次に気がついたとき、私は自宅――サイラス邸のベッドで寝かされていた。
そばで看病してくれていたメイドさん曰く、私は城壁の上で気絶してしまったらしい。
あれから半日が経過しており、今は昼。
基本夜型の魔物は波が引くように去っていき、全ての危機は去ったのだそうだ。
そのとき、寝室のドアがばぁんと開かれた。
入ってきたのは、
「サ・イ・レ・ン!」
メイドさんが大慌てで退出する。
サイレンが泣きはらしたような目で私を睨みつけ、
『馬鹿か、お前は!?』
怒り心頭、渾身の手話。
それから、
「ラ・イ・ト!」
強く強く、私を抱きしめた。
サイレンの腕が、全身が、震えている。
それほどまでに、心配を掛けさせてしまったのだ。
私はサイレンの背中をポンポンと撫でる。
すぐさま体を引き剥がされ、
『ライト! 私は本気で怒っているんだからな!?』
『ごめんなさい!』
私はひたすら『ごめんなさい』を繰り返す。
『それで……死者は?』
『ライトに責任はない』
『教えてください』
『知ったところで、変わらないぞ?』
『お願い』
サイレンが、強く私を抱きしめてから、
『……34名だ。全員、弓兵。彼らは非戦闘員を守り抜いた』
『遺族に会わせてください』
『それは……いや、分かった』
◇ ◆ ◇ ◆
……結局、私を責める遺族はひとりもいなかった。
全員が全員、私に『ありがとう』と言ってくださった。
私はただ、頭を下げることしかできなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
数日が経ち、街はすっかり落ち着きを取り戻した。
ホントたくましいなぁ、この世界の人たちは!
私も、いつまでも悔やんでばかりもいられない。
だって、やるべき仕事が山積みなのだ。
城壁の完成、
魔の森の開拓、
沈黙の魔王の打倒。
西側で蠢動を続けるゲルマ帝国にも備えなければならない。
領主の妻としての仕事だけでなく、サイレンの妻としてのプライベートだっていろいろある。
子供だって遠からず授かれるだろう。
前世では、私の隣には誰もいなかった。
けれど今は、サイレンがいる。
全ての音が奪われたこの世界で、私はサイレンとともに生きていく。