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第7話 唯一の味方は猫神様?

「ん、保? お前はもっと驚かんのか? ワシが150年前話しかけた時の男は驚いて腰を抜かしおったぞ?」


黒猫が再びニヤリと笑う。

たしかに不思議なくらい俺は落ち着いていた。助けた猫が話しかけてくる、それも自分はこの神社の氏神だと名乗る、俺の心の中までも見通す……そんな荒唐無稽なことをソイツ、黒猫の『やまと』は言ってきた。それに対して俺はさして違和感も抱かなかったのである。


「驚いてるよ、そりゃあ……。でも確かに科学ではまだ解明できていないことも世の中には沢山あるだろうからね……それよりキミはいつからボクのことを見てたの?」


「ん? お前が最初にあの悪童たちに連れられてきた時から見ておったぞ。まったく、由緒正しき我が花田神社で騒々しいヤツらだ」


カカカ、と笑ったやまとは口とは裏腹にさして腹立たしくも思っていなさそうだった。


「ねえ、じゃあさ……ボクがアイツに、吉田に勝つにはどうしたら良いかな?」


溺れる者は藁をもつかむとは言うが、切羽詰まったイジメられっ子が猫にも頼る、とまでは諺を考えた昔の人も想定していなかっただろう。だがそんなことはどうでも良い。こっちはどうやってでも吉田とのタイマンに勝たなきゃいけなかった。

やまとが一部始終を見ていたというのなら何かヒントが得られるかもしれない。こっちはとにかく猫の手も借りたい状況だったのだ。


「は……知らんわ、そんなもの! 氏神ともあろう存在が、人間のわらべ同士のケンカなぞに首を突っ込むわけがなかろうが! ……と、尋常なら言うところだがな」


やまとは俺の目を正面から見つめた。金色の瞳に俺が吸い込まれそうな気がした。


「ふん。お前のことが気に入ったぞ、小僧! まあ協力してやってもよい。……ワシは元々義賊じゃったのだ。義賊の氏神というわけじゃ」


「……義賊?」


「ああ……もうそんな言葉は使わぬか。義賊というのはな、悪どい商売をしている豪商だとか、悪代官の屋敷に忍び込んでは金目のものをごっそり頂戴して、それを貧乏な庶民にばら撒くというやつじゃ。いわば良い泥棒だ。ワシも江戸の頃は結構有名だったのだぞ? 庶民の人望があったゆえに、今もこうして氏神として祀られているというわけじゃよ!」


やまとがグフフ、とドヤ顔を見せる。


「ふ~ん。え、でも、協力するって言っても何をしてくれるの?」


別に吉田の家に忍び込んで何かを盗んでも、俺とのタイマンに影響はないだろう。っていうか、こんな小さな猫が何か出来るのだろうか? 可愛さで注意を逸らすとでも言うのか?


「かぁ! もっと嬉しそうにせんか、小僧! このワシが誰か特定の人間に肩入れするなんぞ200年ぶりのことぞ? 最近はずいぶん平和……まあ人間のことはよくわからぬが、平和な世の中になってしまった様子ゆえな。……良いか? 心して聴け! ワシが保に、相手の能力を盗む能力を授けてやる!」


「……? 相手の能力を盗む? 例えば吉田のあの腕力を盗んだりできるってこと?」


やまとの話はいまいちピンと来なかったが、吉田のパワーを封じることが出来るのだとしたら俺の勝機はかなり増えるかもしれない。何といっても吉田は巨漢だ。身長は175センチと俺より少し小さいくらいだが、体重100キロはあるだろう。

本気の吉田がどの程度の暴力を秘めているのかは対峙してみないとわからないが、ともかくあのパワーは半端ない。投げられた時の衝撃は今も身体が覚えている。それが吉田の強さの源であることは間違いないだろう。


「馬鹿者、ワシは義賊の氏神じゃぞ? 相手の能力を盗むと言うても完全に奪ってしまってはソイツは再起不能になってしまうではないか? あくまで模倣した能力が自分にも得られるというだけだわい」


「え、なんだ、コピーするってことかぁ……」


仮に吉田と同等のパワーを俺が得られたとしても、互角でしかないということになる。


「それと当然じゃがな、その能力もワシが認めた相手のみ。その相手に勝った場合のみ得られるのだからな、勘違いするするでないぞ?」


「……え、勝った場合って言った? 吉田に勝たないと吉田の能力のコピーすらも出来ないってこと? あの、それじゃ何の意味もないんだけど!」


氏神だ、能力を盗むだ、って猫のくせに言うから少しだけ期待してしまっていたけど、それじゃあ何の意味もないじゃないか! 俺にとっては吉田をタイマンで倒すことが最重要にして唯一の問題なのだ! その後のことなどどうでも良い!


「甘ったれるな、小僧! このワシがお前のことを認めたんじゃぞ? しゃっきりして見せぬか! ……ワシが小僧を認め能力を授けるのはな、お主が弱者でありながら立ち向かう勇気に感動したからじゃ! ……それとワシを撫でる力加減も絶妙だったゆえな、お主のこと今はまだ詳しくは知らんが、まあ信頼に足る小僧であろうと認めてやったのじゃぞ?」


「……え、撫でるのが上手かったから? そんな理由で? ずいぶん氏神様も自分勝手な気がするんだけど……」

「うるさい、黙れ! ワシは猫なんだから気まぐれに決まっておるじゃろうが! 黙って『ありがとうございます! やまと様にお仕え出来て幸せです!』とでも言っておけば良いのじゃ、小僧!」


「ええ……」


ずいぶんと気まぐれで自分勝手な氏神様もいたものだ。しかも俺にとってプラスになるかよくわからない存在だ。ずいぶんと奇妙な存在に俺も好かれてしまったものだ……。


「小僧……お前があの太った悪童とのケンカに勝とうが負けようが、そんなことはワシのあずかり知らぬことじゃ。世の中から見ればそんなことは些事さじに過ぎぬ。本来小僧のケンカなぞに首を突っ込むなどというのは、ワシの氏神としての格が下がる行為じゃ。……だが、ワシはお前が気に入った。やると決めたんなら絶対に成功させるという覚悟を決めろ! ワシとて最初の頃は盗みに入る前はおののいて足がすくんだものじゃ。じゃがな、自分の覚悟次第でそんなものもすぐに御することができるようになる!」


「う~ん…………」


やまとの言っていることは、わかるようなわからないような感覚だったし、そもそもなんで猫に人間の心理的アドバイスまでされなきゃならんのだ? という気はした。

でもともかく自分を応援してくれる存在が1人でも……いや1匹でもいるというのはだいぶ違うものだ。

俺は少しだけ気が楽になった……ような気がした。




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