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7『勝ち鬨を上げよ!』

 数日、手話講師としての業務に従事した。

 何しろ■■年も続けてきた仕事なので、お手の物である。

 4日目ともなると主要な上流階級が一巡し、その子女の番になる。

 こんな都市にも子供はいるのだ。

 さすがに言語習得前の幼子はいないが、子供は多い。


 私は子供たちを並ばせ、手話伝言ゲームを行う。

 特別支援学校で最も喜ばれた授業だ。

 案の定、子供たちはドハマりしている。

 可愛いなぁ、楽しいなぁ。

 やはり私には、この仕事が合っている。


 さらに数日後。

 街が、明るくなった。

 今までは、コミュニケーションが上手くいかないことに対するやるせなさや怒りが街の人々を支配していたように思う。

 それが今や、見渡す限りの人々が手話でコミュニケーションを取っている。

 人口1万人のこの街で、たかだか1週間程度で私の手話講座が行きわたるはずもない。

 つまり、私から手話を学んだ人が周りの人に伝え、伝えられた人々がさらに周囲に伝え……という好循環が回り始めているわけだ。


『こんにちは、若奥様』

『ライト先生、収穫したばかりの果物です。ぜひご賞味ください』

『先生がご考案くださった手話は本当に素晴らしい! 商売が驚くほどスムーズになりました』


 街を歩くと、老若男女が手話で話しかけてくれる。

 みんな笑顔だ。

 私は温かい気持ちと誇らしい気持ちでいっぱいになる。





   ◇   ◆   ◇   ◆





『総員、傾注けいちゅう!』


 さらに、1週間後の夕方。

 魔の森手前の城壁建設現場で、兵士たちが整列している。

 数百名もの兵が見つめる先に立っているのが、サイレンだ。

 彼はひな壇の上で手話を繰る。


『臆することはない! 我らには勝利の女神が付いている。手話を考案した、賢く、そして美しい女神・ライトだ!』


 サイレンの隣に立っている私は、顔が熱い。

 恥ずか死寸前だ。

 私は別に賢くも美しくもないし、そもそも手話は前世の丸パクリだ。

 だが、兵士たちの私を見つめる目は輝いている。

 むずがゆいなぁ……。


『今回が、手話を使った初戦闘である。本日の戦闘が、今後のサイラス領における戦い方のひな型となる。だが、心配は無用だ。諸君らはこの1週間、手話を使った戦闘訓練によく付いてきてくれた。大丈夫だ、諸君らなら戦える。諸君らなら魔物に打ち勝てる。今日こそ勝利するぞ、諸君。今日、この時が、反転攻勢の始まりなのだ! 勝ち鬨を上げよ!』


 一斉に剣を振り上げ、咆哮する兵士たち。

 音は聴こえずとも、腹に響くような衝撃を感じる。


 ……あれ?

 兵士たちが蜃気楼のようなものをまとっている。


『力が湧いてくる!』

『俺たちなら勝てるぞ!』


 興奮した様子で手話をする兵士たちの体が、薄っすらと光っている。

 これは……まさか、エクストラスキル【鼓舞】!?

 何てこと、手話でも鼓舞できるのか!


 サイレン自身にとっても意外なことだったのか、彼は驚いた顔で兵を見ている。

 その顔が、みるみるうちに自信を取り戻し始めた。


『何もかもライトのお陰だ!』


 手話でそう言って、私を抱き上げてクルクルと踊り始めるサイレン。

 ちょちょちょっ、衆目の前で恥ずかしいって!


 兵たちが笑っている。

 みな、表情が明るい。

 上手くかみ合わない戦闘に苦しめられてきた今までが、ウソのようだ。


「勝・つ・ぞ!」


 戦いが、始まる。

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