「てか、理玖くん。別人すぎない!? 何!? その大人な感じ!」
だから、なんかつい、騙された感覚になって、理玖くんとわかった途端、あたしも口調がいつもの二人での話し方に戻る。
「は? そりゃそうだろ。お前と会わなくなって何年経ってると思ってんだよ。お前がここ来るまでオレはしっかり社会人になってんだぞ。大人の男になってて当たり前だろ」
「まぁ、そりゃそうだけど……。でも、理玖くん。あたしよくわかったね!? あたしそんな変わってない!?」
いや、それはそれでちょっとショックなんだけど……。
「それ」
「え?」
理玖くんが自分の胸の方をトントンとして社員証を指差す。
「あっ、なんだ! 社員証見て気付いただけ!?」
「まぁ、さすがに最初はオレもわかんなかったけどな。お前も見た目さすがに成長して変わったし。でも名前見えた時、すぐお前思い出した」
「あたしもなぁんか見たことあるような気がするなぁって、うっすら思ってたんだよ~。もう騙された~!」
「何がだよ。お前が勝手に気付かずに勘違いしてだけだろ」
うっっ、それは図星。
でもさすがに王子様的なのを理玖くんに感じてしまったことは、絶対言いたくないしバレたくない……。
「でも。理玖くん。あたしとわかってて、知らないフリしてたじゃん……」
「あぁ~。それはなんかお前の反応面白そうだったから、そのまま仕事モードのままにしてた」
そしてまた意地悪く嬉しそうに笑って答える理玖くん。
「ひどっ! 最初から、からかう気満々じゃん!」
あ~この人こういうとこあるんだよね。
昔からあたしの反応見て、しばらく放置しては眺めて、後になっていじってからかってくるタチの悪い男なんだよ、ホント。
「なんかお前は昔から、からかいたくなんだよな~」
「それ常にあたしのことバカにしてるからでしょ」
理玖くんのこういう態度は昔から慣れてるけどさ。
だけど、あれからもう何年も経ってるのに、今でも理玖くんの接し方が変わらないのはいかがなものか。
あたしまったく成長してないんじゃあ……。
「お前はなんか昔から颯人と一緒に妹的な感覚だからつい、さ」
「は? 理玖くん、
昔からそうだった。
なぜか理玖くんは、ホントの妹の茉白ちゃんよりも、あたしと話したりする方が、なんか今みたいな理玖くんらしさのままで。
逆に妹の茉白ちゃんには、いつでも穏やかで優しいお兄ちゃんだった。
それなら、あたしも同じように優しくしてくれたらいいのにと思いながらも、あたしもこんなんだから、結局おとなしくしてなくて、理玖くんはいつもこんな感じでからかうのが普通になってて、それがあたしと理玖くんの仲では当たり前の関係になっていた。
「茉白はお前とは全然タイプが違うだろ。んなの、茉白からかえるタイプと思うか?」
「いやまぁ、そりゃ確かに、茉白ちゃんはあたしと正反対でこんな言い返したりしない穏やかなタイプだけど」
「だろ? てか、お前はホントの妹じゃないし、颯人の妹だからそういう扱いでいいんだよ」
「え、全然意味わかんないんですけど。
そう。颯兄は実のお兄ちゃんではあるけど、優しくて頼もしくて爽やかでまさに理想の王子様みたいな人。
だから、颯兄は妹をからかうなんてそんなこと絶対しない。
ある意味昔からそんな理想的なお兄ちゃん見てたから、同じような男性探しちゃうっていうのもあるんだろうな。
まぁ、さすがにお兄ちゃんには恋愛感情にはならないし、だからといってお兄ちゃん以上に理想的な人ってなかなか現実にはいないって、ようやくこの年齢になって気付きだしてはいるけどさ……。
「てか、お前今22だろ?」
「そうだけど?」
「それでまだ未だにそんな王子様とか夢みたいなこと言ってんのかよ」
理玖くんが呆れたような口調と目つきで、ズバッと現実を突きつけてくる。
唯一理玖くんは昔から理想を夢見てたあたしに、あたしの気持ちも構わず理想を夢見ても無駄だと言い続けてた人。
どうして昔っから恋愛にも理想を夢見ることにも否定的だったのかがわからなかった。
だけど、まともにちゃんと恋愛してたのかもわからない理玖くんに、そんな風に言われるのも、なんかちょっとモヤッとしてたのも事実で。
「悪い……?」
今はそんな風に言えるほどの恋愛を理玖くんはしているのだろうか。
理想じゃなくそれ以外に大事な何かを、理玖くんは知っているっていうの?
「今だってオレともわからないで、相変わらずチョロい反応してるし」
「いやっ、だって、それは、理玖くんがそんなイケメンっぽい嘘の王子様のフリしてるからじゃん!」
あ~、なんでそういうとこちゃっかり気付いちゃってるかな~!
「は? オレはただ倒れそうになったのを普通に助けて、迷ってる新入社員普通に案内してるだけ。それをお前が勝手にその気になっただけだろうが」
「うっ、それは、まぁ……」
あっ、しまった。
自分でそう思ってたってことバラして墓穴掘った……。
確かに、別に理玖くんは普通以上のことしてないと言えばしてない……かも。
「今まではそんなんでもよかったかもしれないけど、お前社会人になったんだぞ。こんな状況でそんなチョロいことになってたら、お前マジしんどいぞ」
「も~。なんでいっつも理玖くんはそんな説教くさいの~?」
昔っからこうだ。
あたしが理想の人を探して誰かを好きになりかけると、いつもお前はチョロいだとかなんとか言ってすぐ説教する。
自分は女の人と軽いクズみたいな付き合い方しかしてないくせに。
理玖くんに言われたってなんの説得力もないんだよ。
「はぁ? オレはお前のためを思っていつも言ってやってんだろうが」
「え~別に余計なお世話だし」
「あっそ。なら好きにすれば? っていうか、誰でもチョロく好きになってオレに泣きついてくんじゃねぇぞ」
「そんなの、しないもん……」
そう言いつつ、一瞬自信がなくなり、視線を落としながら思わず言い返す声も小さくなる。
でも結局理玖くんに頼ったってバカにされるだけだし、その時は自分で対処するしかない。
「あっ、あと、お前オレにはそのままチョロいままでいんなよ?」
「えっ?」
「そうやってお前に好きになられるのだけは勘弁」
えっ、何。
あたしまだ好きでもないし、なんも言ってもないのに、拒否られてる?
何、このムダに傷つけられてる感じ。
好きでもないし告白もしてないのに、なんか断られた気分。
あたし自身を受け付けなくて否定されてるような感じがして、なんかちょっと……切ない。
「……は? そ、んなの絶対ならないし! 心配無用!!」
だからあたしも全力で理玖くんに強気の視線と言葉で返す。
理玖くんなんて絶対好きになるはずないじゃん!
あたしにいつだってこうやってムカつくことしか言ってこないし、全然優しくなんてしてくれないし。
あたし好きになってくれない人なんて、こっちから願い下げだよ!
「そっ? なら安心」
あたしのその言葉を聞いて、嫌味っぽく笑って返す理玖くん。
「理玖くんだけは、ぜーーったい好きになんてならないから!」
「ほぉ~。そりゃよかった。面倒だから、絶対オレだけは好きになんなよ」
理玖くん好きになるとか絶対ありえない!!
さっきのはちょっと理玖くんが違う理玖くん演じてたから、ちょっと間違っただけだし!
ってか、それって理玖くんもあたし以外の人には優しいってこと?
は? それって、やっぱあたしだけに意地悪だってことじゃん!
あーもうムカつく!
なんで入社早々こんな気分悪くなんなきゃいけないんだよー!
絶対理玖くんと正反対の、理玖くんよりももっとカッコよくて優しくて、あたしだけを好きになって大切にしてくれる王子様見つけてやるんだからー!!