レイは体に力が入らず、倒れ込む自分の体に、あのイーストウィンド平原でPKされた時の感覚が蘇った。絶望が全身を覆い、メフィストの冷たい殺意だけがひしひしと伝わってくる。意識が遠のきかける中、レイは静かに心の中で叫んだ。
「ルナ…本当にごめん…俺の判断のせいで…巻き込んで…」
その瞬間、レイの手にわずかに力が戻った。目の前のメフィストにしがみつき、必死の思いで叫ぶ。
「ルナ…逃げろ…!」
だがメフィストは、あきれたようにため息を吐き、何も言わずに剣を構えて振り下ろそうとした。覚悟を決めた瞬間、凍てつく冷気がメフィストの腕を包み込み、剣ごと凍らせた。
「フロスト!」ルナの声が響き、氷がメフィストの動きを束縛する。その隙を突くように、巨大な火の球がメフィストの身体を覆った。
「フレイム!」轟音と共に炎が炸裂し、周囲に熱風が巻き起こる。レイは必死に身を庇いながらも、その火の中にメフィストが飲み込まれていくのを見た。
「やった…か…?」
だが、炎の中からメフィストの影が姿を現した。彼は無傷のまま冷笑を浮かべて、氷も火もものともせずに立ち上がった。
「そんな攻撃が…アタシに通用すると思ったの?」彼の冷たい瞳がルナを見据え、次の一撃に備えた。
それでもルナはひるまず、再びフロストを放ってメフィストを追い詰めた。メフィストは素早く氷の攻撃をかわし、再び距離を詰めてくる。
だが、その攻撃はおとりだった。ルナは一瞬で状況を読んで、フレイムを凍りついた床へと向けて放った。爆発的な熱で氷が蒸発し、広がる水蒸気が視界を覆い隠した。
メフィストは蒸気の中で苛立ったように言った。「生意気ね…どんなに足掻こうが、無駄だとなぜ気づかないの?」
その冷酷な声が蒸気の向こうから響く中、ルナはレイに寄り添い、そっと耳元で囁いた。
「少し…返してもらうわね」
ルナがそう言うと、赤黒い粒子がレイの体から吸い出され、彼女の体へと移り込んでいく。すると、蒸気を裂くようにしてメフィストの斬撃がルナに迫った。だが、ルナは冷静に腕を構えると、赤黒い粒子の壁が立ち上がり、その一撃を完全に防ぎきった。
「力の本当の使い方、見せてあげる。」
ルナの冷ややかな声が、メフィストにさえ寒気を覚えさせた。彼は焦りを隠せず、再び剣を構えて斬撃を繰り出すが、ルナはそれをあざ笑うかのように、冷静に次々と防いでいく。
その時、ルナの周囲に強烈な波動が発生し、残っていた水蒸気が一気に吹き飛ばされた。ルナはメフィストを冷たく見据えながら、一歩ずつゆっくりと前に進み、腕から巨大な黒い蛇のようなものを無数に生み出し、メフィストへと向けて放った。
「…!」メフィストは驚愕し、なんとか避けようとするが、蛇のような粒子がすぐさま彼を追い詰めていく。メフィストは必死に回避するも、圧倒的な速さと力を持つ粒子が彼の周囲を包囲し、ついに一撃が彼の腕に命中した。
「ぐっ…!」メフィストは苦しそうにうめき、反撃しようと振り返ったその瞬間、ルナがすでに彼の背後に現れ、爆発的な魔力を彼に放った。メフィストはその威力に押し流され、いくつもの柱を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
「くっ…こんなはずじゃ…!」
ルナが冷静な眼差しでメフィストを見据えた瞬間、周囲の空気が一気に張り詰めた。彼女の腕から再び黒い粒子が立ち上り、まるで生き物のように渦を巻いて踊り始める。その粒子はルナの指先から次第に広がり、刃を持った無数の影のように変化していった。鋭利な刃の粒子が宙に浮かび、メフィストを囲むように配置される。
メフィストはその異様な光景に目を見開き、冷たい汗が流れるのを感じた。
「そ、そんな力が…ただの魔法使いに…?」
ルナは無言のまま指先を軽く振ると、周囲に浮かんでいた黒い刃が一斉にメフィストに向かって襲いかかった。メフィストはその圧倒的な攻撃に焦りながらも、瞬時に身をひねって避けようとするが、刃の一部が彼の袖を切り裂き、腕に深い傷を負わせる。
「っ…!」メフィストは悔しげに呻きながらも、すぐに斬撃を放ち、黒い刃を払いのけた。しかし、ルナの粒子の刃はそれだけで終わらなかった。斬撃を受けて霧散したかと思えば、再び粒子として再結集し、形を変えて立ち上がる。
次の瞬間、ルナは粒子の一部を足元に集中させ、宙に浮き上がった。そのまま静かにメフィストの上空に舞い上がり、手をかざして一斉に黒い刃を突き立てるように降らせた。
「観測者の力…侮らないで」
メフィストは避けようとするが、空から降り注ぐ刃の雨が逃げ道を封じる。彼は防御の構えを取り、剣を振るって粒子の刃を防ごうとするが、その全てを払いのけることはできず、次々と体にかすり傷を負っていった。さらに、ルナは下からも粒子を生成し、床を貫くように複数の黒い柱を生み出した。
メフィストは驚愕した表情でその柱を見上げ、思わず後退した。しかし、その背後にはすでにルナが立っており、彼の視線をじっと受け止めていた。
「逃げるつもり?」ルナの声は冷たく、響き渡るように低く響いた。
次の瞬間、ルナは手のひらを前にかざし、空間に複雑な模様のような軌跡を描いた。それはまるで闇の印が浮かび上がったかのようで、その中から無数の粒子が湧き出し、さらに広がり始めた。
メフィストが振り返る間もなく、影のような黒い粒子が渦を巻いて彼を包囲し、その中で無数の槍が形成された。槍は光を吸い込むように鈍く輝き、メフィストに向かって突き刺そうとした。
「この力は、異常よ…!チートでも使ってるの?!」
メフィストは必死で剣を構え、次々と迫りくる槍を防ぎ続ける。しかし、槍の一つ一つが重く、彼の剣さえも軋むほどの圧力を伴っていた。やがて一瞬の隙を突かれ、槍の一つが彼の肩に突き刺さり、鋭い痛みが走る。
「ぐっ…!こんなバカな…!」メフィストはその場で膝をつき、苦しそうに喘ぎながらも立ち上がろうとするが、ルナは容赦なくさらに攻撃を仕掛ける。
ルナはさらに手をかざし、粒子を剣の形に変えた。そして、その剣をメフィストに向かって振るい、一瞬で距離を詰める。メフィストは辛うじて防御を試みるが、粒子の刃が彼の剣を受け止め、互いの剣が激しくぶつかり合った。
その刹那、メフィストの背後の壁が大きく裂ける。
驚きを隠せないメフィストを前に、剣を一瞬で消失させ、逆方向に跳び退いた。そして、瞬く間にまた黒い刃を生成し、それを何本も同時にメフィストに向けて発射した。
その刃は螺旋を描きながら飛んでいき、まるで意思を持っているかのようにメフィストに追尾する。メフィストは必死に剣を振り、刃を防ごうとするが、その鋭い攻撃の連打に次第に追い詰められ、足元が崩れ始める。
ついにメフィストは後退しながら体勢を崩し、地面に膝をついた。ルナの圧倒的な力に何もできず、ただ防戦一方に回るばかりだった。
「メフィスト…あなたの欺瞞もここまで」
ルナは冷たい目でメフィストを見下ろし、手をかざすと、巨大な黒い球体を生成した。その球体は渦を巻くように粒子を吸い込み、まるで暗黒そのもののように輝きながらメフィストに迫っていく。
「や、やめろ…!こんなもので、アタシが…!」
メフィストは恐怖に満ちた目で黒い球体を見つめ、懸命に防御の構えを取ろうとする。しかし、その力の前ではもはやなすすべもなく、圧倒的な力が彼を飲み込もうとした。
ルナは冷酷な一言を呟いた。
「これで、終わり」
その瞬間、黒い球体がメフィストに直撃し、周囲の物全てを巻き込み吹き飛ばし、完全に動きを止めた。