コーンウォール到着数時間前。
フルドラの運転する車は、人通りが少ない郊外の道路を走り続けていた。
サスペンションの性能が良いのか、助手席での乗り心地はとてもいい。
リアムは眠気に誘われ意識が遠のいていく。
意識が落ちる瞬間に運転席のフルドラの方を見た。
無表情といっていくらい真剣な顔で、まっすぐに前を向いてハンドルを握っている
妖精は安全運転らしい。
しかし綺麗だな
リアムはぼんやりと思った
そして、エマによく似ているとも思った。
特に色こそ違えど瞳がそっくりだ。
きっとエマもこんな美しい女性になっていただろう。
そうだ、きっと……
エマはリアムの姉だ。
正確には姉だった。
優しい人だった。
たまにリアムが寝過ごした時には、優しい笑顔で言葉をかけてくれた。
「まだ寝てれば?」
リアムの髪を撫でる感触は今でも忘れていない。
けれど、彼女は、もうこの世にはいない。
三つ歳上のエマは弟のリアムの面倒をよく見てくれた
食事が与えられないときも、具合が悪い時も、父親に殴られ続けた時も……
そして、あの日もそうだ。
エマは、いつものようにリアムをかばってくれた
だが、その日はそれをしてはいけなかったのだ。
父親はいつにも増して機嫌が悪かった。
その怒りは邪悪といってもいい。
あの時、父親は、リアムを庇うエマがどう見えたていたのか?
生意気なガキ
虫けら
それとも価値のない何か……
その後の記憶は曖昧だが、アパートの前には、警察の車がサイレン灯を回して停まっていた。それと救急車が一台だ。
大柄な警官がリアムを抱えてアパートから連れ出してくれた。
離れた場所に停車していたパトカーに父親が押し込まれているのが見えた。
その表情はリアムが初めて目にするものだった
恐怖に怯え、後悔と怒りが入り混じっているのが小さなリアムにも何故か、わかった。いつも見ていた父親とは違う姿だった。
救急車の方を見ると担架が運ばれている。
担架に乗せられているのは黒いビニールの袋だった。
誰にも説明されなかったが、なんとなくそれがエマだとわかった。
何かが飛び出たのか、急ブレーキで身体が大きく振られ、リアムは、目が覚ました。
寝ぼけ眼で運転席のフルドラの方を見た。
「もう、着いたの?」
「もうすぐよ」
フルドラは、抑揚のない声でそう言った。
「まだ寝てれば」
懐かしい言葉だった。