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9「……………………え?」

『すごい! すごいすごいすごい! 天才! 天才! カッコイイ! 抱いて!』


 あ、抱かれた後だったわ。

 事後のベッドで大興奮の私。


『照れるから止めてくれ。何もかもライトのお陰だよ。でも、兵たちの練度には自信があるかな』


 私の『抱いて』発言(手話)を真に受けたのか、私の胸に手を伸ばすサイレン。

 何を隠そう私の旦那・サイレンは、無類のおっぱい好きだった。

 いやまぁ、おっぱいが嫌いな男性なんていないのかもしれないけど。


 私のを揉んだり吸ったり顔をうずめたりしているサイレンはこう、何というか赤ちゃんみたいでめちゃくちゃ可愛い。

 私は性愛と母性を同時に感じるハメになり、ナゾの背徳感が押し寄せてきて脳がぐちゃぐちゃになる。


 しばし私の胸の感触を楽しんでいたサイレンが、顔を上げた。


『だが、まだまだ課題もある。今回は数百対数百の規模だから、直接手話を届けることができた。だがこれが数千人規模同士の戦いになったら、とてもじゃないが手話が届かなくなるだろう』


『数千人……というと、領都サイラスの動員限界! そんな大軍を動かす必要があるのですか?』


『よく勉強しているな。さすがはライトだ。そう、万が一魔物集団暴走スタンピードが発生してしまったら、数千人の兵を城壁に貼りつかせる必要がある』


『スタンピード……』


『いつ発生するかは分からない。が、前例があるからな』


 あるのか。

 なら、発生するのを前提に備えるのがサイレンと私の仕事だ。


 手話というのは基本、手元でちょこちょこやる言語なので、手旗信号のような長距離対話ができない。

 数十メートルも離れてしまうと、ちゃんと伝わるのか危うい。

 数百メートルも離れてしまえば、まず間違いなく伝わらないだろう。

 じゃあ手旗信号でいいじゃん、とも思ったのだが、手旗信号は手話ほどスピーディーに大量の情報を伝えることができない。


『何かないか、ライト?』


 うーん……サイレンは私のことをドラえもんか何かのように思っているようだ。

 私には手話と、元現代地球人としての知識チートしかないというのに。

 あー、でも前世の『アレ』みたいなのが実現できれば、どれだけ遠距離でも手話を届けることができるかも。

 いや、でも、さすがに『アレ』は存在しないだろうなぁ。

 だってここ、なーろっぱ風異世界だもの。

 でもまぁ、聞くだけ聞いてみるか。


『サイレン、実は1つだけアイデアがあって――』





   ◇   ◆   ◇   ◆





 さらに数日後の、夜。

 夕食と湯浴みを済ませた私は、寝室で夫を待っている。


 サイレンは忙しく、夕食後にひと仕事してから戻ってくるのが通例だ。

 なので私は寝室で、ドキドキワクワクしながらサイレンを待っている。

 まったく、さかりのついたネコじゃあるまいし、我ながらはしたない。

 とは思うものの、彼の腕ったら本当に逞しくて――


 おっと、サイレンが戻ってきた。

 ベッドに上がってくる。

 ベッドの上で横座りしていた私は、彼の胸板に触れる。

 すると、サイレンが首を振った。





 ……………………………………………………………………………………え?





 わ、私、今、断られた!?

 これが世に言う『レス』ってやつ!?

 えっ、早くない!?

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