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第4話 多発する事件

 ロンドン警視庁のパーシー・シトリー警部は、困惑していた。

 コーヒーカップを置くともう一度マウスをクリックし、映像を再生した。


 パソコンの画面に監視カメラの映像が流れ始める。

 時間を示すカウントが進み、肝心のシーンになった。

 被害者が自宅へ入ろうとした時、何かに気づき、横を向いた瞬間、突然物陰から黒い影が広がり、被害者を覆った。

 そして約三秒後に黒い影は消え去り、そこに被害者が倒れていた。

 被害者の名は、トニー・ムーア

 イギリス保守派の議員だ。特にスキャンダルも起こさずキャリアを積んできている。死因は心臓麻痺。マスコミにもそう公表されていた。

 しかし、この映像の公開はされていない。

 心臓麻痺は事実であるが、問題は影に覆われた後に発作を起こしているという点だ。

 もし、この現象が関連するならば、事故あるいは、原因は黒い影である。

 それは殺人事件の可能性があることなのだ。

 方法は不明ではあるが、そう考えに足るべき証拠が、こうして映像に残っているのだ。

 映像の存在には箝口令が敷かれ、ロンドン警視庁には沈黙を守らせている。

 それは、イギリス保安局・MI5からの要請であった。


 ムーアが、議員であること。他殺の可能性があり、これがテロの可能性につながったからだ。


 コーヒーを飲みながらシトリーは静かに考えていた。


「連中も黒い影のことを疑っているのだろうか……?」


 シトリーは、何か見逃していないかと映像を注意深く見続けた。

 まず、映像でのムーア議員は、何かに気づき、その方向に顔を向けている。

 そして、それを合図にするかの様に、影が議員を覆い、死に至らしめた。

 カメラのレンズはムーア議員が立つ位置にピントを合わせているが、同じ位置に存在してたであろう影には焦点があっていない。


 真っ先に思いついたのは、監視カメラの映像から被写体を映り込ませない特殊な薬剤の使用だ。理屈は簡単で、薬剤の特殊な成分が光の反射を極度に上げて、被写体をピンボケ状態にさせるのだ。


 近年、ATM強盗や、貴金属店強盗を目的にする犯罪者たちが、監視カメラ避けに悪用する厄介なアイテムだ。

 だがそれを使った場合、薬剤が散布された部分だけが白くぼやけて映り込み、黒くはならないはずだ。


 だが黒い影は大きく、微妙に動いていた。つまり自動車や段ボール箱のような大きめの無機物の物体でもない。

その様子は息づいているようで、まるで何かの群れが集団で遅いかかったかの様にも見える。


 それともうひとつ、シトリーが気になっている事ががあった。

 実は、同じような事がロンドン市内で発生し、設置されていた、幾つかの監視カメラに同じ現象が映り込んでいたのだ。

 死因はいずれも心臓麻痺。

「一体、影の正体は何なのか?」

 もしかしたらこれは連続殺人、いや、連続テロかもしれない。

 パーシー・シトリー警部は、事件の特異性に胸騒ぎがするのだった。


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