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第2話 見知らぬパブにて

 その日も、リアム・ディアスは行きつけのパブに立ち寄ろうとしていた。

 酒を呑むには時間が早いが関係ない。

 呑みたいから飲むのだ。

 幸いイギリスのパブは昼間から開いていて酒を飲むには事欠かない。

 歩き慣れたいつもの道のはずだったが今日はいつもと違った


 ふと通り沿いの店に目が行った

 こんな場所にパブがあったか?

 とリアムは疑問を感じたが、すぐに自分の気が付かなかっただけなのだろうと思い直した。

 何しろこの数ヶ月、毎日のように酒浸りで記憶も曖昧。

 アル中一歩手前ではないかという生活を続けていたからだ。


 理由はあるのだ。

 それは、時々目にする奇妙な生き物たちのせいだ。

 そいつらは拳ほどの大きさの小さな老人である時もあるし、異様に耳と鼻の大きい小人の時もある。

 最悪だったのは信号待ちをしていた時、隣にいた男の顔がトカゲと狼をミックスしたような顔をした時だった。

 男は、リアムの方を見るとニタリと笑った。


 そういった事が続くと流石に自分が正常ではなくなったかと思うようになってくる。

 それが酒の量が増えた理由だ。

 思い当たることはあった。


 彼が空挺部隊に所属していた時、NATO軍としてアフガニスタン紛争に参加した。そこで負った頭部の負傷だ。

 迫撃砲かRPGかの攻撃を受けて吹き飛ばされたのだ。

 気がついたときは本国の病院のベッド上だった。

 考えたくもないが頭部に刺さった破片の除去に何時間にも及ぶ手術だったらしい。


 長いリハビリを経て除隊。

 そのあたりからおかしなものを目にするようになっていた。

 最初は見間違いだと思っていた。

 ネズミか大きめの虫か何かだと。

 けれどそれこそが勘違いだった。

 連中は確実にそこにいた。

 幸いにリアムが見ている事に気づくと、どこかに逃げ去るのだが、中にはちょっかいを出してくる奴もいる。

 訳の分からない言葉で早口で語りかけたり、何かを投げつけてくる奴らだ。

 そいつらもそれ以上何もしてこないで、他の連中と同じようどこかに逃げていく。

 真っ先に思い出したのは『ビューティフルマインド』という映画だった。


 病院で再検査をしてみたが、脳には異常がなく、結局、医者には戦場での経験が原因のPTSDと診断された。


 それからは薬を常用。

 成分は詳しくないが、きっと長期に飲むと体に良くないものだろう。

 薬の服用で、しばらくは連中を見なくなったが、ここ数ヶ月は違う。

 前よりも頻繁に連中を目にするようになっていた。

 空挺部隊でのキャリアを活かしたPMC(民間軍事会社)での要人警護の仕事にも支障をきたすようになり、今は休職中。

 こうして毎日飲み歩いている始末だ。


 その日は、この見慣れない店で呑む事にした。

 店に入るとしばらく店内を見渡す。

 サッカー中継をするテレビも置いていなく、BGMも流れていない。

 ただ客は多く、大部分の席が埋まっていた。

 カウンターに向かうとラガーを1パイント注文すると店内を見渡す

 古いが感じの良い店内だった。

 妙に落ち着く。


 なぜこんな賑わう店を今まで気が付かなかったのだろうと疑問に思うが、ラガービールを一口飲むとそれも気にならなくなっていた。


 ポケットから薬のプラスチック容器を取り出すと錠剤を、適当に何錠か口にした。そして一気にラガーで流し込む。

 もう規定量も覚えていない。

 おかしなものを見ない量がリアムの規定量だ。


 ラガービールの二杯目を飲もうとした時、いつの間にか誰かが隣に立っていた。

 リアムが振り向くとそこにいたのは女だった。

 相手はリアムの方を見て笑いかける。


「あなたにぴったりの仕事があるのだけど、興味ある?」


 女は唐突にそう言った。


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