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第29話 3人の道のり

昼下がりの穏やかな時間、3人は草原に腰を下ろし、少し早めの休憩を取っていた。背負っていた荷を地面に置くと、それぞれが次の目的地である「アルメア」についての情報を掲示板で集めた内容を確認し始めた。


「アルメアには『アークウィング』っていう冒険者ギルドが拠点を構えてるらしいな。掲示板にはその名前が目立ってた」とレイが手持ちの紙に目を落としながら言う。


「アークウィングね…彼らは単なる冒険者の集団ってわけじゃなく、少数精鋭で秘境探索や魔物討伐の実績を持つ、特別な部隊のような存在らしいわ」とルナが続ける。「未知の領域を探求することに情熱を燃やしてるって聞いたわ」


メフィストも頷きながら、紙に書かれた情報を読み上げる。「ここには『全てを探求し尽くし、この世界の真実を暴く』ことがアークウィングの理念だとあるな。彼らにとって、未知の世界は恐怖じゃなくて挑戦の場らしい」


ヴェシリアルがふと口を挟む。「ま、いいんじゃない?目の前の強敵だけに夢中で、案外うちらのことに気を回す余裕がないかもよ?そういう冒険者たちって、時々抜けてるんだから」


レイが肩をすくめながら答える。「確かに、同じ冒険者として共通の目標があれば話し合えるかもしれないな。ただ、探求心が強すぎると逆に俺たちを信用してくれるかどうかは微妙だけどな」


ルナが少し考え込みながら呟く。「でも、アークウィングがアルメアの情報源として機能してるなら、うまく仲良くなれれば助かるかもね」


3人はそれぞれ、アルメアとアークウィングについての情報を頭に入れながら、草原を抜けて街へと向かう準備を整えた。


しばらく進み崖道に差し掛かる、レイたちの視界の先に、盗賊に囲まれた馬車が止まっているのが見えた。馬車には立派な装飾が施されており、その中で震えているのは初老の行商人だった。周囲を見渡すと、確かに高価な品々が積み込まれているようで、それが盗賊たちの標的となっているのは明らかだった。


レイはちらりと二人を見て、「緊急クエストみたいだけど、やってみるか?」と声をかけた。クエストの内容としては、盗賊たちを排除し、行商人を守るのが目的だろう。


メフィストは軽く肩をほぐしながら、「丁度いい。退屈だったからな」と答え、ヴェシリアルの柄を握りしめた。剣が鞘から抜かれると、ヴェシリアルが低い笑い声を響かせ、戦いの興奮に応えるかのようにかすかに輝いた。


ルナも冷静な表情で準備を整え、「緊急クエストもたまには面白そうね」と呟くと、両手に青い魔力を溜め始めた。指先に集まった冷気が、周囲の空気をピリリと冷たく変えた。


「行くわよ」とルナが小さく合図を出すと、彼女は素早く魔法を放った。「フロスト!」冷気が前方に向かって吹き付けられ、盗賊たちの足元が瞬く間に凍りついた。凍結に驚いた盗賊たちは足を取られ、身動きが取れなくなっている。


その瞬間を逃さず、メフィストが一気に飛び込み、ヴェシリアルで斬撃を放つ。鋭い一撃が盗賊たち3人を切り裂き、その場に倒れ込ませると、彼らの体から赤い魔力のような光が漂い始め、ヴェシリアルに吸い込まれていった。ヴェシリアルが満足げに輝きを増していく様子に、レイとルナも一瞬息を呑む。


「さすがに、見事な剣技ね」とルナが呟くと、レイも軽く笑みを浮かべて頷いた。「だが、まだ残りがいる」


最後の2人は、仲間が瞬く間に倒されるのを目の当たりにして、動揺しつつも剣を構え、逃げようともせず立ち向かおうとする。だが、その背後にすでにレイが瞬間移動で忍び寄っていた。


レイは静かにヴォイドウィーヴを発動し、短剣に黒い粒子を纏わせると、短剣が漆黒の刃へと変化した。その刃を軽く振るうと、わずか一撃で盗賊たちの首が飛び、呆気なくその場に倒れ込んだ。


一瞬にして盗賊たちが全滅すると、行商人は驚きの表情で立ち上がり、礼を述べようとしたが、緊張からかうまく声が出ないようだった。ただ、深々と頭を下げ、感謝の意を示している。


「これで大丈夫ですか?」とレイが優しく声をかけると、行商人はようやく顔を上げ、うなずきながら答えた。「本当に…本当にありがとうございます!まさかこんな形で助けられるとは…」


レイがにっこりと笑い返すと、ルナが軽く肩を叩き、「さて、私たちも行きましょう」と言って歩き出した。メフィストもヴェシリアルを軽く見下ろし、呆れたように言った。「少しは満足したか?」


ヴェシリアルはふふんと鼻を鳴らし、「まぁ、少しは退屈しのぎになったわね」と答えた。その言葉にメフィストは苦笑し、軽く剣を鞘に戻した。


行商人にもう一度軽く礼をされ、3人は再び旅路へと戻った。


道中、3人はそれぞれの成長を実感しながら、自分たちがどれだけ強くなってきたかを噛みしめていた。


「レイ、25レベルになったから、ヴォイドウィーヴもそろそろ次の段階に進めそうね」とルナが嬉しそうに言います。レイは微笑んで頷き、「そうだな。粒子の制御が前よりも効きやすくなってるのが分かるよ。敵の急所を突く精度がさらに上がって、今後はより戦略的に戦えそうだ」と期待を込めて語る。


「私も16レベルに上がったし、そろそろ次の魔法に挑戦してみたいわ。街に着いたら、魔法に関する情報も集めてみようと思うの」とルナが意気込むと、メフィストが優しく「そうだな。アルメアは魔法の研究者が集まる場所でもあるから、君の成長にきっと役立つ情報が見つかるさ」と言って背中を押す。


「それにしてもメフィスト、もう29レベルか。確かに、強いと思ったよ」とレイが感心したように言うと、メフィストは少し照れくさそうに、「俺もヴェシリアルに力を引き出してもらっているおかげかもしれないが、皮肉にも経験値稼ぎになったのも事実だ」と言う。


道を歩きながら、3人は次に覚えるスキルや欲しい装備について語り合い、さらに期待が膨らんでいく。特にレイは、25レベルを迎えたことで、ヴォイドウィーヴに新たな技術が使えそうだと興奮を抑えられずにいた。

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