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第9話 車の中での夢

 コーンウォール到着数時間前。


 フルドラの運転する車は、人通りが少ない郊外の道路を走り続けていた。

 サスペンションの性能が良いのか、助手席での乗り心地はとてもいい。

 リアムは眠気に誘われ意識が遠のいていく。

 意識が落ちる瞬間に運転席のフルドラの方を見た。

 無表情といっていくらい真剣な顔で、まっすぐに前を向いてハンドルを握っている

 妖精は安全運転らしい。


 しかし綺麗だな

 リアムはぼんやりと思った

 そして、エマによく似ているとも思った。

 特に色こそ違えど瞳がそっくりだ。

 きっとエマもこんな美しい女性になっていただろう。

 そうだ、きっと……


 エマはリアムの姉だ。

 正確には姉だった。

 優しい人だった。

 たまにリアムが寝過ごした時には、優しい笑顔で言葉をかけてくれた。

「まだ寝てれば?」

 リアムの髪を撫でる感触は今でも忘れていない。


 けれど、彼女は、もうこの世にはいない。

 三つ歳上のエマは弟のリアムの面倒をよく見てくれた

 食事が与えられないときも、具合が悪い時も、父親に殴られ続けた時も……


 そして、あの日もそうだ。

 エマは、いつものようにリアムをかばってくれた

 だが、その日はそれをしてはいけなかったのだ。

 父親はいつにも増して機嫌が悪かった。

 その怒りは邪悪といってもいい。

 あの時、父親は、リアムを庇うエマがどう見えたていたのか?

 生意気なガキ

 虫けら

 それとも価値のない何か……


 その後の記憶は曖昧だが、アパートの前には、警察の車がサイレン灯を回して停まっていた。それと救急車が一台だ。

 大柄な警官がリアムを抱えてアパートから連れ出してくれた。

 離れた場所に停車していたパトカーに父親が押し込まれているのが見えた。

 その表情はリアムが初めて目にするものだった

 恐怖に怯え、後悔と怒りが入り混じっているのが小さなリアムにも何故か、わかった。いつも見ていた父親とは違う姿だった。


 救急車の方を見ると担架が運ばれている。

 担架に乗せられているのは黒いビニールの袋だった。

 誰にも説明されなかったが、なんとなくそれがエマだとわかった。


 何かが飛び出たのか、急ブレーキで身体が大きく振られ、リアムは、目が覚ました。

 寝ぼけ眼で運転席のフルドラの方を見た。

「もう、着いたの?」

「もうすぐよ」

 フルドラは、抑揚のない声でそう言った。

「まだ寝てれば」


 懐かしい言葉だった。


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