これが世に言う『レス』ってやつ!?
えっ、早くない!?
『違う違う、勘違いしないでくれ!』
よほどショックが顔に出ていたのか、サイレンが大慌てで否定してくれた。
『私は毎晩だってライトを……抱きたいよ。ただ、事の前にやっておきたいことがあって』
サイレンがポケットから2つの小箱を取り出した。
この形状、この雰囲気。
まさか――。
サイレンが蓋を開けた。
その、まさかだった。
『すまない。すっかり遅くなってしまった』
結・婚・指・輪!!
『改めて、私と結婚してくれ。絶対に幸せにする』
サイレンが私の左手を取って、薬指に指輪をはめた。
「――――っ!!」
歓喜に脳が震える。
『はい、喜んで!』
私はサイレンの分の指輪を取り、彼の大きな指にはめる。
どちらからともなくキスをする。
そうして2人、倒れ込んだ。
そこから先は、手話も要らないコミュニケーション。
◇ ◆ ◇ ◆
『欲しいものはないか?』
事の後で、汗だくのサイレンが聴いてきた。
『特に何も。衣食住に仕事に笑顔に愛に。欲しいものは全部頂いています』
『お前はまた』顔を赤くするサイレン。『恥ずかしいことをさらりと』
恥ずかしい?
あー……この、欲にまみれた愛のことね。
『ですが、やりたいことならあります。あなたに手料理を振舞いたいし、一緒に街を歩きたい』
『私もだ。だが……』
『分かっています。今は手話と城壁が最優先、ですよね』
『すまないな』
『謝らないでください。諸々落ち着いたら、お付き合いしてくださいますか?』
『喜んで』
◇ ◆ ◇ ◆
数週間、穏やかな日が続いた。
手話は今や領都サイラスの住人全員に熟知されており、城壁造りのみならず、軍隊の運営や兵站の運営、住民の一挙手一投足に至るまでのあらゆる生産性を爆上げさせた。
城壁も、第1弾の魔の森前面数百メートル分が完成して、今はさらなる延伸工事に邁進している。
……一方で、魔の森内の魔物が活発化しているとの報告も上がってきていた。
壁ができたことで余裕が出た兵を、斥候に出していたのだ。
今までロクに斥候を出せていなかったので、本当に以前と比べて活発化しているのかは判断が難しい。
が、備えるに越したことはない。
街は、ピリピリしていた。
そうして――
『スタンピードです!』
ある夜、サイラス邸の食堂へ、伝令兵が駆け込んできた。
サイレンは食事を中断し、速やかに帯剣して外に出ようとする。
『家で待っていろ、ライ――』
『イ』 の指文字、サイレンが立てた小指に、私は自分の小指を絡める。
「や・く・そ・く」
私は唇を動かす。
『約束です。絶対に生きて帰ってきて』
サイレンは力強くうなずいてくれた。
『行ってくる』