になってよかった~」


「ホントホント。あたしも一葉と一緒でめちゃ心強い!」


 二人揃って早々に盛り上がる。


 慣れない場所で同じ気さくに話せる存在がいるだけで、ちょっと頑張れそう。


 理玖くんと同じなのはかなり不本意だけど。


 でも、知らないフリすればいいなら、こっちも好都合。


 理玖くんのことは気にせず、あたしは自分なりになんとか頑張ろう!








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