その城は、ドーバー海峡を見下ろす丘にあった。
かつては城塞として、海峡を渡り来る敵を遮り、第二次世界大戦中には地下トンネルや貯蔵庫も増築される。
現在では所有者であった貴族も没落。
補修費や税金を支払いきれず、城も周囲の土地も手放され、今では所有者もはっきりしない。
だが、この夜は違った。
城には電気がひかれ、艶やかな照明が照らされている。
荒れ果てていた周囲も草が刈られ、駐車場として見栄えの良いものになっていた。
普段は、人の姿はなく、近隣の住人も近寄ることはなかったが、この夜だけは多くの高級車が敷地に停められていた。一部の敷地にはヘリコプターも着陸していた。
多くの人間が様々な場所から集まったのである。
門は開かれ、黒いタキシードを着た警備員たちが来場客を出迎えていた。
なぜなら今日だけは特別な競売が開催される夜なのだ。
これは公にはされていない競売だ。
招待されているのは、限られた金持ちのみ。
イギリスにアメリカにロシア、中東、中国、果ては日本からも富豪たちが参加している。
競売会場では本日のメインの品が出品されてボルテージが上がっていた。
10万ポンドから始まった競りは、すぐに100万ポンドに跳ね上がり、その後も150万、200万と競り上がっていった。
300万ポンドを超えたあたりで競りは膠着状態になる。金額も350万ポンドの提示で動きが止まった。
石油関連で財を成したロシアの富豪に落札が決まるかと思われたその瞬間、今まで競りの様子を伺っていた人物が手を上げた。
「600万ポンドがでました」
競売人の言葉に会場がざわめいた。
一気に二倍近くの提示額である。
ロシア人もその後600万ポンド以上を提示できずに引き下がってしまう。
その後もこの金額に追随する者もなく競売人がハンマーを振り下ろし、甲高い音が会場に鳴り響いた。
落札されたのは伝説の遺物カレトヴルッフ
別名エクスカリバーである。