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二節 「孤独な人と向き合う理由」

 涼華の死があった次の日から、僕は人がいつ亡くなるのかわかるようになった。

 正直その時はタイミングが悪いと思った。

 あと数日早くこの能力が宿っていたら、彼女が亡くなる前に駆けつけることができたから。

 でも、一方でこれは自分の今までの行いによるものだとも思った。

 本当に大切な人が孤独に感じているのを僕は何も感じとることができなかった。病気だと知っていたのに、涼華との時間を僕はちゃんと大事にできていなかった。いや、僕自身はしているつもりだったけど、ただの自己満だった。

 僕は完全に間違っていた。

 信頼されている恋人の僕だからできることってきっとたくさんあったのに、僕は本当に何をしていたのだろう。

 あの日から僕はずっと後悔をしている。自分のこともたくさん責めた。でもその苦しみは、僕が一生背負い続けけなければいけないとも思っている。

 だから、こんな能力が宿ったのだと思っているのだ。たくさんの人の最期の瞬間に立ち会い、自分が彼女にしたこと、孤独な人の気持ちを知り寄り添うことの大切さを誰かがわからせようとしているのかもしれない。

 あの時の僕は、ひたすらに向き合うこともせず、逃げ出して、あまりにも中途半端だった。

 そんな覚悟で誰かを元気づけることなんてできるはずがない。

 孤独の中にいる人の手をとり、生きた意味や納得のいく最期の形を一緒に見つけるためには、その人の抱えている辛さ全部に寄り添わなければいけない。

 寄り添わなければ、相手をわかろうとしなければ、相手に信頼されることはない。

 信頼されなければ、きっと心のうちの悩みを話そうとは思わないから。

 中途半端な言葉は、相手の元に届く前に暗闇に飲み込まれてしまう。だから、相手の心に響くことは決してない。

 でも、この能力を正しく使えば、ある人が亡くなる前にその人に寄り添い、最期を僕が看取ることができる。苦しみではなく、少しでも幸せを握りしめて、この世から旅立つことができると僕は信じている。また、前回会った川嶋美優さんのように本来は亡くなる予定だった人に希望を与え、運命を変えることもできる可能性もある。

 初めは、なかなかうまくいかなかった。

 人がいつ亡くなるかはわかったけど、その人に対して僕が何をすればいいかまではわからないから。

 本当にある人の死がわかるだけの能力で、それ以上のことは何もなかった。

 それに、悲しいことに毎日亡くなる人はたくさんいるわけで、そのすべての人の元に僕が行くことはどう考えても現実的じゃない。そして、そんなことをしていたらきっと僕は壊れてしまう。

 彼女が今の僕のしていることをどう思っているか知る術はない。

 彼女のことをもちろん忘れたことは一度もない。

 彼女が優しいこともよくわかっている。でもそんなことをするより、私に何かをしてと思っているかもしれない。

 僕はただ、彼女の気持ちに触れたかった。

 悩みや考え方は人それぞれだけど、孤独の中にいる人と向き合うことで、その人たちの孤独に触れられている実感はあった。

 たくさんの人の孤独を知ることで、遠回りかもしれないけど当時の彼女の気持ちも少しはわかるかなと僕は考えた。

 孤独な人たちを暗闇から救い出したい気持ちに嘘偽りはない。彼女のためにでも、自分のためでもなく、一緒にいるときはその人たちのことだけを考えて僕は行動している。 

 そこに私情を入れることは、相手に失礼なことだから。

 だから、僕は今も孤独な人と向き合っている。










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