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第20話 激闘

しばらく進むと、見慣れた道のりが終わり、三人は広間に出た。そこは、城の玉座の間を彷彿とさせるほど豪華な造りだ。高い天井に鎖で吊るされた古いシャンデリア、壁に並ぶ石像、そして床に敷かれた長い赤い絨毯が荘厳な雰囲気を醸し出している。しかし、一つだけ異質なものが漂っていた。


――それは、ひどい腐臭。


まるで最近生き物が死に、腐敗し始めたような生臭い臭いが立ち込めていた。レイは思わず服の裾で口元を覆うが、臭いはなおも鼻腔を刺激し、不快感が消えない。


一方で、メフィストはその異常な臭いを全く気に留める素振りもなく、どんどん先へ進んでいく。その様子を見て、後ろにいたルナがさりげなくレイの手を引いた。


「これ以上ついて行かない方が良いわ…」


ルナの声はかすかに震えていた。その言葉には、明らかな警告が込められている。レイもまた、メフィストの異様な振る舞いに違和感を覚えていた。まるで何かに取り憑かれたかのように、彼は黙々と前進を続け、遺跡に入ってから一度もこちらを振り返らず、口を開くことすらない。


それに加えて、今まで一度もモンスターが出てこないのも不自然だ。昨夜、彼は遺跡の内部に潜むモンスターの話をしていたはずだが、それがまるで嘘だったかのように道は静寂に包まれている。


(もしかして、メフィストはこの遺跡の中を知っている?それとも…)


レイの頭の中で、不信感が少しずつ膨らんでいく。しかし、同時にもしメフィストが何か見えない力に支配されているとしたら、助けなければならないのではないかとも思えた。昨晩、一緒に食事をし、笑い合った彼の笑顔が偽りのないものだったと信じたい。


レイは静かにルナに言う。


「このままメフィストを追うよ」


ルナは驚愕の表情でレイを見つめ、声を荒げた。


「何言ってるの?!あまりにも危険すぎるわ!この遺跡が関わっているものだとしたら、あなた一人でどうにかできるような相手じゃない!」


それでもレイは力強く答える。


「わかってる。危険は承知の上だ。でも…なんとなく、行かなくちゃいけない気がするんだ」


レイの強い意志を感じ取ったルナは、少し間を置いてため息をついた。


ルナはレイに視線を向け、真剣な顔で言った。


「もし本当に危険だと思ったら、逃げるのよ。無理はしないで」


レイはその言葉に頷き、静かに「ありがとう」と言うと、ゆっくりと先を行くメフィストを追い始めた。


進むにつれて腐臭はますます強烈になり、嫌な冷気が肌に張り付くように漂っている。まるでそこには生気が一切存在しないかのような、どす黒い瘴気に包まれた空間だった。レイは不安に駆られながらも、腰につけた短剣に手を伸ばし、しっかりと握りしめた。


やがて、一際大きな台座が目の前に現れ、その前にはメフィストが静かに佇んでいた。レイはゆっくりと歩み寄り、声をかける。


すると、メフィストは振り返り、いつもの柔らかな口調で言った。「ここが一番奥みたいね。モンスターが出てこなかったのは拍子抜けだけど、お宝があるからまぁいいわね」


レイがさらに近づくと、メフィストは笑顔で台座にある宝箱を指さした。「これ、お宝じゃないかしら?きっとすごいものが入ってるに違いないわ。レイ、開けてみて」


まるで昨日までのメフィストがそこに戻ってきたかのようで、レイの緊張は少し緩んだ。彼女の明るい口調に少し安心し、レイは宝箱に手を伸ばした。


だが、宝箱の蓋を開けた瞬間、思いがけない光景が飛び込んできた。中には血まみれの臓器や、人間のものであろう頭部が無造作に詰められている。悪臭とともにその恐ろしい光景を目にし、レイは思わず腰を抜かし、後ずさりした。


「レイ!危ない!」背後からルナの叫び声が響く。


とっさに振り向くと、メフィストが狂気に満ちた笑顔を浮かべ、鋭い剣をこちらに向けて振り下ろしていた。気づくのが一瞬遅れ、剣先がレイの背中に触れると同時に、鮮血が飛び散った。


レイは痛みに耐えながら後方に飛び退き、咄嗟に二発目の攻撃を短剣で受け止める。だが、一撃目の傷は深く、HPの三分の二が一気に削られている。ルナの焦りの声が聞こえる中、レイは手元のポーションを取り出し、素早く飲み干した。


「メフィスト!なんでこんなことを!」レイが声を張り上げるが、メフィストは冷笑を浮かべるだけだった。


「悪いわね、レイ。あなた達にはここで死んでもらうわ…」


その冷たい言葉が終わると同時に、メフィストは猛然と突進してきた。その速さはレイの想像を遥かに超えており、目にも留まらない速度で攻撃を仕掛けてくる。何とか剣を構えて防ぐものの、メフィストの動きは同レベルのプレイヤーとは思えないほど鋭く、何度も攻撃をかわすのが精一杯だ。


ルナも隙を見つけて雷の魔法スパークを放つが、メフィストはまるでその動きを見透かしているかのように軽々とかわした。


「こいつ…、何かおかしいわ!レベルと動きが一致しない…!」ルナが息を切らしながら叫ぶ。


メフィストは楽しげに笑い声を上げ、「この力はあなた達なんかでは到底抗えないの。お願いだから、無駄な抵抗はやめて早く楽になりなさい!」と微笑む。


メフィストが突進してくる。レイは一瞬の判断でヴォイドウィーヴを発動し、黒い粒子を剣に纏わせる。短剣はみるみるうちに闇の剣へと姿を変え、黒いオーラが不気味に揺らめいている。


「これなら…!」


レイは一気にメフィストへ距離を詰め、剣を振り下ろす。黒い剣の刃がメフィストの剣とぶつかり合い、激しい火花が散る。二人の攻撃が激しくぶつかり合い、そのたびに広間の石床や柱が破壊されていく。だが、メフィストは余裕の表情を浮かべたまま、次々とレイの攻撃を受け流し、冷ややかな視線を送り続けている。


「その程度じゃ、アタシには通用しないわよ」


メフィストが一撃を繰り出した瞬間、レイは素早く後方に跳び退く。そして、距離を取ったままヴォイドウィーヴの力をさらに集中させ、剣先に黒い粒子を集めていく。黒い光が徐々に凝縮され、闇の弾となって形成されると、レイは一気にその弾をメフィストに向けて放った。


「これでも喰らえ!」


闇の弾は真っ直ぐに飛び、メフィストに迫る。しかし、メフィストは冷笑を浮かべたまま一瞬で避け、弾は背後の壁に激突し、爆発を起こした。粉塵が舞い上がり、広間の一部が崩れ落ちる。その破壊力に驚きながらも、メフィストはまるでそれが何でもないかのように再び距離を詰めてくる。


「無駄なあがきはやめなさい。そろそろ終わりにしてあげる」


再び剣を構えたメフィストが猛然と突進し、レイも黒い剣を構え直して迎え撃つ。黒い剣が光のようなスピードで振り下ろされるが、メフィストは軽々と躱し、逆に鋭い反撃を繰り出してくる。その一撃一撃が重く、レイは防御に徹するしかなかった。


「くっ、こいつ…強すぎる…!」


メフィストの攻撃を受け止める度に、黒い剣が弾かれ、地面が裂ける。レイも必死に応戦し、隙を見てヴォイドウィーヴで遠距離から攻撃を繰り出すが、メフィストは軽々と躱してしまう。疲労が重なり、呼吸が荒くなっていく。


「フレイム!」


ルナの火球がメフィストに向かって飛び、激しい炎が爆発を巻き起こした。だが、炎の中から現れたメフィストは無傷のまま微笑んでいた。レイは体勢を整え直しながら、短剣にさらに粒子を纏わせ、剣を漆黒の光で輝かせる。


「エンハンスボディ!」


力を限界まで引き上げたレイが、再び猛スピードでメフィストに迫る。剣が閃き、黒い刃がメフィストに襲いかかる。メフィストもそれに応じるように剣を振りかざし、二人の間で火花が激しく散る。


黒い剣の一閃がメフィストの足元を切り裂き、地面がぱっくりと裂ける。しかし、メフィストは驚いた様子もなく、冷ややかな微笑みを浮かべたまま次々と剣撃を繰り出し、レイを追い詰めていく。


「あなたの力、少しは楽しめるわね。でも、そろそろ終わりにしましょうか」


メフィストの剣撃が増し、ついには黒い剣をも跳ね返すほどの力でレイを押し戻す。エンハンスボディの効果も次第に薄れ、レイの動きが鈍くなっていく。最後の力を振り絞ってヴォイドウィーヴを放つが、それすらもメフィストは軽くかわし、最後の一撃を放ってきた。


「ここでお終いよ、レイ」


その言葉と共にメフィストの剣がレイの肩に深々と食い込み、レイは地面に崩れ落ちた。

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