目を覚ますと車は田園の中を走っていた。
「もう着いた?」
リアムが運転をするフルドラに訊いた。
「もうすぐよ。まだ寝てれば」
「寝るのも飽きてね」
リアムは背伸びをすると途中で買い込んだガイドブックを開いた。
「以前、コーンウォールのティンタジェル城の遺跡で「アーサーの石」なるものが発見され話題になったよな。結局、眉唾ものだったらしいが」
「目的の場所はそこじゃないわ」
車はティンタジェル城よりさらに北西の森の向かった。
木々がなくなり、草木のない平地が見えてきた。近づくと放置された重機が何台か見える。
フルドラは車が入り込める場所まで走らせると停めた。
そして車から降りて周囲を見渡す。
リアムも追いかけるように車から降りて辺りを見渡した。
地肌がむき出しになった寂しい場所だった。
「ここに剣があったの」
フルドラはつぶやくようにそう言った。
リアムは荒れ地に打ち付けられている大きな看板を見た。どうやら宅地にするつもりだったらしいが、看板は汚れ、落書きがされている
開発はどうやら中止になって放置されてるようだった。
「さてどうすればいい?」
「それはあなたが考えて」
「はあ?」
リアムは思わず聞き返した。
「そのためにあなたを雇ったのよ」
フルドラは簡単に言う。
「おいおい、ここから何を探せっていうんだ?」
「エクスカリバーはここにあった。それを何も知らない人間たちが掘り起こした。そして知ってる人間が持ち去った」
「つまり、これをヒントに手がかりをつかめって?」
彼女は、そういうことだと言わんばかりに肩をすくめた。
「まったく、妖精ってやつは……」
「なにか言った?」
「別に」
リアムは進入禁止用のテープをくぐると掘り起こされたエリアに入った。
いったい、ここでどうやって手がかりを見つけろってんだ……
重機が掘り起こした場所をの覗き込む。
大きなすり鉢状に掘られたそれは住宅地の開発にしては、少し妙だった。
しばらく周囲を歩いていると天候が怪しくなっていた
深い灰色の雲から雷鳴が聞こえる。
その時、雷鳴と一緒に誰かの叫び声が聞こえた。
最初きのせいかと覆ったが、叫び声がもう一度聞こえた時に気の所為ではないことに気がついた。
「助けてくれ!」
見ると眼鏡をかけた若い男がカメラを片手にこちらに逃げてくる。
後ろから何か黒い大きな影が男を追いかけていた。気がつくと何かに取り囲まれていた
「ヘルハウンド」
いつの間にか隣にいたフルドラが言った
「ヘル……なに?」
「女神ヘカテーの猟犬、ブラックドッグ、またはモーザ・ドゥーグとも呼ばれている墓地を守る妖精」
眼鏡の男は、リアムたちに気づくと逃げる方向を変え、まっすぐ向かってきた。
「おいおい、こっちに来るなって」
リアムはFNブローニングを取り出すと安全装置を外し構えた。
だが果たして9ミリの弾丸があの黒い怪物に通用するのかは不安だ。
その時、フルドラが左手でリアムを制した
リアムがフルドラを見ると彼女は聞いたこともない言語で何かをつぶやいていた
すると、目の前の地面に光る白いラインが現れた。
逃げて来た男は、ラインの中に滑る込む。
追ってきたラインの前で見えない壁があるが如く、立ち止まった。
しばらく周囲をうろつき回る
なんとかラインの中に入れないかと思案しているかのようだった。
リアムはその間、ブローニングの銃口をヘルハウンドに向け続けた。
その足元で眼鏡をかけた男はへたり込んでいる。
やがてヘルハウンドは突破を諦めるとどこかへ走り去っていった。
「もう大丈夫よ」
フルドラはそう言った。
白い光のラインはいつの間にか消えていた。
「助かった……」
眼鏡の男は疲れ切った声でそう言った。
「お前、誰だ?」
リアムは足元でへたり込む男に言った
「ああ、どうも。僕はロジャー。YouTubeにアップする動画を撮ろうと思ったら、あれに出くわしたんだ。君たちのお陰で助かった。ところで、君たちは誰?」
ロジャーはずれた眼鏡を直しながら言った。
リアムとフルドラは顔を見合わせた。
「お、俺たちも……YouTubeにアップしようと思ってロンドンからやってきたんだ」
フルドラが眉をしかめる
「じゃあ、君たちもあの噂を確かめようとして?」
「噂……? ああ、そうさ。ところで俺たちの聞いてる噂と同じなのかな? お前はどんな噂を聞いてここに来たんだ?」
「僕は、オカルト専門のユーチューバーなんだけど、ここの土地開発中に妙な物を掘り起こしてから、おかしな事が起きるようになったって聞いたんだ。だれもいない場所に人影とか……怪物を見た、とかね。君らもそんな感じ?」
「ああ、だいたいそんな感じさ」
リアムは、適当に話を合わせた。
「でも、まさかあんなものが現れるなんて……まったく、信じられないよ」
ロジャーは、疲れ果てた声で言う。
「なあ、ロジャー・ラビット。お前、ここで何が掘り起こされたか知ってるか?」
「噂では古代の遺物だった。五千年くらい前の……もしかしたら聖剣じゃないかと思ってる。聖剣エクスカリバー!」
ロジャーの目が輝く。
「ほら、ここってティンタジェル城も近いしね」
リアムはしゃがんでロジャーの見る。
「なあ、ロジャー・ラビット。ここで掘り起こされた物がどこにあるか知ってるか?」
ロジャーは、きょとんとする。
「俺らはどちらかというと、そっちの方を取材したいんだよ」
ロジャーは、しばらく考えた後、立ち上がった。
「聖剣の方かい? ああ、いいかもね。アーサー王伝説は人気があるし、再生回数増えるかも。でも、幽霊とか未確認生物に興味のある視聴者の方が多いと思うよ」
フルドラはロジャーに顔を近づけた
「聖剣は、わたしたちにとってとても大事な物。どうか、協力をして欲しい」
真剣に見つめるフルドラにロジャーは顔を赤らめて目を逸らす。
「ま、それも面白そうだな。どう? この件、僕と一緒にやらない? コラボってやつだ」
「コラボ?」
フルドラは小首を傾げた。
「ああ、いいね。コラボしようぜ。それで聖剣が見つかるなら、こちらは大歓迎だ」
「決まりだ」
「で、何から調べる? 俺たちはここで既に手詰まりなんだ」
「そうだなぁ……」
ロジャーは周囲を見渡して考えた。
「まずはあの看板からいってみようか」
ロジャーは、スマホを取り出すと、土地開発会社の看板に記された電話番号にかけた